監視社会(せめこれ7)

先の「マーケティングも1:nのトピ-スレ型からn:nのネットワーク型へ」では、CGMやソーシャル・ブックマーク、ソーシャル・ニュースなどのWebサービスの普及により誰もが情報の発信、共有が可能になった世界においては、マーケティング的にユーザーのニーズを中央集権的にコントロールしようとする従来のやり方は通用せず、企業そのものがユーザーのコミュニティの中の会話に入り込んでいく形の「Employee Generated Media(従業員による情報生産~発信の仕組み)が今後のマーケティングにおいて大きな課題となってくるのではないでしょうか?」と書きました。

また、それとは別に、以下のエントリーでは、企業や著名人のインターネット上の悪評や炎上への対応の良し悪しについて、隠すのではなく明確に落ち度を認め謝罪することの重要性について書いてきました。


ファインダビリティと監視は表裏一体

こんなことを書いてきたのは、ニーズのマッチングあるいはファインダビリティの問題と、企業の透明性あるいは可視化社会(監視社会)という問題が表裏一体であることをあらためて示しておきたいと思っていたからです。
考えてみれば、ごくごく当たり前のことですが、探しやすい、見つけやすいということは同時に、探されやすい、見つけられやすいということだったりします。
携帯電話やカーナビのGPS機能にしても、RFIDやIPv6のような技術にしても、ファインダビリティと監視という問題は表裏一体の形でついてまわるはずです。

Google八分と村八分

見つけること=検索することといえば、Google八分などという言葉があったりしますが、下はといえば村八分という言葉からきたものです。
誰が何をやったのかが可視化された村社会において村のしきたりに背くような行為に対して制裁として加えられたのが村八分です。同じように検索性の向上の障害となるスパム行為に対してGoogleが制裁を加えるのがGoogle八分でしょう。

両者の違いは、Googleが他の誰の合意もなく制裁を加えるのと、必ずしもそうではなかったにしてもすくなくとも建前上は村の民の合意によって制裁が加えられるかの違いなのでしょう。
また、もう1つ違いをあげると後者が自らの身体的な感覚器官のみで把握できる範囲が監視の限界であるのに対して、前者の範囲はそれこそネットワークにつながった大部分の情報やその振る舞いが監視の範囲になっているということでしょうか?

公文俊平氏は『情報社会学序説―ラストモダンの時代を生きる』の中でこうした情報社会における監視社会の問題とその必要性について次のように書いています。

配慮と管理の両面を併せもつ人びとの自発的な相互監視(とされにもとづいた相互制裁)は、専制的政府のための相互密告の手段ともなりうる面はもっているにしても、もともと人びとの間の自発的な「協力の技術」の不可欠な構成要素なのである。ラインゴールドは、社会的な協力の理論の展開の後を追って、協力が有効に組織されていくためには、人びとの間の相互監視と制裁、それにもとづくゴシップと評判のシステムが不可欠な役割を果たすことを確認している。このような協力のシステムは、人類の歴史と共に古いシステムなのである。
公文俊平『情報社会学序説―ラストモダンの時代を生きる』


村八分のような制裁システムは村社会の協力のシステムの一部なのであり、そこには配慮と管理の両面を併せもった相互監視の仕組みによる「協力の技術」があったのでしょう。
今後の情報社会においてファインダビリティを追求していくなら、こうした問題は避けて通れない問題なのだと思います。
企業はそのミッションからしても自社の評判を維持する必要があるでしょうし、一般の消費者の側も企業がよからぬことを行っていないかの監視の目をより強めていくのではないでしょうか?

監視(配慮と管理)のためのツール

すでにいま現在でもネット上で自分のブログなどに関する評判を収集するのに利用できるツールはいくつも存在しています。
以下にはその代表的なものをあげておきます。

trackfeed
他のサイトからリンクが張られたことをRSSで知らせてくれます。
freshfeed
キーワードが含まれたブログやニュースの新着記事をお知らせするRSSを生成するツールです。
テクノラティジャパンYahoo!ブログ検索gooブログ検索などの検索結果のRSS配信機能
多くのブログ検索では、freshfeed同様にキーワードが含まれたブログの新着記事をお知らせしてくれるRSSを生成する機能がついています。
リファラーログの確認
アクセスログ解析の参照元(どのサイトから自社サイトに訪れたか)を見ることで、どのサイトからリンクが張られ、そこにどんなコメントが書かれているかを確認できます。

実際、私もこうしたツールを使って、誰かが自分のブログにリンクしてくれてないか、言及してくれてないか調べたりしています。用途としては、監視というよりは、そうした情報を見つけてお礼のコメントを書いたり、トラックバックで返信したりする配慮と管理のためですけど。

企業のWebマスターの皆さん、ネット上での自社の評判(コーポレート・レピュテーションでしょうか?)はどうなのか、せめてこれくらいの調査はやってもいんじゃないでしょうか?

P.S.
はてブのコメントにhatayasanさんから「監視の切り口からweb2.0を論じようとすると、国民総背番号制とかEPIC2014についオチを求めてしまう。時に立ち戻りたい視点」というコメントをいただいた。
「監視」というとどうしても中央集権的な監視を思い浮かべてしまうのだろうけど、すべての監視が中央集権的ではないことに注意。村八分に働く監視システムは相互監視なのだと思う。つまりはネットワーク型の監視システムで、そこには中央集権的な通し番号存在しない。
(2006/08/11 08:37追記)

 

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