Web2.0と既存ビジネス、あるいは多様性とばらつき

昨日の「Web2.0的でない企業にはWeb2.0サービスはできない」には、またしても多くの人にブックマークしていただいた。
その中に「うちの会社みたい」といった旨のコメントがいくつか見受けられましたが、それがむしろ当たり前なんじゃないでしょうか?
Web2.0はいまでこそプラスのイメージをもたれることのほうが多いようですが、ビジネスの健全さを考えれば、Web2.0的でない企業のほうがいまのところは健全だったりするんじゃないかと思います。

手放しにWeb2.0を評価していないか?

間違えてはいけないのは、現時点ではWeb2.0をサービスとして事業展開している企業よりも、明らかに既存のビジネスモデルで事業展開を行っているメーカーや流通業、サービス企業などの一般企業のほうがビジネスとしては成功している企業の実数が多いということです(割合を比較した場合でも多いのでは?)。
もちろん、うまくいっているのは「現時点では」という但書きが必須なのかもしれませんが、かといって、この先、Web2.0的サービスがビジネスとして既存のビジネスを脅かし、かつ、自身が成功するという保証はどこにもありません。
Web2.0的なビジネスに対して手放しに賛辞を与えるような理由はどこにもないのです。

ですので、むしろ問題にしたいのは、既存のビジネスモデルでそこそこ成功している企業が、流行っているだけでWeb2.0に飛びついてもマイナスはあってもプラスになることはそんなに多くはないのではないかということです。
もちろん、うまくサービスを展開すれば注目を集め、自社のブランドを高めることにつながるかもしれません。
しかし、それを期待する場合、既存のビジネスで築いてきたブランド価値を損ねることなく、いかにしてWeb2.0的なサービスを展開できるかということを、明確なサービス目標とリスクの定義を行いながら、きちんとしたプロセス・マネジメントの仕組みを整えた上で運用していけることが必須条件になるのではないでしょうか?

集合知の活用のための多様性の確保

Web2.0の遺伝子をもったサイトの枠を超えたサービス展開を考えるなら、一番、重要なのは、サイトの外側で起こることに対して、いかなる姿勢を示すことができるかということではないでしょうか?

先日、ライブドアがブログを3本の柱にしたリニューアルを行い、話題となっていましたが、それはライブドアブログの中で起こることを重視したというよりも、ライブドアブログを使っているブロガーが外部のほかのユーザーとの交流によって、ライブドアブログにもたらすメリット(例えば、広告の利用増につながるトラフィック)を重視したからだと考えてよいのではないかと思います。
サービスとして自社のサイトの機能やユーザビリティを高めるのは必要ですが、そのサービスが自社サイト内で完結するか、それとも、外部で何かしらの大小さまざまなイベントを無数に起こす可能性をサポートするものとして位置づけるかは大きな違いでしょう。
また、いわゆる集合知の活用を考えると、多様性の確保は必須条件となりますが、これもまた、既存のビジネスを展開し、自社のブランドイメージを大事にする企業がどのような形で、そこにあるリスクも含めて取り入れることができるかも1つの課題といえるでしょう。

このあたり、自社の枠を守る必要性や、そのことで一定の信頼性の確保やブランドとしての価値を一定に保つことが求められる既存の企業のビジネスとは「馴染まない」と思うのが、先のエントリーの背後にあるものです。

ばらつきは経営の敵

ちょうど、このあたりの話に近いテーマをCNET Japanのブログで渡辺さんが取り上げていましたので、ちょっと引用(詳しくはぜひ渡辺さんのブログで)。

リスクとしてよく言われるのが、口コミマーケティングでも言われているような、企業がバックアップしていることによってコンテンツの信頼性を疑われ、くるっと巡って企業のブランドにネガティブな影響を与えてしまうこととされる。


渡辺さんが問題にしているのは、コーポレート・レピュテーションのマネジメントと、参加のアーキテクチャーだとか、口コミマーケティングといったものと、どう折り合いをつけていくかという話だと思います。
これは大きな課題といっていいほど、既存のビジネスの考え方と折り合いがつきにくいんだと思います。

例えば、経営品質を高めるためには「ばらつき」をなくすことが求められます。
わかりやすい例で言えば、不良品率をシックスシグマ以内におさめることが目標にしたりしますよね。

シグマは統計用語で「ばらつき」(=値の散らばり具合=標準偏差)を意味し、σの左側にある数字が大きいほど「バラツキが小さい」ということになります。なので不良品発生率シックスシグマ(6σ)を目指すというのは、不良品が発生する確率を10億分の2となるよう目指すという意味です。
実際、シックスシグマの基本精神には"「ばらつき」こそ経営の敵"があります。

そして、これは何も生産工程だけのばらつきを対象にしているわけではありません。
企業に対するイメージがへんにばらついてしまっていたりすると、適切な企業ブランド・イメージが形成されず、特徴のない、記憶に残らない企業となってしまいます。
サービス目標がきちんと定義され、かつ、そのとおりに実行されており、それが外部にも評価を受けていれば、適切なブランドイメージの形成ができ、それがブランド価値として企業の武器ともなりえますが、そこにイメージのばらつきがあるとそこまでたどりつくことはできません。
確かに、ばらつきは経営の敵なのでしょう。

サービス目標を明確にする

とはいえ、ばらつきと多様性は互いに矛盾するものではないでしょう。
両立させるためのマネジメントはむずかしいとは思いますが、決して対立しあうものだとは限らないと思ったりします。
1つにはサービス目標を明確にし、多様性を受け入れること自体をうまくばらつきなく示し、そこから社会的な価値を生み出せるようなサービスを展開できれば、両者を共存させることは可能なはずです。
そこまでサービスをデザインできれば、既存のビジネスとWeb2.0的サービスの両立は不可能ではないでしょう。
ただ、それは昨日も書いたとおり、なかなかむずかしいというのが現実だったりするのでしょうけど。
でも、まぁ、あきらめずに道を探るのがいいのではないかと思います。

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