マーケターは次の3点で失敗することが多い。すなわち、(1)ブランドをポジショニングするため、顧客に関する知識を利用する能力の欠如、(2)従来型のメディアを超えてブランドを広める能力の欠如、(3)ブランド・マネジメントのために組織・文化・情報を支援するのに必要な、顧客視点でのプロセス形成能力の欠如である。デイブ サットン 、トム クライン『利益を創出する統合マーケティング・マネジメント』
どうよ、この3つのポイントでの簡潔な指摘!
今までさんざん言われてきたのと何が違うの?と思ったマーケターなあなた。ちょっと感覚的な鈍ってないですか?
おっしゃるとおりこの3つの指摘がバラバラになされることはこれまでもあったでしょう。さらにもっと長ったらしいリストの中にこの3つが含まれていることもあったかもしれません。でも、この3つがこの3つの組みで指摘されたことはおそらくなかったはずです。
特に(3)が重要で、「ブランド・マネジメント」と「顧客視点でのプロセス形成」なんて言葉がひとつの文に集約された述べられることってあったでしょうか? そして、それがどれほどこれまでの「アートなマーケティング」と異なることなのかということに、あなたはピンと来てますか?
ブランドをポジショニングするため、顧客に関する知識を利用する能力
まだ、最初の10数ページを読んだだけなので、本書の内容については触れませんが、先のマーケターの3つの失敗リストをみて感じたことをちょっと書いておきます。「(1)ブランドをポジショニングするため、顧客に関する知識を利用する能力の欠如」に関して思ったのは、先日の「Webブランディングの企画のためのフレームワークを図にしてみた」で示したフレームワークを使えば、その能力の欠如を補うことはできるということです。もちろん、あの図で各モジュールの中身は示していませんので、個々の調査法はまた別途考える、あるいは学ぶ必要があるとは思いますが、全体的なフレームワークとしては、あの図で示した見方で調査、分析を行なえば基本的に問題ないと思っています。
製品のつくりかたは知っていてもブランドのつくりかたは知らないって、ビジネスとしてどうなの?
この本でも「あなたの会社のブランドはあなたの会社のビジネスなのだ」という言葉が示されていますが、最近、僕がよく思うのも似たようなことで、「なぜ、自動車メーカーがクルマをつくる方法を知っていたり、Web屋がWebをつくる技術については熟知していたりするのは当然とみなされるのに、それらの企業が自社のブランドのつくりかたを知らないことがまったく逆の意味でそれもしかたがないなどと考えられているのだろうか」ということです。ブランドはその会社自身がつくりあげていくもので、外部の企業の手を借りるにしても、これまでのマーケティングプランのように丸投げでうまくいくものではないわけです。いや、うまくいくものではないというより、丸投げしたら誰がそのブランド価値を永続的に管理していくんでしょうか? ブランドはキャンペーンではないわけですから、契約上、どう考えても一定期間のみのサポートしかできない外部の企業に自社のブランディングを丸投げして任せられるはずなどないわけです。
そして、それこそ、丸投げしてしまったらいったいどうやって自社内に顧客に関する知識を利用する能力を育んでいくことができるんでしょうか? なぜ、自社製品をつくることに傾ける情熱とおなじだけのものを自社のブランドをつくることに傾けないのかということです。
ブランド・マネジメントのために組織・文化・情報を支援するのに必要な、顧客視点でのプロセス形成能力
そして、「(3)ブランド・マネジメントのために組織・文化・情報を支援するのに必要な、顧客視点でのプロセス形成能力の欠如」。これは個人的にももっか最大の関心事です。「事業会社にとってのWeb2.0:その2.Web構築・運用は企業経営の縮図」でも「本質的なWebマーケティングとは、そうした諸機能を統合的にマネジメントする企業経営の課題をシックスシグマやバランススコアカードなどの経営寄りのツールを介してWebに変換することで、Webを用いた解決策を企画、実行、測定、管理していくことではないかと考えます」と書きましたが、実はこれ何もWebマーケティングに限ったことなどではないんだと思います。
Webをとったマーケティングでもこの考え方は有効だと考えますし、おなじく本書で指摘されているとおり、ブランド、ブランディングを考える上での重要な捉え方だと思っています。
何よりバリューチェーンとしての企業のプロセス以外にブランドの価値をつくりあげるものなど、すくなくとも企業内には存在しないわけですから、そのプロセスを顧客の声と照らし合わせつつ改善する以外に、企業が自社ブランドを管理する方法なんてあるわけがないんです。
当然、企業のバリューチェーン全体を対象にしているわけですから、たんにマーケティングコミュニケーションの問題だけ捉えて、表面的にごちゃごちゃいじくりまわしたところで、大した成果が得られるわけでもないでしょう。
僕自身はこのあたりの「顧客視点でのプロセス形成能力」を高めるツール、フレームワークとして、シックスシグマがかなり有望だと思って、あらためてシックスシグマに関して時間を見つけて学んでいるわけですが、こうしたプロセス改善というどちらかといえばマーケターやブランディングという言葉とは縁遠かった視点がこの本にはちゃんとまとめられているのは良いなと感じました。
もうすこし読み進めて、新たな発見が得られればと思っているという次第です
。
P.S.
この本を読み進めての感想エントリーをアップしました。興味があるので買ってみようと思う前に、ぜひご一読を。
→ マーケティングが科学的で、全社的な活動だというのなら・・・
(2006/12/06 01:26更新)
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