間接民主主義から直接民主主義へ

不可視な結びつき、匿名のアイデンティティ」から「Wisdom of Crowds によって構成される自己」へ、そして「岩壁に絵を描きはじめる前と後の違い、ということで」に展開したWisdom of Crowdsうんぬんの話を「間接民主主義から直接民主主義へ」という空想に落としこんでみたら、どうでしょう? いや、政治の話とかじゃなくて、もうすこし人々の暮らし全般をカバーするものとして。

代表制による知、専門家による知

Wisdom of Crowds に対置されるのは、例えば、専門家による知だと思うわけ。実際、原本ともいえるジェームズ・スロウィッキーの『「みんなの意見」は案外正しい』でも、そのようなストーリーが展開されていましたよね。専門家による知というのは、ある意味では、代表制みたいなものかなと思うわけです。

いや、もちろん、本当は何も代表していませんよ。専門家は。しかし、世の中的には何かを代表しているかのように扱われる。しかも、実際のその人の専門領域を超えた拡張された範囲においてまで。そして、『「みんなの意見」は案外正しい』でもあったように、その範囲の拡張が専門家による知をあやうくさせてしまう。ここがまぁ、問題とされるわけでしたよね。ようするに、専門領域そのままでは、全体をカバーできないわけです。必ず隙間ができて、そこに対する何らかの知が求められてくるということですね。

賢い集団の4つの条件

で、その隙間を埋める手段としても、有効ではないかという提案が、スロウィッキーのいうところの Wisdom of Crowds だったのかなと思います。

スロウィッキーは、賢い集団の特徴である4つの要件として以下をあげていました。

  • 多様性:それが既知の事実のかなり突拍子もない解釈だとしても、各人が独自の私的情報を多少なりとも持っている
  • 独立性:他者の考えに左右されない
  • 分散性:身近な情報に特化し、それを利用できる
  • 集約性:個々人の判断を集計して1つの判断に集約するメカニズムの存在

この4つの要件を満たした集団は、正確な判断が下しやすい。なぜか。多様で、自立した個人から構成される、ある程度の規模の集団に予測や推測をしてもらう。その集団の回答を均すと一人ひとりの個人が回答を出す過程で犯した間違いが相殺される。言ってみれば、個人の回答には情報と間違いという2つの要素がある。算数のようなもので、間違いを引き算したら情報が残るというわけだ。

と述べていました。

これみると、昨日まで話題にしていた「ゆるやかなつながり」という意味をもうすこしきちんと捉えておかなくてはいけないなと思いました。ようはつながっていても、そこでは「多様性」「独立性」「分散性」が維持されていなくてはいけない。かつ、それを集約できるしくみがなくてはいけない。これ、結構、ハードル高いですよね。

とはいえ、それが「賢い集団」による直接民主主義的な知の条件となるわけです。そこでは何者もほかのものを代表しないわけです。

どう実現する?

これ、どっちなんでしょうね?
この条件では、個の顔がより明確になるのか? それとも、個々人の顔はよりベールに隠され、すべてが匿名的になるのか?

後者だとすると、それはなんか多数決と変わらない気がします。もちろん、定量的なだけでなく、定性的なデータ処理もされるのかもしれませんが。
かといって、前者だと、やっぱり「多様性」「独立性」「分散性」が維持しづらい気がするんですよね。特にデータ集約の過程が可視化されていたりすると、ある意味での人気投票みたいな形は避けられないでしょうし(はてブやその他ランキングのように)、必ずブランド力みたいなものが関与してくると思います。

あるいは、データの集約自体は、事後的に行なう方法でしょうか? 梅田さんが読者の感想を集めたような形で。これもはっきりしたテーマが存在していて、かつ、そのテーマ自体がある程度のブランド力をもっていて、人々の関心を集めている限りにおいてしかうまくいかないと思います。そうなると、そこにまずバイアスがかかりそうですよね。

また、そういうバイアスだとか偏りみたいなものは、環境がフラット化するほど、顕著になってくるのではないかと思うんです。ある程度、コントロールされた環境においては、いわゆる正規分布に近い分散になるのかもしれませんが、そのコントロールがなく制約が少なくなればなるほど、分散はベキ分布の様相を呈するのではないか、と。つまり、ロングテール化してしまうのではないかという気もします。このあたりが Wisdom of Crowdsうんぬんの話とどう関わってくるのか?とも思います。

自分の殻から抜け出て、まともに考えはじめると、結構おもしろい問題ですね、これ。

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