「Web2.0を儲かるか?」という疑問への批判と、それを批判することへの批判

Web2.0を儲かるか?という疑問を目にするたび、私はいつも疑念を抱きます。

その理由の1つは、その問いは「自動車産業は儲かるのか?」「医療作業は儲かるのか?」「LOHASは儲かるのか?」といった質問同様、その答えはその産業に関わる各企業の努力次第によるところが大きく、作業全体がお金を生み出し成立するかも各企業の努力の総体によるものであろうからです。
つまり、「儲かるのか?」と暢気なことをいっているヒマがあれば、具体的に利益を生み出す方法を考案し、実現することに努力すればよいのではないかというのが1点。

それから、別の理由として、別に必ずしも儲けることばかり考えなくてもいいのでは?と思うからです。
Web業界で産業に直接関わる人たちにとっては、もちろん、儲けることは仕事の一部だといえますから、儲ける方法を考えることは必要でしょう。
しかし、それでもすべてを儲けに還元して考える必要はやっぱりないと思います。

「文化よりも金」

先の「人体 失敗の進化史/遠藤秀紀」で紹介した『人体 失敗の進化史』で著者は、獣医学のおかれた厳しい現状を次のように語っています。

しかし、残念なことに、いま動物学の世界では、遺体を集めて知識を増やしていくような時間のかかる研究はなかなか進められなくなっている。皆さんもお気づきと思うが、たくさんの遺体を集め、身体の歴史を解き明かそうという試みは、新製品を開発したり、大きな商品マーケットを作り出したりするような、スピードの速い実学とはかなり異なるものだ。
遠藤秀紀『人体 失敗の進化史』

獣医学のように直接には商売への結びつきを想像しにくい分野は、ヒトゲノムなどの遺伝子生物学などの商売につながりやすく思える分野に比べて、大学や研究所においても冷遇されている現状があるといいます。
「文化よりも金」という雰囲気が、現在のアカデミックな世界でははびこっているようで、まだ記憶に新しい韓国のヒトES細胞のような騒ぎのように、ウソまでついて名声や注目を集めようとする(そこまでいかないにしても)雰囲気があるそうです。

はっきり言って、「文化よりも金」という政策は、将来的な利益を考えることもなく目先の売り上げを稼ぐために安売りや非効率なプロモーションに走る企業の杜撰なマーケティングを想像させます。
そうです。それは目先の、短期的な利益だけを追っかけ、中長期的な利益を求める姿勢を廃棄するものだと思います。
時間をかけて生み出した文化が、結局、金になるのは、フランスなどの国を挙げての文化政策や、企業のブランド構築をみてもわかるはずです。
そうして時間をかけて構築した文化は結局、目先の利益を求めて実施した杜撰なマーケティング施策より多くの利益を生み出すことは多いのではないでしょうか?
また、文化と書きましたが、それこそ、「企業の基本設計」で論じたように企業文化は企業を支える基本設計として、短期的な施策をも効率化し、無駄なコストを極力抑えるようにも働くでしょう。

「文化よりも金」を批判するだけなら「文化よりも金」のほうがマシ

「Web2.0を儲かるか?」という疑問にはどうもそのあたりの想像力が欠けている気がします。
しかし、その一方で「Web2.0を儲かるか?」と疑問を発し、Web2.0をきちんとビジネスに乗せようとする努力を、短絡的に「一部の儲け主義」のように扱うのも違うなと思います。

一方で儲けることに努力しようとしている人がいるなら、そうでない人は安易にそういう人を批判するのではなく、自分たちはそれとは異なるアプローチ(つまり、より中長期的なアプローチ)で、Web2.0の力をより深く分析し、将来につながるにはどうすればいいかを考察することに努力すべきではないでしょうか?

そうした努力をせずに、Web2.0を儲けに使おうとする人たちを批判するのはおろかです。
だって、いかにそうした人たちが短期的な視点しかもたず、ヘタすればWeb2.0をバブルに終わらせてしまうとしても、その人たちはそれなりにお金や結果を生み出すでしょうし、失敗から何かを学ぶのかもしれないですから。
そういう人たちの行動を何もせずに批判するだけなら、小額のお金も結果も生み出せないあなたがたははじめから負けてます。

さっき、はてなを見ていて、こんな本が出ているのをはじめて知りましたが、マイクロソフトの企業イメージをブログを変えたことなどを扱った『ブログスフィア アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち』なんて本も出ているようです。
直接、すぐにはお金にならないが、中長期的には企業に利益を与える力をブログをはじめとするWeb2.0と呼ばれる技術や考え方はもっているはずです。
直接的な儲けを考えることを他人に任せた人は、こうした中長期的な視点でのWeb2.0の影響力を考えてみてもいいのではないでしょうか?

この記事へのコメント

  • simfarm

    ヒトの原動力が「家族形成意欲」であるように、ビジネスの原動力は「金儲け」である。でないと、ヒトという種が途絶えるのと同様、ビジネスは途絶えます。だから、「web2.0は儲かるか?」という問いは、至極まっとうな問いだと思います。「真剣に」という条件付きでですね。おためごかしなしで。
    実はそんなベタな中から「文化」は生まれるんじゃないかと思います。きれいごとを言ってても、パワーのあるものは生まれませんから。

    で、問題の本質は、web2.0をベースにしたビジネスは、なかなか「儲からない」ってことにつきます(爆)。
    2006年07月17日 00:56
  • gitanez

    でも、ビジネスって途絶えちゃいけないんでしょうか?
    絶対に?
    だって、近代以前はビジネスはありませんでしたよ。
    そして、その時代にも文化はあった。
    このエントリーは、そういうパースペクティブの話だったりします。
    すくなくとも、大学は金儲けの道具だけじゃないでしょうから。
    おまんまを食べていけることと金儲けは別の話ですよね。
    じゃないとNPO(ノンプロフィットオーガニゼーション)が成り立たないですし。
    2006年07月17日 01:07
  • simfarm

    はい、途絶えちゃいけないと思います。
    NPOだって、儲けてるじゃないですか?再配分しないだけで。逆にそういう力の働かないNPOはほとんどつぶれてるようですよ(NPOの統括機関の理事長談:かつての上司)。
    2006年07月17日 01:25
  • gitanez

    NPOは儲けない=Non ProfitからNPOですよ。
    必要なコストの分だけ予算を得るのと儲けるのとは違いますよね。
    でないと、企業とNPOを別の組織にすること自体、おかしくなります。

    ようは「お金で買えない」価値があるということです。
    マスターカードには w

    以上。
    ここでの議論は終了です。
    そのためにコミュニティを立ち上げたので。

    2006年07月17日 01:33
  • さん

    ぼくは最近Web2.0という言葉を耳にしました。
    壮大な話だなーと驚き、そういった類の書籍に目を通し、
    SNSやグーグルのサービスなどに興味を持つようになりました。
    今後の発展を素直に楽しみにして、いつか自分もなんらかの形でサービスを提供できたらなと思います。
    幼稚な文章で申し訳ありませんでした。
    2006年07月25日 14:20
  • gitanez

    さんさん、コメントありがとう。

    そうですね。発展は楽しみですね。
    まぁ、傍観者であるばっかりじゃなく、積極的にその発展に参加していきたいですね。
    2006年07月25日 20:47

この記事へのトラックバック