「Amazon e託販売サービス」にみる新しいマーケティング発想

ちょっと反応が遅くなったが、Amazonが先日はじめたe託販売サービスについて、ちょっと考えてみます。

Amazon e託販売サービス

まず、Amazonのサイトに掲載されているサービスの説明を見てみましょう。

Amazon e託販売サービスhttp://advantage.amazon.co.jp/gp/vendor/public/join/249-4732286-5378750

出版社・メーカー様が販売権を有している商品をアマゾン配送センターに委託在庫。Amazon.co.jp上で通常24時間以内発送可能との表示にし、カスタマーへの商品販売、配送及びサポートを提供するサービスです。
一般的な企業がもつ以下の主要な機能-製造、販売、流通-のうち、販売と流通(+課金)を受託しましょうってサービスのようです。
メリットとしては

・「通常24時間以内発送」による販売拡大
・委託商品数の上限なし(在庫数はAmazon.co.jp需要予測により設定)
・月末締め翌々月末日指定銀行口座への振込み
・e託セントラルにて24時間オンラインで「販売&在庫レポート」が確認可能
といったことがうたわれています。
確かに、Amazonの「通常24時間以内発送」は魅力だし、SEOにも強いAmazonのサイトで販売されるとすれば、ロングテール的販売効果は得られる可能性は高そうですね。
上記の説明だけだと、アフィリエイトに対応しているか、よくわかりませんが、仮に対応しているのだとすれば、これまで本やDVDなどをブロガーがブログで紹介することで販売のサポートをしていたように、Amazonを総合販売代理店として、ブロガーを販売員とした販売網を、企業側は特別なマネジメントも必要とせずに構築できるようになるわけですね。

それ以上のe託販売サービスに関する考察は、ネタフルさんやCNETにまかせることにしましょう。

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ここではこうしたビジネスの形が可能になると、マーケティングの発想をどう転換できるかについて、ちょっと考えてみたいと思います。

マーケティングは「広告」「販売」「営業」ではない

先に一般的な企業のもつ機能として、製造、販売、流通をあげましたが、その他にも調達だったり、研究・開発だったり、課金だったり、販促だったりがあったりします。
「売る仕組みをつくる」活動としてのマーケティングは、これらの機能のどこにコアコンピタンスをおくかだとか、全体的なオペレーション最適化をはかることだとか、それらに付随して何を自社内におき、何をアウトソーシングするかといった、企業のもつ機能(人事系や経理系の業務などは省かれるかもしれませんが)の全般的な最適化をはかることで、その目標を達成されるわけです。
どうもマーケティングというと、広告の話だとか、販促、営業的な話だといった狭い理解がなされているようですが、売れないものはいくら広告や営業力で効率化したところでたかがしれてるんじゃないでしょうか w

で、先にも触れたようにAmazonはこの中の販売機能と流通機能を受託してくれるわけで、そうなると狭義のマーケティングのイメージである「販促、営業的な話」ってアウトソーシングして自社でやることがなくなるってことになります。
おまけにすでに「広告の話」をアウトソーシングしてるなら、あなたの企業は自社内にマーケティング機能をもっていないわけですか?という話になります。
そんなわけはありませんので、元々のマーケティングに関する認識がやっぱり狭すぎるわけです。

マーケティングの定義

では、マーケティングって何?ということを、米国マーケティング協会(AMA)が2004年の8月に実に19年ぶりに改訂したマーケティングの定義を参照すると、

マーケティングとは、組織とステークホルダー(関与者)両者にとって有益となるよう、顧客に向けて「価値」を創造・伝達・提供したり、顧客との関係性を構築したりするための、組織的な働きとその一連の過程である。(翻訳:鶴本)
とされるわけで、どこにも「広告」「販売」「営業」なんて文字は入っていません。

かつてドラッカーも、マーケティングの目的は最終的には販売をなくすことだといった旨のことを言っていましたが、実際、販売をなくしても利益があがるようになればそれはマーケティングです。
もちろん、販売力にコアコンピタンスをおくマーケティングもあるわけで、決して営業力、販売力を否定するつもりはありませんが、それがマーケティングのすべてであるような誤解はといておきたいわけです。

ロングテール論、再び

先日「ロングテール現象はパレートの法則とまったく対立しない」のエントリーで「ロングテールをうまく戦略に取り入れようとするなら、そもそも、その長い尻尾だけを追いかけてもダメなのです」と書きましたが、あえてそう書いたのは一般的な企業のサイトがロングテールの長い尻尾の側でなく、高い頭の側を抑えるのは非常に困難だと思うからです。
さらにロングテールの前提である低コストによる巨大な在庫を確保することは、単にリアルな商品の在庫ではなく、ネット上の情報だったり、膨大な量のトラフィックを抱え込むという意味では、やはり一般企業にはなかなか手を出しづらく、ロングテールをビジネスとして成り立たせているGoogleやAmazonに集まる情報量やトラフィックを一般の企業がこなせるだけのインフラを整備するのは、それこそそこからコストパフォーマンスを出せるだけの販売量が同時に必要となってきます。
そういう意味で、安易にロングテールをマーケティングに取り入れようなんて発想に飛びつくのは馬鹿げていて、もし一般企業がロングテール的なものを取り入れようとするなら、先のAmazonのe託販売サービスだったり、GoogleのAdwords広告を利用するといった形でしかないでしょう。

さらにGoogleのGbuyなんて動きも、この方面での企業のマーケティング機能の一部(販売機能)のアウトソーシングといった流れを強化するのではないかと思います。

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マーケティングの新しい発想

とはいえ、販売に直結した形ではなく、先のAMAの定義による「顧客に向けて「価値」を創造・伝達・提供したり、顧客との関係性を構築」するといった意味でのマーケティングを考えるなら、決してロングテールを狙うことは間違っていないのかもしれません。

というのは、自社のマーケティング機能のうち、販売や流通に関わる部分を外部委託して、それこそブロガーの手によるアフィリエイトなども含めてある程度の販売量を確保できるのなら、企業側はむしろそれ以外の機能を強化することに注力できるわけです。
であれば、例えば、顧客との価値の共創を前提としたようなR&Dの仕組みづくりだったり、顧客との関係性あるいは顧客相互の関係性を強化するような仕組みづくりを強化することで、そこから得られたものを再度、販売の側にフィードバックする流れもつくることは可能なはずです。

販売ではなく、むしろ、そういった面でロングテールの発想を取り入れ、代表的な顧客の声だけでなく、突出した顧客の声、草の根的な顧客の声まで拾えるようになれば、R&Dや顧客との関係性づくりに対する発想も大きく変わってくる可能性もあるのではないかと思います。

と、書くのは簡単ですが、実際、それを実行に移すのは生半可なことではありません。

既存のビジネスを省みず、極端な話、トヨタにGoogleになれといっているようなものだったりしますので。
もちろん、既存のビジネスを放棄する必要はなく、一方で特別プロジェクトとして小さくはじめるのが実現に向けた現実的な解なのですが、その一歩さえ踏み出すのは容易ではないのかもしれません。
確実に経営者にとっては勇気が必要だし、現在そしてこれからのネット環境をふくむ情報社会をどう理解するかという面で先見性のある眼が必要なはずです。

今回のAmazonのe託販売サービスはそんなことを考えさせるものでした。

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  • ロングテール現象とは?
  • Excerpt: 今日の日経新聞にも掲載されたロングテール現象について解説しています。
  • Weblog: 毎日1分!0からわかる日経記事解説
  • Tracked: 2006-06-23 10:30