本タイトル: 経済物理学の発見
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う~ん、まだ、いまいち消化しきれてませんが、こんなこと言ってる立場でもあるので、スピード重視で取り急ぎ書評。エコノフィジックス(経済物理学)とは?
この本はエコノフィジックス(経済物理学)の入門書といえるんではないかと思います。経済学や物理学の理解がそれほどなくても十分読めるほど、内容はわかりやすいです。
ただ、量子力学などの現代物理学と同じで内容はわかっても、そもそも直感性に欠けるものを扱ってはいるので、きちんと身体に馴染ませるには自分自身でいろんな方向から眺めるなどの作業の時間が必要にはなるでしょう。
さて、まずはこの聞きなれないエコノフィジックスとはいったい何か? 著者の言葉から引用してみましょう。エコノフィジックスは物理学の手法と概念を活用して、データに基づいて実証的に現実の経済現象に立ち向かう新しい科学の分野です。
エコノフィジックスが「データに基づいて実証的に現実の経済現象に立ち向か」った成果として得たものとしては、
といったことが紹介されています。
ここに出てくる「カオス」や「ベキ分布」などの用語は、それこそ現代物理学にすこしでも関心のある方であれば、わりとなじみの深い言葉ですし、それこそ、当ブログでもよく話題にしているWebのネットワークに代表されるスケールフリー・ネットワークやロングテールなどとも関連性の高いワードだったりします。
実際、エコノフィジックスという学問は、新古典派経済学が線形モデルが基本となる300年前の古典力学をモデルとして成立したのと同じことを、いま再びカオスやフラクタルといった現代物理学の非線形モデルで捉えなおそうという新たな試みであるともいえます。実際、こうした学問が登場した背景には、コンピュータ技術の向上によって、より複雑なデータの検証を行うための計算が容易になったこと、また、現実の経済現象そのものがインターネットや電子マネーの影響もあって、よりスピーディーでよりグローバルなものとなっていることも深く関係しているのでしょう。基盤となる地面は実は平らではない
ベキ分布にしても、非線形にしても、ロングテールにしても、極論してしまうと、これまで終わりなく続くと思われていた直線が、コンピュータによる非人間的な計算能力をもって見てみると、実は直感的、体感的には想像できないずっと遠くのほうでは垂直に立ちはだかる壁(あるいは崖)のようになっているのに気づいてしまったということではないかと思っています。
こんな指数関数のグラフのように。
非線形という意味ではこんな記述もあったりします。お金の特性でまず、物理的な視点からおもしろいのは、お金の額面と価値とが線形ではなくて非線形であるという性質です。もちろん1万円足す1万円は2万円で、額面では線形です。しかし、その価値を考えると単純にそのまま足し算では済まされない、ということです。
「単純な足し算では済まされない」例としてあげられているのは、同じ1億円でも、ひとりが1億円持っているのと1万人が1万円ずつもっている状態では違うという例です。1万人が1万円ずつもっている場合は文字通り1人あたり1万円分の価値しかもたらさず結果として全体でも足し算的な価値しか生み出しませんが、ひとりが1億円持っていた場合、それを資本に会社を興し1億円を大きく増やすことで非線形な価値を生み出すこと(例えば1億円を資本に10億円の価値を生み出すこと)がありえます。
このこと自体はすでに古くからわかっていたし、現実に多くの企業で実践されてもいることですが、それとは違った形で、AmazonやGoogleが戦略的に取り込んでいるロングテールというものを同じ非線形という意味であらためて考えてみるのも必要かなと思いました。非線形の発見
非線形の発見は、平らだと思っていた地面が双眼鏡を使って遠くの水平線をみると丸かったというような発見と似ています。特殊相対性理論で光の速さに近づくと空間も時間も一定ではなくなるのとも似ています。ほかの物理現象の多くも同じで、わかりやすい線形な法則性が成立するのは、小さすぎず大きすぎない限定されたスケールの範囲だけです。しかし、残念ながら、ふつうの教科書では線形性の成立する限界はほとんど明記されていません。
私たちがなにかと直感的に線形な発展を想像してしまうのは、単に見るものの多くが直線的な発展や衰退だったり、正規分布にみられるような平均値や標準偏差が意味をもつ世界を感覚的に捉えることに慣れ親しんでしまっているからだということもあるのでしょうけど、これまで勉強してきた学問自体、そういうものの見方をしていたんでしょうね。もちろん、現代物理学とかは抜かして。
すこし前に『行動経済学 経済は「感情」で動いている』を読んだときも思いましたが、経済学といういまひとつ科学になりきれていない学問を、あらためて科学的な視点で見るには、こうした物理学のモデルで捉えたり、認知心理学のモデルを応用したりという試みは非常に興味深いなと感じます。
同じように、コトラーである意味止まってしまっている古典的なマーケティング・サイエンスも、同様に非線形的な視点で捉えなおしてみるのもおもしろいかな、と。
そんな風に感じた1冊でした。
読書メモ
評価:
評価者: gitanez
評価日付: 2006-08-15
著者: 高安 秀樹
出版年月日: 2004-09-18
出版社: 光文社
ASIN: 4334032672
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