中央大学公開研究会「視知覚における一過性信号の役割」

中央大学の人文科学研究所の公開研究会に参加してきました。
テーマは「視知覚における一過性信号の役割」で、講師は、九州大学ユーザーサイエンス機構の河邉隆寛さんでした。

視知覚における一過性信号の役割

一過性信号とは、高コントラストで突然発信される刺激性のある信号を指しています。小さな光の点滅だったり、音による刺激などがそれに相当します。

今日の講演では、一般に増幅効果と情報の重み付け効果があるとされる一過性信号が、アウェアネス(気づき)や事象知覚にどのような影響を与えるかについての研究結果が発表されていました。

Motion Induced Blindness

その中でMotion Induced Blindnessを扱ったものがありました。

人間の視野には実は重要な箇所に神経伝達域があって、死角があります(ちなみにイカの眼は人間とよく似ているものの、神経伝達域が眼球の外側にあるので死角がありません)。死角は普段は脳内で補完されているために気づきません。

このサイト(Motion Induced Blindness)にあるような画像で、真ん中の緑色の点を注視していると、まわりの黄色い点が消えてなくなります。
それが死角が可視化される瞬間というわけです。

このMotion Induced Blindnessにおける黄色い点の消失を、まわりに赤い円を表示するような一過性の刺激を与えることで、妨害することが可能かというのが実験されていました。

結果としては、一過性の刺激を与えることで見えなくなった黄色い点が見えるようになります。一過性刺激はアウェアネスに影響を与えているということです。ただ、その刺激には条件があって、赤い円の大きさやどの位置に刺激を与えるかによって、点の消失を妨害できるかが決まるそうです。

視知覚の時空間統合

また、一過性信号と事象知覚の関係についての研究結果も紹介されていました。

1つは運動物体の視知覚における時空間統合
下図のような軌道で動く2つの円が中央でクロスした際、そのまま2つとも真っ直ぐ通り過ぎるように見えるか、それとも、2つがぶつかって跳ね返ったように見えるかというケースが問題とされていました。時空間統合というのは、円が真っ直ぐ進むように知覚するよう脳が補完することを指します。

一般的には、円ではなく、棒のようなある方向性をもった対象だと、軌道に対して水平(つまり軌道方向が長い)の場合だと2つの対象は真っ直ぐに進んでいるように見えやすく、逆に軌道方向に垂直(つまり長い辺が軌道方向に対して直角)だと跳ね返ってみえるそうです。



これに対して交差地点で視覚刺激をあたえるとどうなるか?というのが実験されており、結果として、交差地点で刺激を与えると、跳ね返って見えやすい、つまり、視知覚の時空間統合が妨害されやすいという結果がでたそうです。ただし、これにも条件があって、軌道に対して水平(もしくは15度の傾き)まではこの妨害が起きず、真っ直ぐに進むと知覚されたままになるそうです。

デザイナーにぜひ興味をもってほしい

話は非常に専門的なところもあり、ところどころ言葉の意味がわからない箇所もありましたが、聞いていて、へーって思える内容でした。こういう研究会に出席したのははじめてでしたが、認知科学好きとしては、ぜひ、また行ってみたいと思いました。

あと、こういう人間がどんな風に認知をしているかっていう話は、ビジュアルデザインをやってる人にぜひ参加してほしいなって思いました。
人はあるものをそのまま見ているんではなくて、普段の生活に都合のいいように脳が補完しているものを見ていて、その補完が逆にあるものを見えなくしたり、実際とは違うように見せる(錯視)ことがあるのだっていうことに興味をもってもらえたらなと思いました。

このあたりの錯視の話は、前にも紹介した下條信輔さんの『「意識」とは何だろうか―脳の来歴、知覚の錯誤』でも詳しく紹介されていますので、興味のある方はぜひお読みください。
あと今日、いっしょに行った同僚が読んでいた『進化しすぎた脳』も似たような錯視の問題を扱っていいぇおもしろそうでした。こっちも読んでみようっと。

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