セグメンテーションとターゲティング:誰が認知するのか?

毎度のことですが、整理しきれていないエントリーは、読んでくださる方に誤解をもたせてしまうようですね。

とはいえ、今回のセグメンテーション・ターゲティングについての解釈はどうも納得できませんでした。150という数値との「相関」も「因果関係」もからっきしないように思います
ネットワーク社会で必要な認知のツール、認知のための思考法へのsimfarmさんのコメント
とはいえ、150の法則と並べて書いていますが、150の法則とセグメンテーション・ターゲティングの間に相関関係があるとも、因果関係があるとも書いていません。

150の法則から、セグメンテーション・ターゲティングの話につなげたのは、あくまで150名以上を相手にしなければ商売の成り立たない企業のマーケティングにおいては、認知のツールのために、セグメンテーション・ターゲティングのような拡張ツールを用いなければ、適切な顧客理解もおぼつかないということを示すためでした。

図にすると、こんな感じでしょうか?

パターン認識

目や耳といったデフォルトでヒトに搭載されているツールだけだと、150の法則が成り立ってしまう。
それをもうすこし拡張できるツールとして、拡張センサという括りにした様々なツールがあるわけで、従来のマスマーケティングなどもこうしたツールがあるおかげで成り立っていたのだと思います。

有効なセグメンテーション・ターゲティング

先のエントリー「ネットワーク社会で必要な認知のツール、認知のための思考法」では、従来のマーケティングで使われていたセグメンテーション・ターゲティングといったツールが適用できなくなってきているんではないかと疑問を呈したわけですが、かといって、セグメンテーション・ターゲティングというツールがまったく無効になったなどとは私も思っていません。

例えば、こういったセグメンテーションは今でも役に立つのではないでしょうか?
  • インターネットを頻繁に利用している人/していない人
  • 雑誌「LEON」を定期購読している人/していない人
  • 山手線で通勤している人/していない人
  • 毎朝牛乳を飲む人/飲まない人
  • 雑誌「LEON」を定期購読している人/していない人
例えば、プロモーション計画を立てる際に、上記の数字を押えておき、さらに自社が売りたい商品と上記の数字の相関関係を把握しておけば、ある程度、まっとうな計画にはなると思います。

メディアをセグメテーションの切り口とした場合、ターゲットを定めるという意味ではうまくいくこともあるでしょう(コストの関係が不釣合いでうまくいかないこともあるでしょう)。
例えば、メディアとはすこし違いますが、SEOやアドワーズなどのリスティング広告を使う場合も基本的な考え方は同じです。
その場合、各メディアの代わりに用いるのが、検索キーワードそのものだったりして、イメージ的には次のような形で、マーケティング計画を立てたりします。

marketing_plan

この計画を実施するのに、SEOを使うのか?リスティング広告を使うのか?によって、コストも踏まえた計画の立て方は大きく異なってきます。
リスティング広告を使う場合は、当然、費用を支払っている期間のみ、マーケティング効果は見込めます。
一方、SEOの場合、周囲の環境の変化を考慮しなければ、いったん、ある程度の上位表示が確立されれば、その後はコストをかけずに効果を得ることができます。
とはいえ、周囲の環境が変わらないというのは、あまりに空想的な前提条件で、実際には、月あたりのキーワードの検索数(ユーザー要求)も、検索結果表示順位(競合サイトとの力関係)も変化します。
同じく各キーワードあたりのコンバージョン率も変化するでしょう。

これは従来のマーケティング・ツールである雑誌やTVCM、交通広告などのメディアを使う場合と大きく異なるでしょう。
なぜなら、従来のマーケティング手法では、コストに縛られた形で各メディアを利用できる期間がある程度決まっているので、その間のマーケティング環境の変化はそれほど考慮しなくてもよいからです。
しかし、上記のようなSEOやリスティング広告をはじめとする、これまでより長いスパンでのマーケティング計画が必要なWebマーケティングを展開する場合、その期間内にマーケティング環境が変化することは大いにありうるわけです。
先にセグメンテーションやターゲティングを動的に行う必要があると書いたのは、まさにそのためです。

セグメンテーション・ターゲティングが無効になる場所

また、そもそも、セグメンテーションやターゲティングが役に立たない場合があるのではないかと思っています。
例えば、こういったセグメンテーションはほとんど役に立たないのではないでしょうか?

