本タイトル: ブログスフィア アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち
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さて、これまでも当ブログではこの本に関しては何度か小出しで紹介してきましたが、ここで一度まとめて書評という形でまとめておくことにします。社員ブログ
ブログをSNSなどといっしょに総称する際にCGM(Consumer Generated Media)と呼んだりしますが、この本で扱われているブログは明らかにEGM(Employee Generated Media)と呼んだほうがいいと思います。
それは、日本で普通使われる言葉ならビジネスブログと呼ぶのでしょう。
しかし、本書で扱われる社員ブログは、いわゆる日本の公式な場(ドメインを企業サイトと共有する)で行われることの多いビジネスブログとは違い、従業員個々が自分がどの企業の社員であるかを明らかにしつつも個々人がある程度自由に立ち上げているブログを指すことのほうが多いようです。
本書には『ブログスフィア』というタイトルがついていますが、ここで扱われるブログは主に上記のような社員ブログで、ティーンネイジャーが書くブログなどは含んでいないために決してタイトルどおりにブログスフィア全体を扱っている本ではありません。
むしろ、前にも引用した下記の文で要約できるように、ブログスフィアという新しく生まれた非常に社会的な影響力の会話空間の中で、企業の従来のマーケティングのあり方、そして、企業そのものの社会に対する姿勢も変化していく必要があるだろうという点を、ブログを書く側の視点から力強く綴った一冊となっています。どんな革命にも、犠牲者がつきものだ。この場合は、一方通行で指揮統制型のブロードキャスト・マーケティングに胡坐をかく今日のマーケティング関係者たちが、犠牲者の筆頭になる。彼らはきっと、家に帰って家族に、テレビ広告やジャンク・メール、バナー広告についてどう思うか、聞いてみるべきなのだ。彼らに将来はない。マーケティングそのものが消滅する運命にあるとは思わない。そのブロードキャストな側面に明日はないといいたいだけだ。つまり、「話すのは我々だ。君たちは聞きなさい」といわんばかりのやり方は、もうおしまいなのだ。
会話の時代
本書では、ブログの力を語るキーワードとして「会話」という語が用いられています。
そして、企業が販促のみを目的に従来のマスマーケティング的な人の顔の見えない語り口のブログを立ち上げた際に、ブロガーたちが明らかに嫌悪の態度をいっせいに示すことを引き合いに出しながら、ブログスフィアという会話空間の特徴を以下のように描いたりします。これまで、このようなブログ界の自警作用は、このメディアをクリーンに保ってきた。ブロガーは仲間内の言葉を歓迎するし、それをデイブ・ワイナーは「会話らしく話すこと」と表現している。そして、ブロガーたちは、そうではないあらゆるブログに眉をひそめる。
日本では先にあげたようにビジネスブログがほとんど企業の公式なもので、著者らが「日本のビジネス・ブログの多くは営業目的で、フランス語圏や英語圏でのブログスフィアで許容される以上にマーケティング色が濃い」と書いているとおり、ブロガーたちのビジネスブログに対する許容度は大きいようですが、それでも、いわゆるブロガーを使ったプロモーションに対するjunjunmocchaさんの以下の言葉のように、他の文化圏ほどあからさまではないにせよ、やはり、マーケティング色が濃いのは敬遠される傾向はあると思います。個人的に、「提灯記事を書くようになったらブログって終わるだろー」という想いがあるから、というのもありますが、
やっぱり、口コミを広告商品化するのって無理があると思ってて、
だから、いろんな広告と比べた結果、そこにお金をかけるなら、他にかけた方が効果的だなあ、という
わりと現実的なさしひきの中でおとされることが多い。
かといって、ブログが企業のマーケティングに役に立たないということを本書は語っているわけではなく、単にマーケティングのあり方が従来とはまったく異なるものになりはじめていて、それは過度なイメージ戦略により売り込みをかける従来の方法から、時間をかけて語りかけ、そして、人の話にも耳を傾けるという人が当たり前にしている会話をベースにしたより人間らしい手法によって信用や情熱を感じてもらうという形に変化してきている傾向について紹介しているのです。会話を許容できる企業文化
とはいえ、本書ではすべての企業がブログをやるべきではないこともはっきり示しています。正直に語り、人の話に耳を傾けることが必要なブログでの会話には、それに向いている企業文化とそうでない企業文化があることも著者らは認めています。
例えば、マイクロソフトやサンでは社員ブログが盛んである一方で、アップルやグーグルではそうではないことの理由に関して、「社員や取引先に、自由に発言をさせるだけの信用を置いていない」ことをあげ、それを次のように説明しています。文化はゆっくり変わる。もしあなたの組織文化が閉ざされているなら、ブログの生態系にショックを受ける前に、まず文化の開放から手をつけるべきだ。命令型文化を持つ組織ではブログは育たない。顧客、投資家、取引先その他の関係者に十分な信用が置けないのなら、ブログはきっと真価を発揮しないだろう。人の話に本当に耳を傾ける気がないのなら、ブログは文化にそぐわないだろう。
これは同じく本書の書評を行っていたCNET Japanの渡辺さんの次のような言葉にも通じるものがあります。表面上ネットを取り入れました、2.0的なサイト設計を取り入れてみましたという部分の話は単体ではさして意味がない。ウェブサイトの話にしても、すぐに組織とビジネスモデルの問題が出てくるのと、結局はそこまで手を入れて動き方を変えないと目一杯の効果を引き出せそうにない場合がある。
ブログは確かに重要なツールですが、それでも、やはりツールでしかないことも確かです。
ツールのメリット活かすも殺すもそれを使う人や企業にかかっていますし、下手に使い方を誤れば、ツールがかえってその利用者に損失をもたらすこともなくはないでしょう。
しかし、それでもこのインターネットが普及した社会で企業が沈黙を保ち続けることはそれ以上に危険をもっているのではないでしょうか?
いくら企業が沈黙により何かを隠そうとしても、発言権をもつようになった個人の力がブログスフィアで隠された事実を一瞬のうちに明るみに出してしまうこともあるでしょう。
最近ではブログスフィアで話題になっていることをマスメディアが後から取り上げ、それにより話題がより広い層にも広がるということもめずらしくはないでしょう。
それでも企業はこれまでどおり沈黙を保ちつつ、一方で過度なイメージ戦略のみで自社ブランドの市場浸透を図ろうとし続けるのでしょうか?
そんなことをあらためて考えさせてくれたという意味でもこの本は読む価値がありました。
ブログを書いている方にはぜひおすすめの一冊です。
評価:
評価者: gitanez
評価日付: 2006-08-05
著者: ロバート・スコーブル, シェル・イスラエル
出版年月日: 2006-07-20
出版社: 日経BP社
ASIN: 4822245292
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増田二三生
増田二三生