要求開発の必要性:ちょっと間が抜けすぎじゃない?

これは僕自身が書いていることとも重なりますので、個別にみるとそれぞれ正しいことを言っていると思います。

そして、会社全体が強く結びついた上でビジョンの共有なくしては真の企業ブランディングはありえません。ウェブはそのための一つの要素として有効に機能するのです。

これは僕も「間違っても人様の会社のブランドをつくることができるなどと勘違いしないこと」だったり、「ブランドのつくりかた:1.シックスシグマを使う」だったり、「ブランド経営のむずかしさ」で書いてることですよね。

それから、これも正しい。

イントラブログは社内スタッフ間でナレッジやビジョンを共有をする際には非常に有効に働くツールですが、導入前にまず課題を明らかにする「計画フェーズ」、明らかになった課題と現状にどれだけギャップがあるのかを明らかにする「調査フェーズ」、目的を達成するための運用を行うのに必要なプロジェクトチームとルールを作成してからの「実施フェーズ」、そして狙い通りの運用が行われているかの「検証フェーズ」を予め想定し、スケジュールを立てた上で導入しないといけません。

これは会社のほうのブログ「企業内コミュニケーション」で書いてることにも近いですし、まぁ、ツールの導入時には基本的なことですので、正しいと思います。

ビジネス課題とWebをつなぐ言葉

でも、です。

この2つには明確なつながりが欠けています。
企業におけるブランディングの話から唐突に、イントラネットというツールの話に飛んでしまっている印象はぬぐえないと思います。
Webを仕事にしている人にとってはつながるのかもしれませんが、それ以外の人、特にここで対象とされるような経営者にとっては、なんでその話とイントラの話が直結するか、謎なわけです。

もちろん、これはよくある話でビジネスとWebの話のつなげ方って大体こういう唐突な感じになります。また、Webだけに限らずIT系のツールのマーケティングでもそうですね。最近だと「日本版SOX法」だとか「内部統制」という話がほとんどのIT系のツールに結び付けられて売られていたり。

1ヶ月くらい前のエントリー「事業会社にとってのWeb2.0:その2.Web構築・運用は企業経営の縮図」で僕は、こんなことを書きました。

企業においてWebは重要なツールだと認識さえはじめていたり、月間100万訪問を超える企業サイトがあらわれていたりという中で、いまひとつ企業経営とWebの活用というのがちゃんと結びついていないというのが最近すごく感じる印象です。とても表面的なところだけで「Webをビジネスに」と言ってしまっている気がするのです。

そして、その理由として「経営の言語とWebやITの言語を結びつけるインターフェイスの部分が非常に弱いのだなと思っているわけです。そのインターフェイスとなる言葉が必要なんだなととても感じるところです」と書き、そこから、経営やビジネス課題と、Webというツールをつなぐインターフェース(API)として、シックスシグマやバランス・スコアカードが有効だという提案をこのブログでも書き記すようにしています。

要求を開発する上流工程という媒介

繰り返しますが、上に引用させていただいたエントリーも僕みたいなWeb屋が読めば、ある程度は納得がいきます。
それでも、やはりビジネス課題とWebというツールを媒介する中間的な課題抽出と解決策を計画する定義のプロセスがないと、実際にはうまく導入したツールが機能しないと思っています。

先の例でいえば、差別化の手法としてのブランディングを、イントラネット導入の計画フェーズで、いかに自社のコアプロセスにおいてブランドの差別化要素を生み出すプロセスとして導入するか、また、そもそもにおいてイントラ導入が現在ある課題解決のベストな解決策なのか、もし、そうだとするなら、ビジネス課題を背景としてイントラ導入の目的、導入による成果目標、あるいは、導入によるプロセス改善あるいは再設計の範囲、その他制約条件や前提条件などをきちんと定義した上で、実際の計画に進まなければ、課題とツールには大きなギャップが存在したままになるでしょう。

そうしたビジネスとWebツールの間の深い溝を埋めるための上流工程での要求開発の手法をきちんと身に着けることが、現在のWeb開発関連サービスの提供時におけるもっとも大きな課題だと思っています。

Web開発から要求開発へ

そもそも、この話と同様のことを書いた「事業会社にとってのWeb2.0:その2.Web構築・運用は企業経営の縮図」というエントリーでは、主にWebマーケティングについて扱っていましたし、最近、書いているブランド関連エントリーでもそうですが、結局、現在のWebマーケティングだとか、Webブランディングも非常に表層的なものに終始してしまっていて、なんでもかんでもツールの導入の話や、SEOだのSMOだの手法の話に陥ってしまうという同じ課題を抱えていると思っています。

