本タイトル: エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する
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現代物理学を代表する2つのものといえば、アインシュタインの相対性理論と、量子力学であるということにほとんどの人が依存はないのではないでしょうか?
この1世紀の間に物理的宇宙にたいする私たちの理解は著しく深まった。量子力学と一般相対性理論という理論的武器のおかげで、原子やそれ以下の小さい領域から、銀河や銀河団のスケールで起こる現象、さらに宇宙全体の構造にいたるまで、さまざまな物理事象を理解し。検証可能な予測をおこなうことができる。これはとてつもない成果だ。
しかし、この現代物理学にとっては非常に重要な2つの理論が実はたがいに相容れないものであることはあまり知られていないのではないでしょう。
量子力学と一般相対性理論を組み合わせるのは火と火薬をいっしょにするようなもので、たちまち破局が訪れる。両理論の方程式をいっしょに混ぜると、きちんと定式化した物理学上の問題に無意味な答えが出てしまう。
この両理論の統一をはかり、アインシュタインも夢見た物理学の統一理論を完成しようという試みのなかで生まれたのが、本書で扱われる超ひも理論(あるいはM理論)です。
とはいえ、直感的なニュートン物理学の世界に慣れ親しんだ普通の人の視点からすれば、時間も空間も相対的であるとする特殊相対性理論も、重力によって時空間がゆがむことを示した重力場の理論である一般相対性理論も、ファインマンが経路総和アプローチとして示した量子は無限の道筋を同時にたどれるという量子の確率論的性質(量子の位置は特定できず、その確率のみ明示できる)といった眩暈がしそうな量子力学の世界も、それだけで直感的には理解しがたいものです。
その上、さらに11次元の世界なんてものが登場する超ひも理論/M理論の世界は、難解すぎてわからないんじゃないかとたじろぐ人も多いのではないかと思います。
ただ、この『エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する』で著者のブライアン・グリーンは、図版やたとえ話なども用いて、相対性理論から量子力学をわかりやすく説明した上で、なぜ2つの間に矛盾が生じてしまうのか、そして、それがなぜ超ひも理論をつかうと統合できるのかを、素人にも納得できる形で解説してくれています。
とはいえ、それがわかりやすく、書かれている内容を理解すればするほど、普段、私たちが常識としてもっていた宇宙観や世界観は木っ端微塵に吹き飛び、自分たちが立っている足元や自分と世界を分け隔てる境界さえもなにやら危ういもののように思えてきます。
直感的にとらえている私たちの3つの空間次元+1つの時間次元の世界には、ミクロレベルであと7つもの次元が小さく折りたたまれていて、宇宙自体が小さな小さな物体(大きさ0の点粒子ではなく、10の-33乗センチメートル=プランク長さのひも)だった、ビッグバンの時にはすべて小さく折りたたまれていた11次元のうち、ビッグバンを通じて宇宙の拡大がはじまるとともに3つの空間次元(と時間次元)だけが引き伸ばされ、その他の次元はいまなお小さく折りたたまれて、あらゆる空間に存在していることなど、直感的なイメージを拒むその事実がかえってこの世界を新鮮に感じさせてくれたり。
ひも理論以前の一般相対性理論と量子力学の衝突は、自然法則は断絶のないまとまりのある全体のなかにおさまるはずだという私たちの直観に反するものだった。しかし、これは単に抽象的で高尚な次元の対立というだけではおさまらなかった。ビッグバンの瞬間やブラックホールのなかのような極端な物理的条件は、重力を量子力学的に定式化しなければ理解できない。ひも理論の発見で、今や、こうした深遠の謎が解けるという希望がある。
「深遠の謎が解けるという希望」は物理学者ではない私にもやっぱりわくわくさせるものがあります。
著者自身がいうように、たとえ超ひも理論/M理論が、量子力学と相対性理論を統一させ、宇宙の統一理論を完成させたとしても、自然法則はその先に新たな大きな謎を私たちにも見せるかもしれません。
しかし、物理学に限らず「知」とはそもそもそういうものだと思います。
めずらしく時間をかけて読んだ本ですが、相応の楽しさを与えてくれた本でした。
評価:
評価者: gitanez
評価日付: 2006-07-19
著者: ブライアン グリーン, 林 一, 林 大
出版年月日: 2001-12
出版社: 草思社
ASIN: 4794211090
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