組織的現象としての"相"、そして、市場動向

確かに驚きました!

物質の相の中で馴染み深いのは液体、気体、固体だが、これらはいずれも組織的現象である。相はあまりに基本的で馴染み深いものなので、このことを知って驚く人は多いが、確かにそれは真実だ。
ロバート・B・ラフリン『物理学の未来』

でも、一瞬考えてみて、それは当たり前だと思いました。
そうでなければ、確率論的不確実性を示す量子力学的なミクロの世界の法則に従う原子や分子が、僕たちに馴染み深い決定論的な姿で目の前にあらわれていることの説明ができませんから。

組織的現象としての"相"

氷を信用するというのは、金を購入することよりも、保険会社の株を買うことに似ている。もし何らかの理由でその会社の組織構造が崩壊したら、そこには有形資産がないため、投資した金は消えてしまう。同様に、原子が格子状に整列した結晶性固体の組織構造が崩れたら、そこには物質的な後ろ盾がないので、剛性は消えてしまう。
ロバート・B・ラフリン『物理学の未来』

組織的現象である相を上記の引用のように説明してもらえると、非常にイメージがわきます。
後日、全部読み終わったあとに詳しく感想をまとめようと思っていますが、このロバート・B・ラフリンの『物理学の未来』という本は、創発や自己組織化などの複雑系の科学がどういうものかをイメージするには、とてもよい本だと思います。なぜ、それが起きるのかという踏み込んだ話はないエッセイなので、複雑系の現象のメカニズムを知りたいと思っている人には向きませんが。

組織的現象としての市場動向

自分の生活を組織体に委ねていると考えたがる人などほとんどいないだろうが、実は我々は毎日そうしている。例えば、純粋に組織的現象である経済学がもしなかったら、文明は崩壊し、我々はみな飢えてしまうことだろう。
ロバート・B・ラフリン『物理学の未来』

このあたりのくだりは、マーケティングを新たに考え直す意味で非常に示唆に富んだものでした。詳しくは次のMarkeZineの原稿にまとめたので、ここでは簡単に述べるだけで済ませますが、マスマーケティングが過去にうまくいき、ワン・トゥ・ワン・マーケティングがいまいちで、Webマーケティングはうまくやればなんとなりそうな感じがするという違いも、組織的現象という視点でみると、なんとなく説明できそうな気がします。
簡単に言ってしまえば、ミクロな視点で個を対象にするか、マクロな視点である程度、大きな集団の組織的な動きを対象にするかということでしょうか?

僕たち人間は、個人としてのアイデンティティをもった独立した存在であると同時に、他の人や社会とつながり、それらに影響を受けやすい組織の一部としての存在だったりするわけです。
量子力学的な確率論的ふるまいをみせる個々の分子や原子などと同様に、個としての存在である人間はまったくあてになりません(笑)
しかし、ある程度の数が集まった人間のクラスターを観察するなら、そこにはニュートン物理学が決定論的なのと同様に、そこには信頼性の高い傾向を見出すことはむずかしくはないと思います。

マクロな視点でクラスターをとらえる

ワン・トゥ・ワン・マーケティングはミクロな視点で個体としての人間を扱うために、組織的現象としての大きなうねりを生み出すことができません。
マスマーケティングがうまくいくのは、ある程度、大きなセグメントで人を見るために、そこに予測しやすい組織的現象を見出し、かつ組織的現象としての口コミによるうねりを生み出すこともできるのでしょう。

同じようにWebマーケティングも、実はマクロ的な視点でユーザーを観察するとうまくいくのではないかと思います。
ただし、マスマーケティングの場合と違うのは、スタティックなセグメントで市場を細分化した上で固定化したターゲットを定めて、そこに絨毯爆撃的なメッセージ発信を行うのではなく、人が集まるクラスターをよりダイナミックなものとして捉え、セグメントではなくネットワークによるつながりで形成されたクラスターに対し、どうすればウイルス的に情報が蔓延し、相転移が生じるか?といった発想でプランを組み立てる必要があるのではないかと考えています。

Webというと、どちらかといえばパーソナルなメディアと考えられがちで、実際、それはそのとおりだったりもするのですが、やっぱり先に書いたとおり人は個であると同時に、集団の一員としても存在する生き物だったりもするので、大きなうねりを生み出すことをマーケティングの目標とした場合は、すくなくともミクロな視点で個としての人をとらえるよりも、マクロな視点で人のつながりをとらえたほうが結果はついてきやすいのかな、と。そんな風に考えている今日この頃です。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック