デジタルという単語は、指を意味するラテン語のdigitusに由来する。デジタル記号の重要な点は離散的であるということである。それはちょうど5本の指が互いに間隔を開けて離れているのと同じである。ジェスパー・ホフマイヤー『生命記号論―宇宙の意味と表象』
なんとなくデジタル記号というのは、連続的なものだという印象をもってました。連続的というのは、どこまで細かく分割していってもつながってるという意味で。
デジタル記号
そんな風に思ってたのはきっと、実数には無理数というものがあるってことが頭にあったからだと思います。有理数は無限にありますが、無理数の無限は有理数の無限よりはるかに多い。そのことはピーター・アトキンスの『ガリレオの指』で知りました。
自然数、整数、分数などを含む有理数は有限だが、自然対数の底 e や円周率 πなどの無理数は無限に存在します。そうであるがゆえに有理数が夜の空に輝く星だとすれば、無理数はそのあいだの暗闇にたとえられます。その宇宙の暗闇にまばらに散らばった存在でしかない有理数を用いて、数を数えられるのはほとんど奇跡に近いというわけです。
数字の1-2-3-4-5や英語の単語がそうであるように、必ず区切りが間に入っている。音楽における音譜も同じである。ジェスパー・ホフマイヤー『生命記号論―宇宙の意味と表象』
その意味で無理数を含めた実数には区切りがないといえるのかもしれません。そして、それは区切りがないという意味でデジタル化不可能ということなのでしょうか。
有理数だけなら暗闇に輝く星のように区切りがあります。それがどんなに無限にあるとしても。デジタル化可能な数字は有理数のみということになるのでしょうか。
アナログ記号
一方でデジタルではないアナログな記号はどうなのでしょうか?記号の内、圧倒的多数はアナログである。それはアナログの記号がその記号を表す基体との間に何らかの類似性(アナロジー)を伴っているからである。ジェスパー・ホフマイヤー『生命記号論―宇宙の意味と表象』
デジタル時計がデジタル記号である数字を用いて時間を記述するのに対し、アナログ時計は地球をまわる太陽の見た目の動きを模したもの(アナローグ)です。
そして、僕たちにとって最も身近なアナログ記号は自分自身です。
DNAは生体のデジタル化された自己記述であるというより、むしろ生体のほうがDNAのアナログ化された自己記述とみなされるべきではないのか。ジェスパー・ホフマイヤー『生命記号論―宇宙の意味と表象』
リチャード・ドーキンスが好んで使う「遺伝子はレシピである」というたとえを思い出すと、僕たち自身がDNAというレシピの模倣としての創作料理であるのもなんとなく納得できる気がします。
誰のためのIAなのか?
しかし、僕たちが自分たち自身を「僕たち」と認識したとき、再び僕たちはデジタル化されます。それは僕たち自身がDNAというデジタル記号を用いて遺伝を子孫に伝えるのと同じことでしょう。ただし、僕が「僕は・・・」というのを聞く際、あなたはその「僕は・・・」をデジタル記号のまま捉えるというよりも、僕のアナローグとしてその言葉を翻訳して理解するのではないでしょうか。
あなたは僕にInformation Archtecture)を見る。もちろん、無意識的に。
そう。この僕はInformation Archtecture。
問題は「誰のためのIAなのか?」です。
そして、その「誰かはどんな風に世界を見て、どんな風に生き長らえているのか?」です。ここで「世界」だとか「生き長らえる」などという言葉を使ったのは少々唐突に感じられるかもしれません。
すこし前の「考えることのより根本的なレイヤー」というエントリーにnoriyoさんからこんなコメントをいただきました。
おそらく、「考える」ということの中心にあるのは、そのようなパターン思考をベースにした「シミュレーション能力」だろうという気がします。頭の中で、さまざまな仮説検証を高速に繰り返すようなイメージですね。
だから、そのツールは言語ではなくたとえば映像だったり感覚だったりすることもあるでしょう。
(中略)
なので、言語はやはり1つのツールに過ぎないのかなーと、そんな気がします。
ただし、言語によって思考が限定されるというのも事実だと思いますので、その影響は無視できませんね。
言葉による思考は確かにデジタルでそうであるがゆえに「限定される」のだと思います。しかし、言葉で考えた自分の思考を聞く自分は実はデジタル記号をアナログ記号として受け取っているのではないかとも感じるわけです。僕の言葉をあなたがそう受け取るのと同様に。
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