科学で最も重要なのは、すぐに正しいとわかるような事実を確立することではなく、100年たっても嘘か本当かわからないような、それでいて重要な研究の新分野を切り開く、そのような「嘘」をつくことと言ってもいい。たとえば、ダーウィンの自然淘汰による進化論は、そのような「嘘」の代表例である。茂木健一郎『ペンローズの<量子脳>理論』所収
「ツイスター、心、脳 - ペンローズ理論への招待」より
確かに科学が「すぐに正しいとわかるような事実を確立すること」だけを目的としていたら、こんなにも僕らを魅了しないのかもしれません。
茂木さんが例にあげるダーウィンにしても、いま読んでてワクワクさせてくれるこのペンローズにしても、それが本当か嘘かわからないギリギリのところまで踏み込んでいて、それゆえ、常識をやぶり、さらにそれゆえ常識的な批判を数多く浴びるという性質をもってるからこそ、私たちを魅了するのでしょう。
ペンローズの『皇帝の新しい心』の中のこんな一文、
私たち人間の意識下での知性には、非計算的(non-computational)要素がある。したがって、計算的プロセスに基づくデジタル・コンピューターでは、意識も、知性も実現できない。その非計算的要素は、未解決の量子重力(quantum gravity)理論と関連している。同上
を引用した上で、茂木さんは「フェルマーの最終定理レベルの「嘘」になりうるかもしれない」と述べています。
確かに僕らのような科学や数学の素人でも、それらに「おーっ」と感動したりするのは、そんな大いなる「嘘」が提示された場合なのかもしれません。もちろん、実証主義にもとづく厳密な科学や数学の分野でいいかげんな嘘を述べればすぐにバレるのですから、その手のものとここで例に挙げられているような、フェルマーやダーウィンやペンローズの嘘はまったくレベルが違うものだということはわかります。
茂木さんは「嘘」という言葉を使っていますが、もちろん、ペンローズにしてもダーウィンにしても本気で<量子脳>理論や進化論を提示しているわけで、それゆえ、僕らを感動させ、魅了するのでしょう。
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