離島への旅から学ぶ情報格差の現状

今回の西表島の旅行で、現在の情報格差について、いくつか感じたことがあったので、メモ書き程度にここに残しておこうと思います。

離島という条件

まず、このあとの話を理解しやすくするために、西表島の地理的条件について書いておきます。

西表島は、沖縄の石垣島を中心とした八重山諸島の1つで、地図上の場所としては、日本よりも台湾に近い場所にあります(西表島も日本の一部なので、この表現はおかしいですけど)。
八重山諸島は、沖縄本島からも飛行機で1時間離れた場所にあり、西表島はさらに石垣島から高速船で40分ほどの場所にあります。
東京からだと羽田から石垣直通便でも3時間強、さらに船の40分を足すと、4時間近くかかります。4時間と書くと、そんなに遠くないような気がしますが、実はこの総移動時間よりネックになるのが、船の40分だったり、那覇~石垣間の飛行機の1時間だったりします。

また、西表島内には、島を3分の2周する1本の道路があるだけで、道路がない集落には船を使ってしかいくことができません。島は東部と西部に分かれており、それぞれに石垣島との船の定期航路がある2つの港があります。道路の端から端までは1時間半くらい。2つの港の間も約1時間くらいです。
この距離のおかげで、急性胃腸炎の腹の痛みにこらえながらバスで1時間、台風で荒れる海を船で約40分移動しなくてはいけませんでした。

ちなみに今回、仕事ができるようにノートPCを持参したのですが、WILLCOMのPHSは圏外で結局、インターネット接続はできませんでした。

台風による影響

さて、こんな地理的条件の島に台風が来たらどうなるかわかりますか?
まず、他の地域との唯一の交通網である船が動かなくなります。
その時点で離島はまさに孤立状態になります。
今回も台風3号の影響で、1日船が動きませんでした。

台風の西表

船が動かなくなると、本当を経由して石垣島から届けられる新聞が届かなくなります。通常でも新聞は遅れて配送されてくるのですが、船が動かなくなると1日以上遅れるわけです。これは石垣島でも似た条件で、飛行機が飛ばなければ本当から新聞が届かなくなります。
テレビでニュースは見られるので、新聞が遅れることにさほど問題はないのですが、モノといっしょに情報を送るということがこんな脆弱性をもっていることをあらためて感じたわけです。

とはいえ、テレビがあるから安心というわけではないようです。
今回は大丈夫でしたが、台風が直撃したりすると、島は3日間ほど停電することもめずらしくはないようです。そうなると当然、テレビを見るのもままなりません。
インターネット接続も先ほど書いたような状態ですから、停電になると、それこそ外部からの情報から隔離された状態になるわけです。
東京で仕事をしていると、ほんの1時間程度の停電でも大問題だったりします。停電は、情報の送受信にだけ影響を及ぼすだけでなく、当然、クーラーが効かないだとか、明かりがつかないとか、他にもいろいろ問題があったりします。
しかし、東京でならそれこそ携帯電話での情報取得もできますし、そもそも停電自体が迅速な対応で復旧されます。
それが3日間続くのですから、その際は情報の流通といった側面からみても離島は文字通り孤島化するわけです。

日本国内でもこれだけ情報格差が存在するわけです。
ITがグローバル世界を加速するみたいな言い方がありますが、とはいえ、地理的・物理的問題が完全に解消されるわけではないので、むしろ、それは格差の拡大でもあるのだろうなとあらためて感じたわけです。

診療データの共有

さて、今回の旅行では、旅の途中に急性胃腸炎に罹り、急患で石垣島にある県立八重山病院にお世話になったわけですが、考えてみれば、個人の診療データってなんでいまどき病院間で共有できるようになっていないんでしょう? 一部ではできているところもあるかもしれませんが、まだ全国レベルで実用可能な状態には程遠いのでしょうね。このあたり正確な知識をもっていないので、体感レベルで感じたことを書いているので、本当はもうすこし進んでいるのかもしれませんが、これだけネット社会になっているのに、それっていったいどうなんでしょうかとは感じます。はっきりいって、ただの怠慢としか思えません。

