2006年10月17日

ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている/スティーブン・ジョンソン


本タイトル: ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている

コメント:
単に自分の側の感情的な理由によって他人の間違いを指摘するくらいなら、自分を磨く努力に一秒でも長く時間を費やしたほうがいいと思う。

もちろん、他人の間違いの指摘が、他人のことを考えてのことなら別です。しかし、その際には間違いを指摘することはもちろん、改善案なりそのヒントくらいは与えることがないと、それは単なるバッシングです。また、それが単なる揚げ足とりになるなら、あなた自身の時間の無駄になってしまいます。
Google的な発想でいけばダメなものや役に立たないものは、情報として無視され、役に立つものだけが残るという淘汰圧が働くわけですから、感情的なだけの間違いの指摘は、間違いといっしょに消えてなくなります。そんなものに時間を費やすのはもったいないでしょう。それよりもプラスの面を発見してそれを他人と共有できるようにする方向で労力を使ったほうが僕はよいと思う。
ようはあとでそれが役に立つかどうかって、情報(発言も含めて)の価値を決める1つの大切な要素だと思うわけです。
念のため、言いますが、1つの要素であってそうじゃない場合もありますから。

むしろ、間違いを含んだ他人の意見にも、正しくそれがあなた自身のためになる部分が含まれているのかもしれないのだから、きっとあなたがすべきなのは間違い探しではなく、宝探しなのだと思います。

複雑なものを理解する知力

さて、そんな宝探しを見事にやってのけて見せてくれたのがこの本。ゲームやテレビが複雑さを増し「ゲームはぼくたちに調査とテレスコーピングを強い」、「テレビ番組は頭脳に空白を埋めさせたり、感情知性を動因させたり」するので、よく言われるような「ゲームやテレビは人間をダメにしている」という批判が間違えで、実はむしろ、それらは人間の頭を良くする働きもあるのだよと論じたのが、スティーブン・ジョンソンの『ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている』という本。
その中で、複雑さを増したゲームやテレビ番組は、真っ直ぐに結末に向かって一直線に進む本とは違う頭の使いをユーザーに課し、それがユーザーの頭の鍛錬につながると論じています(といっても、読者や外で遊ぶことが無駄だと言ってるのではなく、それぞれ良い部分があるのだから使い分けましょうということです)。

ゲームの世界では、あなたは作業を定義して実行することを強いられる。もしその定義が揺らいだり、うまくまとまっていなかったりするとプレイに支障をきたす。本の場合は、物語が次の2章でどう進むかきちんと考えておかなくても楽しめる。
スティーブン・ジョンソン『ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている』

この本ではいまを生きる人たちが僕らが想像しているよりも、複雑さを楽しみ、むずかしさを楽しんでいる様子が見て取れます。

なぜ複雑になるの?

では、なぜゲームやテレビが年々複雑さを増してるの?というところの分析がなかなか面白い。
それは「反復利用に耐えるためだ」というのが著者の分析です。
何年か経って再放送でもされない限り、同じ番組を繰り返しみることができなかったかつてのテレビの見方とは違い、今では様々な録画・再生ツールが存在し、同じ番組をいつでも繰り返し見ることが可能になっています。その結果、経済的には一度の番組放映料よりもDVDなどでの売上などが収益的に大きくなってきているといいます。そうなれば、かつてはいかに一度の視聴でもわかりやすい番組を作るかを目指していた制作コンセプトが、繰り返し見ても楽しめる番組を作る形に変化するのは自然なことでしょう。一度であきられてしまう番組ではわざわざDVDを買ってみることなどありませんから。
ただし、ここには留保が必要で、アメリカのテレビの事業構造は日本のそれとは違い、放送局と番組制作会社が独立的に存在しているために、そうした複雑性が増す方向へのベクトルが働きやすいということもあります。日本の場合、そうした傾向はテレビよりもむしろマンガなどに見られる傾向かもしれません。

複雑になると何が変わるの?

さて、こうした反復を前提とした世界で、システムはどういった変化をこうむるのか?

道徳哲学の分野では、最大反復番組制作に不思議な前例がある。ニーチェがキリスト教道徳の代案として出した、「永劫回帰」の発想だ。永遠に地獄に落ちるといって人を脅かし、正しいことをさせるかわりに、ニーチェは別の構造を持つ神話を提案した。そこでぼくたちの人生は無限に繰り返される。この人生で何か間違いをしたら、永遠にそれを繰り返すことになるので、だったら最初から間違いを犯さないようにしようという気になるだろうというわけだ。
スティーブン・ジョンソン『ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている』

間違いを犯さなくなるというより、間違いは反復の中で改善されるように動くというほうが現実的なのかもしれません。
当然、複雑なものをつくるには、ある程度の尺の長さが必要です。この本では映画についても論じられていますが、著者は映画もまた複雑さを増す方向にシフトしている傾向を認めつつも、その尺の限界により複雑さの限界もまた存在すると記しています。何クールも連続で放映されるテレビ番組とは異なり、2時間ほの限られた時間では登場人物の数も、それとある程度対応したストーリーの数もそれほど多く詰め込めないという理由です。
同じことは、どういうスパンで物事を捉えるかという話とも関連してくるでしょう? マーケティング的にいえばたった1回こっきりのキャンペーンだけを考えるのか、何年何十年にもわたるブランドの醸成を考えるかで、顧客の利用や、店頭での販売、Webなどによるコミュニケーションに対する捉え方も変わってくるのではないでしょうか? それは本などを個別の作品として評価・分析する方法よりも、この本で著者がゲームやテレビに対して行ったような、個別の作品評価ではなく、それら作品に共通して働くシステムに対する評価・分析が必要になってくるのではないかと思います。

もちろん、それは個別の評価・分析を否定するものではありません。
はじめに書いたとおり、他のもののダメな点を否定するに時間をかけるよりも、僕たちに有益なのは宝探しなのですから。
周囲の環境や言動に流されて、何かを否定する眼ではなく、何かを肯定する眼を持ちたいですね。

評価: stars

評価者: gitanez

評価日付: 2006-10-17

画像(URL):

著者: スティーブン・ジョンソン, 乙部 一郎, 山形 浩生, 守岡 桜

出版年月日: 2006-10-04

出版社: 翔泳社

ASIN: 4798111635

posted by HIROKI tanahashi at 11:45| Comment(0) | TrackBack(1) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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