顧客企業が本当に望んでいるのは、自分たちのビジネス課題の改善であって、Webの活用そのものではないはずです。
しかし、顧客企業のほうもWeb担当部門が外部の業者と話す場合、どうしても最終アウトプットとしてのWebそのものにはじめから話をもっていこうとしてしまう傾向もあります。
そこは「Webサイトをどうつくるかを決めるのはWeb屋でなくビジネス」で書いたようにWeb屋の側が、うまくWebの改善の話からビジネス改善という本来語るべき話のほうにもっていけるスキルをもっていればいいのですが、それもここまで見てきたとおり、Web屋にその媒介を行なうための確固としたスキルがないという現状もあるわけです。

システム開発の分野では「要求開発」という言葉がありますが、Web開発においてもWebそのものの開発の前に、要求開発という上流工程が必要だと感じています。
それは先に述べたように、Webがますますビジネスにおける重要なツールとして認識されているからです。そして、顧客企業の要求を正しく読み取り、ツールそのものではない、適切な改善策を提案するのはWeb屋のスキルとして当然求められてくることだと思っています。

まぁ、このあたりの話を昨日「デブサミ2007「Webサイトの提案に困っていませんか?」」でも告知をしました「Webサイトの提案に困っていませんか?~ 経営課題とWebサイトをきちんとリンクさせる7 の手法 ~」ではお話しようと思っています。
ぜひご興味のある方は参加いただき、皆さんのご意見などもセッション終了後にでもお話する機会でもあればと思っています。

Developers Summit 2007 マーケティング・テクノロジー・セッション

セッションタイトル
Webサイトの提案に困っていませんか?
~ 経営課題とWebサイトをきちんとリンクさせる7 の手法 ~

日時:2007年2月14日17:40~18:30
場所:目黒区雅叙園

と、最後は告知で終わってみました。

関連エントリー

 

この記事へのコメント

  • goodman

    トラックバック有難うございます。まさか棚橋さんのブログで取り上げて頂けるとは光栄です!

    はてぶでは書けなかったので捕捉として。

    ご指摘のとおり、「ちょっと間が抜けすぎ」なのです。
    そして、いきなり時流に乗ろうとしてブランディングぅ、よっしゃーイントラ+ビジネスブログいくぞー。と意気込んで、いきなり飛躍して導入してしまう中小企業経営者(特にウェブ関係)の方が結構多いのも事実なのです。するとどうなってしまうのか。。。

    これは私のブログにも書いたように、面白い程、「その会社が抱えている問題が浮彫りになります」。
    つまり社内で抱えているコミュニケーションやナレッジマネジメント不足を一気に解消できて、ブランディングにまで寄与するのかという思いで勇んで導入したものの、イントラブログの利用状況は、抱えていた問題がそのまま投影されるだけなのです。
    使う部署はガンガン使うし、使う人はガンガン使うし、使わない人はまったく使わないといったような←ほんとはこの人にこそ使ってもらいたのに。

    このエントリーは、逆に十分な準備を怠ったままイントラブログをはじめてしまう中小企業経営者の方を想定して書いたベンチャー企業を創業して間もない私の体験談でもあるのです。

    イントラブログを導入してビジネス課題の解決を図りブランディングまでしたいのなら、十分に社内のスタッフに説明をしてからにして下さいね、ということが伝えたかったのです。

    そしてこういった領域は棚橋さんもご指摘されているのと同様、ウェブ屋の範囲を超えており、特に我々のような小さなウェブ屋の看板では行うことが難しいために経営コンサルティングをされている企業と協業して行っていこうと考えいるのです。

    ちなみこのエントリーはリンクアンドモチベーションの小笹社長の成長期にある企業の病気に関する言を受けて書いたものです。
    2006年12月17日 00:52
  • tanahashi

    goodmanさん、コメントありがとうございます。
    goodmanさんがあのエントリーを書かれた意図は僕にはとても共感できます。

    Web屋が自分たちでやるにしても、ビジネス課題を具体的なWebに落とし込める経営コンサルがやるしても、ビジネスとWebをつなぐインターフェイスが何かしら必要だろうとは言えると思ってます。
    経営コンサルが間にはいってもそのインターフェイスがなければ、話をしてくれるのが経営者直接なのか、あいだに経営コンサルが入るかという違いだけになってしまうと思いますから。
    2006年12月17日 01:31
  • goodman

