シックスシグマ・ウエイ―全社的経営革新の全ノウハウ/ピーター・S・パンディほか

この本で扱われているシックスシグマに関しては最近何度か紹介しています。
これまでお持ちのシックスシグマのイメージ(特に製造業で使われるといったイメージ)が随分、やわらげられ、むしろ、サービス業やブランド構築などの分野でも活用が可能な経営革新ツールであることがなんとなく理解いただけたのかなと思っています。

実際、ここで何度か紹介してみて、すでにこの本自体、amazonのアフィリエイトで今日までの段階で6冊売れています。もしかしたら、この手の本にはあまり興味をもたれないかなと思っていたので、少々意外でした。でも、買っていただいた方には、シックスシグマというイメージとは異なるマーケティングだとか、ブランディングだとか、Webのビジネスの活用だとか、そうした自由なイメージで読んでもらえるとよいのではないかと思っています。

シックスシグマの6つのテーマ

この本には、シックスシグマの6つのテーマとして以下の6つがあげられています。

  1. 徹底的な顧客重視
  2. データ主導、事実主導の経営管理
  3. プロセスの重視、管理、改善
  4. 能動的な経営管理
  5. 境界を越えた協力体制
  6. 完璧を目指しながら失敗を許容する

最初の「徹底的な顧客重視」に関しては、「ブランドのつくりかた:1.シックスシグマを使う」や「ブランドのつくりかた:3.顧客インサイトを把握する」といったエントリーで、SIPOCダイアグラムや特性要因図などのシックスシグマ・ツールも紹介しながら説明してきました。3番目の「プロセスの重視、管理、改善」に関しても同時に紹介できたのかなと思っています。
2番目の「データ主導、事実主導の経営管理」に関しては、このブログであらためてシックスシグマについて書こうと思ったきっかけのエントリー「マーケターの失敗につながる3つの能力欠如」でも書いたように、現在のマーケティングが有効に活用できずにいる、ERPやCRM、SCMをはじめとするITシステムを有効に利用するためには、顧客視点で、プロセス重視で、データを経営管理として活用するシックスシグマのフレームワーク導入が有効であると思っています。でないと、どんなに高価なITシステムを導入したところで「目的が不明瞭な調査ほど無意味なものはない」となるのがオチでしょうから。

能動的な経営管理

4つ目の「能動的な経営管理」に関しては、ようするにデータ主導、事実主導の経営管理が可能になることで、企業経営におけるシミュレーション能力が一段と高まり、事が起きてから対処する自転車操業からの脱却を可能にするということです。

本来「能動的」とは、事態が起こる前に行動する姿勢、つまり「受動的」と対極にある姿勢を指す言葉である。だが「能動的」経営管理と言った場合は、新たな「習慣」を生み出すという意味合いが強くなる。こうした習慣は、意欲的な目標設定と頻繁な見直し、明確な優先順位の設定、事後的な消火活動よりも問題予防的な行動の重視、「いかにして行動するか」という現状維持的な発想に代わり、「なぜ」この活動が必要なのかを自問すること、といった軽視されがちなビジネス・プラクティスから成っている。
ピーター・S・パンディほか『シックスシグマ・ウエイ―全社的経営革新の全ノウハウ』

個人であれば自分の活動を「受動的」なものから「能動的」なものに変化させることも、意欲しだいでどうにかなります。しかし、組織ともなるとなかなかそうはいきません。
上の引用にもあるとおり、シックスシグマではこれを「習慣」化させることで可能にします。つまり、個人の場合、意欲からそれが次第に習慣化させるという結果論的な道筋を、組織においてははじめから「習慣」化を通過地点と設定することで、能動的経営管理への移行を可能にしてくれるというわけです。
もちろん、それが可能であるのはプロセス重視、事実重視の姿勢とそれを実現する多数の測定、分析ツールが用意されているからで、意欲という精神的なものに頼ることなく、習慣という身体的な実行力に移す手助けをしてくれるのです。

境界を越えた協力体制

プロセス重視のシックスシグマ活動はおのずと部門間の境界を越えた協力を組織にうながします。
顧客視点でプロセスを改善するということは、資材調達から製造、流通、そして、販売という顧客へ価値あるアウトプットを提供する企業のプロセスにおいて、製造部門、販売部門などの従来の垣根を取り払って、プロセス全体での改善を要求します。

シックスシグマ導入では有名なGEのジャック・ウェルチが「バウンダリネス」という言葉で表現したのはまさにこうした組織内の部門の壁をまずなくして活動にあたることがプロセスが重視されるシックスシグマ活動の重要なテーマであるということでしょう。

完璧を目指しながら失敗を許容する

最後の「完璧を目指しながら失敗を許容する」は、あるいは「完璧を目指すからこそ失敗を許容する」と言い換えてもいいのかもしれません。

シックスシグマ・レベルの品質に近づくには、新しいアイデアと手法が必要だ。だが、それにはある程度のリスクが必ず伴う。サービス改善やコストの削減、新しい能力開発など(すなわちより完璧に近づく方法)につながる有効な方法を見出した者がいたとしても、失敗したときの結果を極度に恐れてしまうと、絶対に試そうとはしないだろう。その結果、パフォーマンスは停滞から下降に向かい、最終的には倒産へと至る(まさに惨憺たるシナリオである)。
ピーター・S・パンディほか『シックスシグマ・ウエイ―全社的経営革新の全ノウハウ』

失敗を恐れる気持ちをやわらげてあげることがなければ完璧を目指すことなどできないのです。まさに「間違えを恐れるあまり思考のアウトプット速度を遅くしていませんか?」です。

シックスシグマのロードマップ

このような6つのテーマを抱きながら、本書で紹介される次のようなロードマップに従い、シックスシグマは実行されます。

  • ステップ1:コア・プロセスと主要顧客の把握
  • ステップ2:顧客要求の定義
  • ステップ3:現行パフォーマンスの測定
  • ステップ4:改善活動の優先順位づけ、分析、実行
  • ステップ5:シックスシグマ・システムの拡張と統合

これまでも紹介してきましたが、最初の「コア・プロセスと主要顧客の把握」では何よりも「組織にとって最も重要な機能横断的な活動およびそれらの活動が外部顧客と接するインターフェースについての全体像を描き、明確な理解を得られるようにする」ことを目的として、自分たちが誰に何を提供することをミッションとし、現在、それをどうようなプロセスにおいて実行しているのかを把握することからはじまります。
つまり、あるべき姿と現状の事実を最初にしっかりと把握するのです。

ここからより詳細な測定、分析を行い、具体的な改善活動に入るわけです。そして、重要なのはそれが一回きりの活動に終わらないよう、シックスシグマの文化を浸透させ、継続的な改善、管理が行なえるクローズド・ループ・システムを組織内に構築するのがシックスシグマのロードマップに描かれていることです。

詳しくはこのブログで紹介できませんので、興味のある方はぜひ実際に本を手にとって読んでみることをおすすめします。



関連エントリー

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック