あんまり面白くないなと感じた理由は2点あります。
- 理由1:「マーケティングはアートではなく科学である」とchapter1で大々的に掲げておきながら、以降の記述に科学的な要素が希薄である点
- 理由2:マーケティングを全社的な問題であると捉えつつも、現在、マーケティング部門が社内で孤立しているという問題を、単純に他の部門と連携できるようにするという改善案のみで解決しようという記述で終始してしまっている点
まぁ、僕の理解力が足りないだけだったり、単純に僕の興味と違っているというだけかもしれませんが、感じたことを書き留めておくことにしましょう。
マーケティングはもっと科学である
この本を読んでて、科学的な記述に欠けるなと感じるのは、僕がポピュラーサイエンス系の本ばかり読んでいるからでしょうか?いや、そればかりとはいえず、世の中にはビジネスの分野でも科学的な手法を用いた改善ツールはいろいろあります。「ブランドのつくりかた:1.シックスシグマを使う」や「ブランドのつくりかた:2.戦略マップとバランススコアカードを使う」で取り上げたシックスシグマやバランススコアカードなどはその代表的ツールですし、それこそ双方とも経営革新ツールなのですから、マーケティングを全社的な活動として捉えることを主張している本書にはピッタリのツールだと思われるのですが、その点に関しては記述されていないように思います。
かといって、代わりの手段が提示されているかというといまいち。まだ半分くらいしか読み終えていないので、これ以降にもしかすると示されるのかもしれませんが、期待が大きかった分、あきらかに物足りない感があります。
科学に対する大いなる誤解
今日もあるセミナーで、とあるグローバル企業のマーケティングを統括している副社長が、マーケティングは実学で科学ではないという発言とともに、「科学は1+1だ」ということをおっしゃってました。もしマーケティングに携わる人がそういうレベルで科学を理解してるんだとしたら、非常に残念だし、不勉強だといわざるをえません。それこそ、そんなレベルで科学を認識しているんだとすれば、マーケティングがなんとなくIT系の人に馬鹿にされるのも納得です。科学というのは基本的に実験や数学的手法を用いて、隠れたパターン、法則を発見し、理論化するものです。それは人々の生活、社会の動向を観察して有意なニーズのパターンを読み取るマーケティングと本来的には変わりないものだと僕は思っています。そして、それをこれまでのマーケターの感覚にたよっただけのものから、ITシステムなりをきちんと利用して、データを分析できるようにしましょうというのが本書の主旨の1つです。
すくなくとも本書では、そうした認識だけはきちんと守った上で、論を進めています。その点ではマーケティングは実学だということで、それが科学と異なるものだと認識する発想は間違いだと思います。それに科学だって実学なわけです。量子力学なしにITもWeb2.0もないわけです。
科学とマーケティングの違いをそんなヘンテコな具合で線引きしてる方はぜひ本書を読むことをおすすめします。
ただ、「マーケティングはアートではなく科学である」というのなら、もっと科学的な手法を具体的に提案してほしかったと思う残念さが本書にはあるのは先にも書いたとおり。マーケティングの分野で本当に、マーケティングを科学の側面から語れる人が必要ですね。自分でももっと勉強を重ねて論を磨くことにします。
なぜマーケティング部門にこだわるのか?
