まずはこのことを順番をおって説明していこうと思います。
ページビューのベキ分布を完成させる
先日、以下の2つのエントリーで、Webサイトのアクセスログ解析データから見られるベキ分布について紹介しました。そこで明らかになったのは、Webサイトのアクセスログデータを検証すると、ベキ分布を示すものとそうでないものの2つのタイプがありそうだということでした。ページ単位でみたページビューや閲覧時間など、対象となるサイトのページ数に大きく影響を受けるものは、下のグラフのように右下のテールにあたる部分で不意に途切れるように落ち込んでしまう傾向があるため、物理的制約条件でリソースがベキ分布にしたがうには十分ではない場合があるのだろうと仮説をたてました。
一方で、ロングテールの提唱者Chris Andersonが最初にそれを発見したAmazonはなにかと商品在庫の多さを指摘されますが、当然、Amazonがロングテールを可能にしたのはサイトに掲載された商品数の多さによるものだけではないはずです。ベキ分布に必要な規模の大きなリソースは、単に商品数などの物理的な規模のみでなく、選択可能な情報の量も同じく影響するからです。
Amazonの戦略としては、むしろアフィリエイトという仕組みをうまく活用することによりユーザーがブログなどを通じて発信する書評、レビューなどの情報を商品の購買へとつながるものとして活用できる流れをつくったことのほうが要因としては大きかったのではないかと考えます。つまり、サイトの内部だけでは尻尾が途切れてしまうページビューを、サイト外部の個人ブログなどによって長く伸ばすことを可能にしたのではないかと思うのです。先のグラフを点線で表現したベキ分布の理論値に沿って伸ばしていくイメージですね。
口コミの視点で市場のベキ分布をみる
これを口コミという視点からみると、従来のマーケティングの視点を転回することができるのではないかと思うわけです。どういうことかというと、マスメディアと一般の人のあいだで広がる口コミの関係を同じようなベキ乗に広がる裾野をもつベキ分布として捉えることが可能ではないかということです。当然、全体に対して大きな割合を占める少数者にはマスメディアが相当し、そこから果てしなく伸びるテールがユーザー間の口コミという構図です。
このように捉えた場合、ロングテールは決して新しいものではないということになります。インターネットという効果測定が容易な環境が用意される以前は長いテールの部分にあたる口コミを俯瞰的に統合して捉える視点が存在しなかったために、そのことに気づかなかったということではないでしょうか? ベキ分布そのものは昔から存在していたはずですし。
ただし、問題は現在のマスメディアにはすくなくとも以前ほど突出した力は失われてきているということです。
NHK朝の連続テレビ小説の年度平均視聴率の推移を図示した。1983年度の「おしん」の52.6%をピークに長期低落傾向が目立っている。プロ野球巨人戦ナイターの視聴率も同じ1983年に27.1%のピークの後、長期低落している(図録3978)のと平行した現象である。
1983年度の「おしん」のように2人に1人が見ている状況での口コミ発生率と、2005年度の6人に1人しか見ないような視聴率17.1%の状況における口コミ発生率は明らかに異なるはずです。2人に1人に見ているならあてずっぽうで話をはじめても相手に話が通じる可能性はかなり高いわけですが、これが6人に1人となると当たり外れは大きくなりますし、実際、他の大部分の番組の視聴率はもっと低いわけですからテレビを基点とした口コミの発生率はかなり低くなってきていることが予想されます。
ネットでの口コミは今後どうなっていくのか?
かといって、インターネットがかつてのテレビの代わりを果たしているかといえば、まだ、そこまでは達していないと見るべきでしょう(今後、達成する方向で動くのかさえ疑問が残るところです)。ブログスフィアを中心に見た場合、はてななどが口コミの基点になることがよくありますが、それがネットの世界を越えて広がっていく確率はそう高くはないでしょう。もしかすると、ブログスフィアを基点とした口コミが広まる範囲自体がベキ分布にしたがうのかもしれません。梅田さんの『ウェブ進化論』が一般にも広まり、ベストセラーの仲間入りをした例などはその数少ない例なのだと思います。
ベキ分布の特徴の1つに「ベキ分布にしたがう現象にはフラクタル性がある」ということがありますが、ブログを基点とした評判の広がりにもそうした面があるのだろうと感じます。
そう実感したのは、すこし前にはてブで多くのブックマークがついた「間違えを恐れるあまり思考のアウトプット速度を遅くしていませんか?」のアクセス数の推移をみたからです。
実際は上のグラフのような推移をしたわけですが、見てわかるように「間違え~」のページへのアクセス数は一度ピークが過ぎてアクセス数が減ったあと、もう一度、盛り返しています。
こうした推移がみられたのは、リンク元(参照元)を確認してわかったのですが、はてブで人気エントリーになったあと、タイムラグがあって他のまとめ系サイトやアクセス数の多いブログに伝播したことによるものです。
はてブのような影響力の強いサイトが評判が広まる基点になるのは間違いないのですが、さらにそれが他のソーシャルブックマークサービスやまとめ系サイト、人気ブログなどに伝播して、それぞれが訪問したユーザーに小さな影響を与えるベキ分布のヘッドとして機能しながら、全体で大きなベキ分布を形成する。そうしたフラクタル性が生じるのではないかと想像できます。
最近、ソーシャルブックマークサービスが増えていたり、はてなのAPIを使ったまとめ系サイトも増えていますが、この傾向が続くと、ネットでの口コミの広がり方はますますフラクタル性をしめすベキ分布の重なりによって、大きく広がる場合もあればそれほどでもない場合も生じたりするのでしょう。
その場合、マルコム・グラッドウェルが『なぜあの商品は急に売れ出したのか』で口コミ感染のキーとしてあげた媒介者(コネクター)の役割を果たす、まとめ系サイトや人気ブログがその記事をとりあげリンクするかどうかが、評判の広まる規模を決めるカギとなってくるのではないかと考えます。口コミが大きく広がるかどうかという意味で考えると、もしかすると、これははてブの人気エントリーになるかどうかということ以上に、重要なティッピングポイントかもしれないなと思います。
この考察に関してはまだジャストアイデアの域を超えないので、今後の動きを観察しながら、もうすこし考えてみたいテーマですね。
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