  • 「DESIGN IT! w/LOVE」と「404 Blog Not Found」の2つのブログを定期的に訪れている人/そうでない人
  • 「DESIGN IT! w/LOVE」を定期的に訪れていて、かつ雑誌「LEON」を定期購読している人/そうでない人
  • 「DESIGN IT! w/LOVE」を定期的に訪れていて、かつ山手線で通勤している人/していない人
  • 毎朝牛乳を飲みながら「DESIGN IT! w/LOVE」を訪れる人/そうでない人
  • 「DESIGN IT! w/LOVE」をたまに訪れ、一度でもアフィリエイト経由でAmazonで書籍の購入をしたことがある人/していない人
  • 「404 Blog Not Found」をたまに訪れ、一度でもアフィリエイト経由でAmazonで書籍の購入をしたことがある人/していない人
  • 「404 Blog Not Found」と「Life is beautiful」と「My Life Between Silicon Valley and Japan」と「naoyaのはてなダイアリー」と「100SHIKI」をRSSリーダーで購入している人/していない人
この例はわざと役に立たなさそうな例を挙げたわけですが、そうでなくても、CGMという個人メディアをベースにセグメンテーション~ターゲティングを行うことは非常にむずかしいのではないかと思います。

そう思う理由は、基本的にCGMという個人メディアがあまりに多くの変数を持ち過ぎているからです。
個人の表現可能な領域のみを抽出した形のCGMとはいえ、そこで表現される内容はやはり元の個人がもつ多くの変数を受け継いでいるはずです。
そもそもセグメンテーションを行う理由はそうした個人のもつ無数の変数を便宜的に捨象して、特定の変数のみに着目することにより有意義な認知を確立しようとするものだと思います。
そうなると既存のメディアの代替物としてCGMを捉えて、メディアベースのセグメンテーションを行おうとしても無理があるのではないかと思います。

CGM:マーケティングへの複数視点(脳)の導入

CGMの力を活用したマーケティング展開が注目されつつありますが、その際の戦略が従来のような静的セグメンテーション~ターゲティングを重視したものではないでしょう。
むしろ、量子のダンス並みに移ろいやすく、かつ確率論的なユーザーのいまここのニーズを的確にとらえることを可能にするため、ロングテール的発想で間口を広げようというのが基本戦略ではないでしょうか?
そのために、無数に存在するCGMの力を利用しようというのが、CGMを利用したマーケティングの正しい理解であり、ようするに従来の言葉でいえば口コミ・マーケティングに近いものだといえるでしょう。

CGMマーケティングと従来のマーケティングとの違いは、1人もしくは少数のマーケターの固定化された視点でセグメントを行うのではなく、それぞれネットワークを有するブロガーたちの複数の視点(脳)を援用させてもらうことで、ユーザー個々の微妙に異なるニーズとのマッチングを図ろうという点ではないかと思います。
ようするに、そうすることで認知する視点を大量に増やし、1人では150人程度しか認知できない脳の限界を超えるというのはこの手法の基盤にあるものではないかと思います。

もちろん、そうした試みはまだはじまったばかりで、従来のマーケティング効果と比較するのは早いのかもしれません。
しかし、従来のマーケティング手法がコスト面で問題を抱えている現状では、新たな手法の確立を目指していくほうが健全なのではないかと思っています。

 

この記事へのコメント

  • simfarm

    さっそくの解説痛み入ります。
    ありがとうございました。
    動的なセグメンテーション、複数脳の援用という視点・概念はとっても新鮮です。より深めていただきたいです。もちろん私も考えます。集合知ですからね(^-^)
    2006年06月29日 19:01

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