で、今日、気づいたのは「シチュエーション」って、まさにISO13407で定義されている「利用の状況の把握と明示」そのものだってことです。
ISO13407はユーザビリティに関する国際規格
ISO13407は、前に紹介したISO9241-11と並ぶユーザビリティに関する国際規格で、正式な規格名は"Human-centred design processes for interactive systems"(インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)です。「人間中心設計」という言葉を一度はお聞きになったことがある方もいるのではないでしょうか? 基本的には、この言葉はユーザー中心デザインと同義です。ISO13407が労働現場の仕組みも視野に入れていることで「ユーザー」という言葉よりも広義の「人間」という言葉を選んだのではないかといわれています。
人間中心設計プロセス
このISO13407では「インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス」という名が示すとおり、人間中心設計のプロセスが定義されています。そのプロセスの中に先の「利用の状況の把握と明示」が含まれているのです。そのプロセスは次のようなものです。
- 人間中心設計の必要性の特定
- 利用の状況の把握と明示
- ユーザーと組織の要求事項の明示
- 設計による解決案の作成
- 要求事項に対する設計の評価
これは直線的なプロセスではなく、以下の図のような循環的なプロセスとなっています。
システムのコンセプト(どのようなシステムなのか?)を最初に「人間中心設計の必要性の特定」で決定したあとは、最終的に「システムがユーザーと組織の要求を満たす」まで、4つのプロセスを繰り返すのです。
この方法を反復デザインと呼んだりもします。
ユーザー中心デザイン・プロセスを理解する
このプロセスにおいては、いわゆる設計は「設計による解決案の作成」の1つにまとめられているわけで、それ以外に最初のコンセプトを決める「人間中心設計の必要性の特定」を含めて4つのプロセスがあるわけです。これをみるとデザインにおいて実際に具体的なデザインを行なう作業は全体のプロセスの一部でしかないことがあらためてわかります。
他のプロセスをみると、まずはユーザーの利用シチュエーション、利用の仕方を把握する「利用の状況の把握と明示」が循環的プロセスの最初に来ます。これの具体的な方法としては、通常想定されるようなアンケートやグループインタビューではなく、前にも紹介したような「師匠と弟子」といった手法が用いられます。
この手法では、実際にユーザーに既存のシステムを使ってもらいながら、インタビュアーがユーザーの作業について確認を行なっていきます。これはあくまでユーザーが行なった動作の意図などを確かめるのが目的で、誘導するような質問は避けることが重要です。ここではあくまでユーザーの利用状況を把握するのが目的ですので、ユーザーの意見を聞くのが目的ではないわけです。
それから次の「ユーザーと組織の要求事項の明示」。これは先のインタビュー・データを元にした分析フェーズと捉えられます。調査で得られた事実から仮説を導くことがこのフェーズでの目的となります。
ユーザビリティ調査に限らず、リサーチ関係の現場では、よく
意見=事実+仮説
ということが言われますが、ユーザー中心デザイン・プロセスにおいては、この関係をそのまま、
設計=調査による事実+分析による仮説
と、置き換えることが可能です。
こうしたプロセスで設計したシステムを、「要求事項に対する設計の評価」のフェーズにおいて、昨日のアイトラッキングなども併用したユーザーテストによって検証を行ない、ユーザーのニーズと企業側のニーズをともに満たせたシステムになっているかを確かめるわけです。
ここでニーズが満たせていなければ、最初の「利用の状況の把握と明示」に戻るわけですが、ここではユーザーテスト自体がそのインプットになると考えてよいでしょう。
これがユーザー中心デザイン・プロセス全体の大まかな流れだといえます。
プロセス理解の重要性
ここで問題なのは、多くの場合、こうしたプロセスの重要性を理解せずに、デザインを行なわれていることが非常に多いということです。特に問題なのは、ユーザーの利用状況を把握しないまま、デザインを行なうことで、これが昨日指摘させていただいたシチュエーションが大事だということにほかなりません。ユーザーの利用状況を把握せず、最悪の場合、システムのコンセプトさえ明確になっていないまま、ただ、意味もわからずユーザビリティを向上させたいと要求される場合もあるでしょう。
しかし、その要求を聞いて、必要なプロセスを経ずに自身の経験や勘だけでデザインに入ったのでは、ユーザビリティの向上など、ある程度のレベルまでしか実現できるわけがないのです。
もちろん、このプロセス自体、先にも書いたとおり、循環的なプロセスとして描かれており、継続的な改善を想定したものとなっています。ですので、Webサイトの場合などであれば、プロセスを一巡した段階で公開し、実際の運用の中で得られるデータ(アクセスログ解析やユーザーからの声)をインプットにして改善していく手法もとれます。
しかし、それが可能になるのもあくまでこのプロセスを理解した上ではじめてそうなるのでしょう。
そのくらい、このプロセスの理解は重要だということだと思います。
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