本タイトル: ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論
コメント:
この本はとても面白かった。『エントロピーと秩序』などの著作でも知られるピータ・アトキンスが、進化論をはじめ、エントロピー、相対論、量子論、対称性を経て算術にいたるまでの現代科学の10の分野を順をおって紹介した一冊ですが、単にそれぞれの分野を紹介するだけにとどまらず、アトキンス独自の哲学的ともいえるアイデアを随所に挟み込まれるのが、なんともたまりませんでした。
しかし、なぜガリレオの指なのか?なぜガリレオの指なのか? ガリレオは、科学研究が新しい方向へ進みだした転機を象徴している。(中略)ガリレオの指は、現代科学の全分野に影響を与えている。まず物理学で波乱を起こし、十九世紀の初めには化学にも分け入った。またとくに十九~二十世紀に生物学の神秘のベールがめくれだしてからは、生物学にもその指が伸びた。
ガリレオによって「新しい方向」に踏み出した科学研究のベースとされたのは「実験」でした。それまでの科学はといえば、実験による検証を行わない、理論科学でした。古代ギリシャ人が科学者としておおかた失格だったのは、実験をおこなわなかったからだ。理論を考えるだけで、あまねく共有できるようにコントロールされた経験にもとづいてはいなかったのである。
アトキンスは本書で、この実験による検証によって新たな発展を遂げた科学の10の分野に関して、進化論やDNAなど、比較的私たちに近い分野からはじめ、次のような順序で階段を上るように抽象度をあげていきます。
アトキンス自身はその理由を次のように表明しています。本書では、この素晴らしい結びつきに気づける科学の高みに登ることと、登りながらどんどん大規模な抽象化をしていく楽しみも明らかにすることを目指したい。
装置の時代から、われわれは抽象化の時代へと移行した。いまや、二十一世紀の科学者は、宇宙の深層構造は数学でしか表現できず、数学を視覚化可能なモデルに結びつけるのは危険と考えている。抽象化は現在最も大事な概念で、知識のパラダイムとなっている。
先に本書では、アトキンス独自の哲学的ともいえるアイデアが随所に挟み込まれるといいましたが、その傾向は抽象化が進む後半になればなるほど、そのアイデアの斬新さが冴え渡ります。
「9 時空―活動の場」でのピタゴラスの定理とアインシュタインの理論の方程式を巧みに変形することで、時間、長さ、質量がすべて長さで測れることを示したり、「8 宇宙論―広がりゆく現実」では、ビッグバンは「猛烈な火の玉というより、時空を凝固させた宇宙の冷却だったのかもしれない」なんて論じたり、とにかくそのアイデアの深さに驚かされます。
第一、進化論やDNAのような生物学の話から、原子やエントロピー、量子力学から宇宙論、そして数学までのとてつもない幅広い分野を一人で網羅してしまうこと自体、驚愕なのですが、その広さが決して内容の浅さにつながらず、これら10の分野を別々に論じた本と同等の深さをもって紹介できてしまえるのはアトキンス恐るべしと思いました。
現代科学全般に興味をもっている人にはぜひ読んでいただきたい一冊ですね。
評価:
評価者: gitanez
評価日付: 2006-09-27
著者: ピーター アトキンス, Peter Atkins, 斉藤 隆央
出版年月日: 2004-12
出版社: 早川書房
ASIN: 4152086122
この記事へのコメント