さて、もう1点、気になるのが、マーケティング部門にこだわりすぎの感がある点です。マーケティングが全社的な活動であると捉えるのであれば、機能=部門と捉えるのではなく、機能=プロセスとして捉えるべきなのではないかと感じます。それもイントロダクションの部分で「リエンジニアリング」に言及しておきながら、その観点が抜け落ちているのは、ちょっとあんまりじゃないかと思うんですよね。これももっと読み進めれば言及されるんでしょうか? 疑問。
マーケティングのリサーチ業務やコミュニケーション業務は、それ専門の部門としてマーケティング部門があってもよいと思いますが、それこそ、本書でいわれているとおり、企業活動の全過程においてマーケティングが必要であるのなら、まったく別の発想があってもよいのではないかと思うわけです。
別の発想とは、たとえば、マーケティング部門をバリューチェーンにおける独立した機能として立てるのではなく、機能横断的なプロセスを管理するチームとして位置づけるという発想があってもいいのではないかと思います。
イメージとしてはこんな感じですね。
正確にいえば、バリューチェーンは機能単位=部門単位で描いた図なので、これだとプロセス視点で考えましょうという図にはなっていません。より正確に書くのであれば、やはりSIPOCダイアグラムや詳細プロセスマップなどのシックスシグマのツールを用いたほうがよいと思います。
シックスシグマ活動のDMAICのCのコントロールにおいては、部門に紐づいた機能とは別に、プロセスを管理するプロセスオーナーに部門横断的な管理タスクを与えたりするのですが、同様にマーケティング面でのプロセス管理を行なうタスクをもった人員を顧客視点で設計したプロセス単位で配置するということも発想としてはありなんじゃないでしょうか? 管理とは、もちろん科学的に測定を行い、有意なパターンを見出すような分析を行なうという意味で。
書かれている内容は、勉強になる点も多いのですが、この2点が気になるばっかりにいまひとつ不満を感じたりもします。
とはいいつつも、とりあえず、全部読んでみることにします。
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この記事へのコメント
simfarm
実際の行動レベルでは、科学とアートを行ったり来たり、もしくはバランスさせたり、といった感じですが、「実学である」と言い切っちゃうとがっかりします。
また、「マーケティングはマーケティング部門に」といった会社で、成長している会社を私は知りません。成長している会社は一般事務の女の子でも、彼女等なりにマーケティングを意識しています。
tanahashi
の部分、とても納得でした。
マーケティングって企業にとって部門というより、文化に近いのかもしれませんね。
はし
マーケティング、その他マネジメント、他には特に強壮優位の理論が科学的に認められにくいのは、ある事象が仮に予測出来たとしても、その結果が予測した法則が理由で発生したことを証明することが困難なところにあります。これは、マーケティングからは切っても切れない、マーケティングという学問の持つ特性だと考えます。
マーケターの仕事はマーケティングという業務全体の一部に過ぎないという認識に異論はありますか?どのように切り出そうとしても、マーケティングがマネジメントの中枢に深く根を下ろし、例えば経営戦略、トップマネジメントのその他上流行程との繋がりの中で存在するマーケティングという業務(?)は、専門部門でも業務でも、プロセスでも無く、トップマネジメントの一側面(一業務ではない)です。この部分だけをトップマネジメントの業務から切り出す事は出来ません。
上の図は、そのマーケターの守備範囲外のマーケティングを、無理矢理プロセスとして判断し、抽出し、科学的検証の対象としていると考えますがいかがでしょうか?特に品質管理手法のシックスシグマ(こちらは専門外なので、上手く理解出来ているか不安ですが。間違っていたら申し訳ありません。)が適用出来るという話は俄に信じられません。まず、マーケティングをプロセス化対象として抽出した際に、そのプロセスを対象とするだけでマーケティングマネジメントが出来る、という前提が必要になります。しかし、これを科学的に立証することは不可能では?
いずれにせよ科学的根拠が見えません。
そして、マーケティングは科学でありアートです。(他のあらゆる学問やタスクがそうであるように)『実学』という括り方自体に、私も違和感を覚えます。(何か、科学的に考える必要が無いという、言い訳に聞こえます。)
tanahashi
ただ、僕自身の理解力がなく、なぜ「いずれにせよ科学的根拠が見えません」とおっしゃられているのか、ピンときません。
というのもの、科学的根拠を示そうとしているわけではないですので。
それ以上に古い記事で、自分自身の文章を思い返すのが困難だというせいもありますが。
科学とそれ以外の区別ということであれば『系統樹思考の世界』をおすすめします。
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