2013年01月09日

「完成品」より「未完成」であることが大事

僕自身も最近つくづく実感として感じますが、いまって、何か新しいものごとを創造する知的創造分野の仕事って、業界の違いや規模の違いが意味をなさず、あらゆる形のプレイヤーが競合するようになってきていますよね。



ほかにもそう感じている人はいないでしょうか?
大企業とベンチャーが競合するだけでなく、個人だって容易に企業組織に競合できるようになっていますし、大学のような教育機関や自治体やNPOだって競合する機会も増えてきているのを僕なんかは肌感として感じずにはいられません。

そうなる理由はカンタンに理解できます。
基本的な方法論やノウハウの取得なら短期間・低コストで可能になってきているのが1つ。
それから、創造作業の大事な部分を担うプロトタイピングや開発のコストも昔とは比べられないほど安くなったというのもあるでしょう。

とにかく新たにプレイヤーとしてゲームに参加する際のコストがきわめて低くなり、ほとんど参入障壁らしいものがなくなっているのですから、こういう状況になるのは当然です。
しかも、イノベーションを求める需要のほうも確実に高まっているわけですから。

機械論的システムと生態学的システム

もちろん、こうした業界の違いや規模の違いがきわめてあいまいになり、参入障壁がどんどん低くなりはじめているのは、「知的創造分野の仕事」に限らないでしょう。
MAKERSブームが示すように、これまで比較的参入障壁が維持できていた製造分野でもおなじことが起きはじめているのだと思います。

さて、僕が、ここでポイントだと思うのは、この状況を
  • 「市場における競争が激化してきている」とみるか、
  • 「組織の枠を超えて他のプレイヤーと共創するチャンスが増えている」とみるか、

ということです。

前者ととらえるか、後者ととらえるかの違いを生みだす前提となる価値観は、

  • 「自分(たち)が何をつくりだし、それをいかに売って利益を得るか」ということを重視するか、
  • 「自分(たち)をうまく使ってもらうことで、自分(たち)も参加するネットワーク環境全体の利益をどう最適化するか」を重視するか、

の違いであるように感じています。

前者は旧来型のクローズドで機械論的で予測可能性を前提としたシステムの世界であり、後者はオープンで生態学的な複雑さをもつがゆえに不確実性も高い予測がきわめて困難なシステムの世界です。
自分がどちらの世界に生きていると認識しているか、そして、これからも生きていこうと考えているかという世界観の違いによって、いまこの参入障壁が極端に低くなった開かれた市場環境で、

  • 圧倒的な競争優位性を維持して単独で勝ち残ろうとするか、
  • それとも、オープン・イノベーションのような戦略を採用することでほかのプレイヤーとの共創関係をつくりエコシステム全体の持続可能性を高めることを目指すか、

が決まってくるのではないでしょうか?

2つの世界観の対立

僕は、この世界観の違いによる対立は実はここ十数年ずっと続いてきているものだと考えています。
インターネットの社会への浸透と同時に、この対立は表面化してきていて、かつ、徐々に後者の勢力が大きくなってきているという傾向があります。

それゆえ、この世界観の対立はある意味では、インターネット以前インターネット以降の世界観の対立でもあると考えてよいと思っています。
個々人がどちらの世界観をもって生きるかというときにも、人それぞれの思考がインターネット以前とインターネット以降のいずれによりフィットした形になっているかが強く影響しているはずです。

なので、この対立は根気づよい説得だとか、わかりやすい説明だとかでなくなるものではないのでしょう。だって、体験を通じて慣れ親しんだ脳のなかの世界観を、説得だの説明だので、そうカンタンには変わるはずがないのですから。
おまけにこれだけインターネットが日常に浸透し、自身も日々インターネットを使わずには生活できない状況に追い込まれていてなお、インターネット以前の世界観から抜け出せずにいるのですから、体験を通じた世界観の変更さえ望むことがむずかしいのかもしれません。

かといって、このまま、この対立がずっと続くとも僕は思っていません。
いまの傾向が続けば、自分がオープンな世界に生きていることを当たり前に思うインターネット以降の世界観をもった人のほうが圧倒的に多くなるのは時間の問題なのですから。

完成品を等価交換する従来モデル/未完成のものを互いに出し合う価値共創のモデル

この2つの世界観の対立の解消にあとどの程度時間がかかるのか?というのは確かに気になることではありますが、それ以上に気にした方がいいと思うのは、後者の世界観におけるシステムが徐々に社会的なシステムとしても整備されていくなか、従来のように完成品としてのアウトプットを交換することを前提とするような経済文化モデルを信じることはあらためる必要があるという点です。