    棚橋さんの仰るインターフェイスは間違いなく必要だと思います。

    実際に我々はBSCを採用し、ボトムアップで、ということで全社員アンケートから初め今我々が抱えている経営課題を明らかにした上で、ある部分(ナレッジの共有や職種に応じた現在あるべき評価基準等々、そしてそれを皆でバージョンアップしていくことを)を効率的に行うということでイントラブログの利用方法を再び設計しなおしました。

    我々がした回り道を多くの企業がしないですむようになれば良いなと思います。中には回り道をしていたら、そのまま道に迷ってしまい、完全に道を見失っている企業もあるようなので。。。

    我々のクライアントでいえば、超大手企業の場合は情報共有や活用といった意味合いでイントラブログを導入されます。期待効果や予算、運用体制、そして弊社のサポート体制等はクライアント側から提示され、それを実現するためのシステム改修や機能追加を要望されます。家電の超大手メーカー等は来たるデジタルテレビ時代における放送と通信の融合を見据えた上でイントラの活用を考えておられたりします。(話が大きすぎて我々にはなんともなりませんでしたが)
    要は非常に優秀なので論理の飛躍は起こりにくいということです。まぁ、ブランディングをウェブだけで行うなどとは夢にも思っていませんし。(もうすでにブランド持ってますから対象外かも知れません。)

    中小企業はまったく逆で、勢いで導入しちゃったりします。
    Lotas Notesや社内wikiが利用されなくなるのは使いにくいからでイントラブログは使いやすいから大丈夫でしょ。なんて短絡的な考えが多いように思います。こういった企業はなんとかしてあげなくてはいけません。経営コンサルとはまさに企業の抱えている問題を明らかにし、その企業がやるべきことや、やりたいことを出来るように整理してあげることだと思います。そして企業の経営者や役員を並べてこうしなさいとやりたい場合は、看板の力がよく効いたりもするのです。経営コンサルティングの会社はこのことを良く知っており、経営課題の解決手法もたくさん知っています。(最近ネットには興味津々ですが。)

    最後に、恐れ多い話ですが、棚橋さんがお考えのことと私の考えていることは、思考のレベルや主に対象としているクライアント企業の規模の違いが大いにあるにせよ、本質的には近しいものだと思っております。

    だとすれば(勝手に^^;)我々(ここでいきなりWeになりました)にとっての課題は、この事例や実績の少ない分野で、どうやって多くの方に我々の知っていることや考えていることを効率的に伝えるかだと思います。
    こういうことを個人のブログではなく、興味のある方々で話し合い易いような公益のためのトラフィックの多いソーシャルメディアって無いんでしょうか?
    2006年12月17日 16:21
  • tanahashi

    goodmanさん、

    >この事例や実績の少ない分野で、どうやって多くの方に我々の知っていることや考えていることを効率的に伝えるかだと思います。こういうことを個人のブログではなく、興味のある方々で話し合い易いような公益のためのトラフィックの多いソーシャルメディアって無いんでしょうか?

    ないですよ。
    だって、そういう成功事例は誰もが伝えたがってるわけです。
    だから、みんな、マーケティングを行なおうとしているとも言えると思います。
    それぞれが自分たちの思いを伝えようとしています。それぞれが工夫をして。
    誰もが効率、トラフィックを求めています。だからこそ、それが簡単に可能になるメディアなんてない。多くの人が自分たちのことだけを聞いてほしいと思うのだから分散するんです。

    伝えようと思えば、自分たちの力でそれこそメディアを作っていくしかないんでしょうし、ある期間のトラフィックが少ないのなら、少ないものを蓄積できるよう継続的に同じメッセージを発信していかなくてはならない。それは企業内でも同じですよね。簡単にトップの意見が社内全体に伝わることはないし、逆に下の意見が伝わることもない。こだわるのであればいい続けなくてはいけない。

    イントラとが外部向けという違いはあってもそれこそ、情報伝達、情報の共有の基本じゃなかったでしょうか?

    2006年12月17日 17:15
  • goodman

    有難うございます。僕も学びながら考えたことを発信し続けていきます。
    頂いたこのコメントを忘れないようにしながら。

    >簡単にトップの意見が社内全体に伝わることはないし、逆に下の意見が伝わることもない。こだわるのであればいい続けなくてはいけない。
    2006年12月18日 11:57

この記事へのトラックバック