例えば、今回の私の場合、普段は東京に住んでいて、当然、居住地近くには罹りつけの病院がある。ただ、今回のように旅先で急に病気になった場合、普段通っている病院から私の情報を得られれば、まったくの初診状態ではなくなるはず。さらに旅先での診療結果を、逆に東京に帰ってきてからも参照して、引き続きの治療が可能になるはずです。
さらに言えば、私の場合、名古屋に出向中ですから、そこでも同じように診察結果の共有が行われていれば、いちいち行く先々の病院で同じような質問、同じような検査を受ける必要がなくなるはずです。
そんなことがはっきりいってまったくできていません。保険証番号とかで個人認証も比較的容易に確立できそうなのに、それができていないのは、ITの問題というより、そもそも医療現場が病院間の境界を越えた連携、あるいは同じ病院内でも医師間の情報の連携、知識の共有などに問題を抱えているからなのではないでしょうか?

そんなことを考えると、旅行前に書いた「Web2.0的でない企業にはWeb2.0サービスはできない」のエントリーでのWeb2.0に向かない企業という問題も違った見え方をしてきます。つまり、企業内でそもそも情報の共有や集合知の活用といった土台ができていないと、その上にWeb2.0的な技術が乗るわけがないということです。

たまにこうして普段と違う環境に身をおいてみると、普段気づかなかったものも見えてくるようになります。
後半は散々な感じもあった今回の旅行ですが、まぁ、そういうのも旅の一部なんでしょうね。
勉強になります。

 

この記事へのコメント

  • takahanomori

    旅行先で急病、大変でしたね。
    医療現場における情報共有については、
    ご指摘のように遅々として進んでおりません。
    その理由は…
    ぜひ医療現場にお越しください。
    できれば、一般診療の最前線にある
    地方の小規模病院に。
    医療制度の「改善」による現場の混乱、
    その日の食い扶持を稼ぐための日々の金策、
    扱うべき情報の非定型ぶり、
    スタッフのメディアリテラシーの低さ。

    おそらく、最前線病院の大半は
    「それどころではない」のです。

    お上からも、市民からも攻撃され
    身動きがとれなくなっている医療現場に
    いま一番必要なのは、
    「情報」の意味を知っているgeekのような
    気がします。

    お上の手による電子カルテ共用化が
    進められていますが、
    十分に現場の声を拾っているとは
    到底言い難い代物です。

    現場の声をシステム化できる
    医療知識と技術力をもった
    geekの存在が、求められているように
    思います。
    2006年07月11日 20:28
  • badcad

    初めまして。
    離島の情報格差ですか。
    離島出身である私自身の立場からコメントさせていただきますが、
    私が故郷に住んでいた頃は、台風による交通網の麻痺や情報網の遮断は、
    ごく当たり前のことなので特に意識してませんでしたね。今もですけど。
    そもそも、テレビや携帯などの外からの情報はこうした地域での生活では、突き詰めて言うと不要でさえあったような気がします。
    情報に対する依存度が低いので、格差それ自体を感じることもない、といった感じですね。
    なので、離島の情報格差といわれても私にとってはちょっと心外な印象でした。
    格差を感じることも出来ない状態が、もっとも大きい格差かもしれませんが。

    あと、どうでもいいことですけど、
    「沖縄本島よりも台湾に近い場所」のほうが
    イメージしやすいかと思いますがどうでしょう?
    2006年07月12日 21:25
  • gitanez

    >takahanomoriさん、
    コメントありがとうございます。
    最前線は「それどころではない」というのは、おそらく、そうなのだろうと思います。
    企業でも、中小企業などはそれほど変わらない状況なのでしょうし。
    とはいえ、病院ならではの問題もあるのではないかと思います。

    ただ、geekが企業のITを必ずしも改善できないように、情報の価値を知っていれば、問題の改善が必ずしもできないのかもしれないなと感じました。
    これは別エントリであらためて取り上げさせていただきます。
    2006年07月12日 22:47
  • gitanez

    >badcadさん、
    コメントありがとうございます。
    書き方が悪かったようですが、「離島の情報格差」ではなく、格差なので離島と別の地点のあいだの2点間の格差ということになります。
    さらにいうと「格差」という言い方は上下感を感じさせるのでよくないですね。
    問題は「格」ではなく「差」だと思います。
    つまり「一様ではない」「多様性がある」という現状を示したかったわけです。

    「ちょっと心外な印象」を与えてしまったとしたら、私自身、まだ「一様でなさ」をとらえきれていないのでしょうね。
    2006年07月12日 22:53

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