完成品を交換する経済文化モデルというのは、単純化すると、持つ者と持たざる者とのあいだで固定した価値を交換しあうことを想定しているのだと思います。
商品をもつ者が持たない者に対して、商品価値と等価な代金さえ支払えば商品をその対価と交換で提供するというモデルです。

けれど、共創モデルが前提としているのは、そうした異なる2つの価値を等価交換するモデルではないはずです。

価値共創のモデルでは文字どおり、異なる両者がたがいに協力しあうことで、両者にとってともに意味のある価値を生みだすことが目指されます。
甘い蜜を出すアブラムシの体を嘗めるアリが同時に、アブラムシの体が掃除になるといった自然界での相利共生の例と同じように、異なる者同士がたがいに自分のできることをすることで結果的に両者にとっての価値が生みだされる形を理想とするのが価値共創のモデルです。



「完成品」より「未完成」であることが大事

そんな価値共創のモデルではそもそも交換を前提とする必要がないので、交換すべき完成品も必ずしも両者が出会う場で用意されている必要はありません。

完成品としての製品が必要ならいっしょにつくろうというのが共創のモデルです。
例えば、両者がともにおいしいものを食べることが目的なのであればかならずしも完成品としての料理が提供される必要もなく、それぞれが自分が好きなものを作れる食材や道具などが共有されればよいのです。

さらにいえば、単に完成された料理を提供されるのとは違って、ともに料理をつくるという途中のプロセスを共有できることは、両者に大切なつながりをもたらしたりもするのではないでしょうか? お金と商品の交換ではそうそう生みだされない心地良いつながりが…。

オープンな共創の場を用意しようと考える場合、この心地良いつながりが生みだされることを促進するような形で、そのプラットフォームを用意することが大事なのではないでしょうか?

昨年の11月に参加させていただいた奥入瀬&十和田でのネイチャー×アーツキャンプの主催者でも藤浩志さんがこんなことを書いています。

完成された場にはそれを享受しようとする人が集まるが、まだまだ未完成で「これから何かが起こりそうな場」には行動を促す主体性のある人たちが集まってくる。まちづくりの現場では、そのような状況をいかにつくるかが大切なのだと思っている。

実際、僕自身が11月に参加したキャンプはまさに"まだまだ未完成で「これから何かが起こりそうな場」には行動を促す主体性のある人たちが集まってくる"場でした(キャンプについては「アート×自然の力で地域を元気にする:奥入瀬ネイチャー×アーツキャンプ2012参照)。


▲奥入瀬&十和田でのネイチャー×アーツキャンプの公開プレゼンテーションより

最初はどうなるのかまったく予想がつかない状況だったのが、キャンプの終盤では参加者の一体感が生まれていました。
しかも、一体感がありつつも最後のプレゼンテーションで各自が発表した内容はそれぞれの独立性を維持していて、1つの価値が生まれたというより、複数の価値が生まれたことで大きな共創的な価値も同時に発生しているといったような、従来の1つの目標に向かってみんなが分業で進めるプロジェクトのあり方とはまったく異なる価値創出の方法だと感じました。

オープン・プラットフォーム化に必要なもの

最初の話に戻すと、参入障壁がきわめて低くなり、従来では考えられなかったようなプレイヤーが混在する市場においては、これまでのようにそれぞれの組織のなかで完結する形で、完成形としての価値を創出するというモデルでやっていくのはどんどんむずかしくなってきているのだと思います。

だからこそ、オープン・イノベーションのように複数のプレイヤーが共創できるネットワークが生まれるようなプラットフォームをつくる方向にシフトしてきているのだと思いますが、そのオープン・プラットフォーム化を進める上で大事なのは、やはり完成品ではなく、未完成なソース(あるいはリソース)自体をフリーに共有できるようにすることなのだと思います(「完成形ではなくソースデータが提供/入手される市場環境」参照)。

そして、その共創のプラットフォームのうえで生きる個々人は、従来のように完成品だけを扱えたり評価できたりするだけではダメで、未完成なソース(リソース)を扱い、評価できる力をもつことがより求められるようになるのでしょう。

そんなことを考えながら、これからの共創のプラットフォームのあり方や個々人のもつリソースの検索性をどうするかといったことなどを今年は実践的に考えていければと思っています。



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posted by HIROKI tanahashi at 19:47| オープンイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする