計算不可能性
ロジャー・ペンローズは、「一般相対性理論」と「量子力学」という2つの偉大理論を統一するモデルとしてツイスター理論というモデルを提唱していたりする数学者、数理物理学者ですが、この本ではそうしたペンローズ像に触れつつも、副題にあるとおり「心と意識の科学的基礎をもとめて」書かれた2冊の本『皇帝の新しい心』『心の影』以来の意識の問題に迫るペンローズのインタビューや著作、茂木健一郎さんや竹内薫さんによる解説、紹介などを編集してまとめられた本です。読んでいて、刺激的だったのは、ペンローズが意識の問題を計算不可能性の問題として、それを現在の量子力学の不完全性と重ね合わせている点です。
私自身のアイデアの中心になるのは、「計算不可能性」(non-comutabilitynon-computability)です。現在知られている物理法則は、すべて計算可能なタイプです。つまり、私たちは、現在の物理学の描像の外側に行かなければならないのです。ロジャー・ペンローズ『ペンローズの<量子脳>理論―心と意識の科学的基礎をもとめて』
茂木健一郎さんがこれをこんな風に解説してくれています。
私たち人間の意識下での知性には、非計算的(non-computational)要素がある。したがって、計算的プロセスに基づくデジタル・コンピューターでは、意識も、知性も実現できない。その非計算的要素は、未解決の量子重力(quantum gravity)理論と関連している。茂木健一郎「ツイスター、心、脳 - ペンローズ理論への招待」より
『ペンローズの<量子脳>理論―心と意識の科学的基礎をもとめて』所収
このアイデアをペンローズは、ゲーデルの不完全性定理から発想して、それについても詳しく説明してくれているのですが、僕にはそれを要約することなど、とてもできませんので、実際、みなさんがご自身で読んで感じてもらえれえばと思います。
三角形の図
さて、では、なぜ意識の問題が量子力学と一般相対性理論の統一の問題、そして、計算不可能性やゲーデルの不完全性定理などとかかわりをもつのか?ペンローズはこんな図を描いて説明しています。

物質的世界は、プラトン的世界の一部から生じます。だから、数学のうち、一部だけが現実の物質世界と関係しているわけです。次に、物質的世界のうち、一部だけが意識を持つように思われます。さらに、意識的な活動のうち、ごく一部だけが、プラトン的世界の絶対的真実にかかわっているわけです。このようにして、全体はぐるぐる回っていて、それぞれの世界の小さな領域だけが1つにつながっているようなのです。ロジャー・ペンローズ『ペンローズの<量子脳>理論―心と意識の科学的基礎をもとめて』
ペンローズは「これら3つの世界を1度に考えるべきなのではないか」と提案しています。「心の世界と物質的な世界だけに注目して、どうして心が物質から生じるのかと思い悩むだけでは駄目」だと述べています。
ペンローズの世界観
この三角関係を示した上で、ペンローズはこんな風にも言ってるんです。しばしば、ゲーデルの定理は、人間の証明できない定理があることを意味すると考えられていますが、そうではないんです。ゲーデルの定理が証明していることは、私たちは常に新しいタイプの理屈を探し続けなければならず、ある一定の、固定したルールの集合に頼ることはできないということだけです。ロジャー・ペンローズ『ペンローズの<量子脳>理論―心と意識の科学的基礎をもとめて』
これってさっき「色即是空。諸行無常。便利なハウツーもいつ塵となって消え行くかわからない」で書いた話とも通じるものがあります。
もちろん、僕レベルの頭で考えることを、ペンローズのような天才の頭で考えることを同一視する気はまったくありませんが、このようなペンローズの思想に共感をもつくらいは僕でも可能です。
ペンローズはこんな風にも言ってます。
ところで、今では、物質そのものが、ある意味では精神的な存在であるとさえ言えるのです。ロジャー・ペンローズ『ペンローズの<量子脳>理論―心と意識の科学的基礎をもとめて』
この世界観はかなりおもしろいなと感じるわけです。
僕たちの意識は物質からできており、そして、その物質からできた意識がプラトン的世界の中の数学的構造や計算不可能な真理までをも見つけるわけです。
この思想に思わずペンローズのファンになってしまい、他にも2冊ペンローズ関連の本を買ってしまったくらいです。
みなさんにもぜひおすすめ。特に茂木健一郎さんの本が好きな方などには。
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この記事へのコメント
むらまさ
tanahashi
non-computabilityです。