コンバージョン率絶対主義は脳を退化させる?

測ることは理解することの第一歩でしょう。

測る意思、理解する意思

正確な測定こそが科学法則であり、正確な測定が不可能な環境は、法則を欠いたものなのだ。
ロバート・B・ラフリン『物理学の未来』

物理学の現場における、最高では10の-23乗くらいの誤差しかないような正確さには到底及ばないまでも、オフラインからオンラインになってマーケティングの効果測定も正確さの度合いは増してきているといえるでしょう。とはいえ、それはあくまで一般論で、それぞれのマーケティングの現場によって、測定に関する意識や実行の度合いは大きく異なっており、最悪の場合、単純なログ解析さえ行っていない場合もあったりします。それはまったく理解に対する意欲を欠いたものであるとしか思えず、一見、カオス的な事象から一定のパターンを示す法則性を読み取り、そこに集団としての顧客の組織的原理を見出し、マーケティングの成果を向上させようという努力が見えません。

理解への意欲を欠いた選択がどこに向かうかといえば、昨夜の「尺度:Webマーケティングの効果測定を見直す」でも触れたようなコンバージョン率絶対主義のような、ほとんどのシーンで無意味な尺度に乗っかることであたかも測定の義務を果たしているかのように見せかけることかもしれません。しかし、そうした行動のあとに出る言葉といえばほとんど決まって「○○とコンバージョン率の相関がわからない」というものだったりしますが、そもそもコンバージョン率があらゆるものと相関するなんて法則性をいったい誰が見出したんでしょうか?
理解への意欲がそもそも脳の活動として欠けているのですから、「わからない」のはむしろ当然ですよね。違うかしら?

測定のコスト

とはいえ、測定ばかりに注力できないのは確かでしょう。脳のコストの面からくる制限というより、金銭的なコストの面での制約として。

確かに僕自身も時折口にしますが、全体的なコストバランスを考慮すればあまり測定ばかりにコストをかけることはむずかしいし、たとえ測定にコストをかけてなにがしかの法則性を見出してもそこで予算が底をつけばその法則性を役立てるコストがなく、せっかく得た法則性も水の泡になってしまうこともあると思います。
そうしたことは極限的なレベルまで測定の正確性をあげてきている物理学の分野ではさらに大きな課題となっているようで、その様をロバート・B・ラフリンは『物理学の未来』の中で次のように記しています。

物理学に限らず問題なのは、大規模な実験系の研究室が必要な資金を獲得し続けるには、自分たちの成果を批判から守らなければならず、そのために彼らはたいてい、論文の査読を仲間内で独占し、事実がどうあれ、あるアイデアや考え方を重要なものだと決めつけてしまうことだ。
ロバート・B・ラフリン『物理学の未来』

こういうことをしっかり書いているところがロバート・B・ラフリンという人を好きだなと思う理由で、なので皆さんにもぜひ『物理学の未来』は読んでほしいなと思います。その本は本当に様々な示唆に富んでいて、単に創発的科学についての知見を得る以上のものが得られるのではないかと思います。

話は逸れましたが、測定にかかるコストと成果のバランスの問題といった同じような問題は、やはりコスト管理には厳しい(少なくとも形式的には)ビジネスシーンでも当然起こりえています。ある意味では、それゆえにコンバージョン率が唯一の指標であるかのような決めつけが横行するのかもしれないなと思ったりもします。
でも、事情は理解できてもやっぱりNOと感じられるものは、NOと言っておいた方がよいと思いますし、昨日紹介したようなバランススコアカード5 planes modelを使って、きちんと戦略と実行施策、測定の整合性をとる方法はあるのですから、そうした統合的なスタンスでマーケティング・プランを組み立てることを僕としてはおすすめします。

答えはない

とにかく絶対的な答えなどない、そのことを理解してもらえればいいなと思います。
ですので、当然、絶対的な測定方法もないし、絶対的な手法もないわけです。そうなると、頼りになるのはやっぱり自分自身やまわりとの協力による測定の積み重ねだったり、議論の積み重ねなんじゃないかと思います。
答えのなさを嘆くよりも、いつまでも答えのない不思議さに興味をひかれるような気持ちでいたいです。

見回してみてほしい。この部屋にさえも、我々の理解できない事柄が溢れている。それが目に入らないのは、勉強のしすぎで常識を失った人だけだ。自然界の理解に向けた取り組みが終わりを迎えたという考え方は、単なる間違いどころか、ばかげたほどの間違いである。我々は謎めいた物理の奇跡に取り囲まれており、それを解き明かすことが、永遠に終わることのない科学の指名なのだ。
ロバート・B・ラフリン『物理学の未来』


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