2006年06月14日

インタラクション・デザイン:行動とフレーム

消費者行動学、消費者心理学といった視点から、顧客(そして、マーケター)の行動における判断の構成要素を「心−脳−体−社会」のつながりによる三次元ピラミッドで把握することでマーケティング・アプローチのパラダイム転換を提案した『心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす』の著者ジェラルド・ザルトマンは、これからのマーケターは自身の専門分野だけでなく、認知心理学や脳神経科学、言語学など様々な専門分野をまたいだ視点で捉えなおす姿勢をもつことが重要だと述べています。

同じことはWebのデザイン、設計に関わる人、Webマーケティングに関わる人にもいえるのではないでしょうか?
自分の専門分野にこだわり、それを集中的に勉強するのは悪くありませんが、ただ、集中しすぎてそれだけになってしまうと、本来見えるものが見えなくなってくることがあると思います。
自分の興味分野にだけ視線を向け、その狭い範囲内だけで思考を働かせていると、どうしても別の角度からみた場合の視点を考慮できなくなり、他の分野の優れた意見やアイデアも柔軟に取り入れることができなくなってしまうこともあるだろうと思っています。
ですので、時には他の分野の勉強をしてみることで、自分の知識の視野を広げることが必要なのではないかと思います。

行動経済学におけるフレーミング効果

標準的経済学が前提としている合理的で利己的な人間像を否定し、人は実際にどのように行動するか、なぜそうするか、そうした行動の結果として何が生じるかといった認知心理学的テーマに取り組みながら経済学的問題を扱う行動経済学という分野があります。
1979年、カーネマンとトヴェルスキーによる論文「プロスペクト理論:リスクの下での決定」の発表を機に誕生した行動経済学はその後の30年間で、様々な人間が実際にどんな認知を行い、どんな認知を元に行動しているかという発見を数多く発表しています。

その中の1つにフレーミング効果と呼ばれるものがあります。

 人が質問に答える時、一般的には人間の意思決定は、質問や問題のされ方によって大きく変わることに着目し、期待効用理論に対する反例として取り上げたのはカーネマンとトヴェルスキーである。
 彼らは、問題が表現される方法を、判断や選択にとっての「フレーム」と呼び、フレームが異なることによって判断や選択が導かれることを「フレーミング効果」と名付けた。
友野典男『行動経済学 経済は「感情」で動いている』
例えば、同じ「コップ半分の水」でも、一杯に水のはいったコップからもう1つの空のコップに水を半分移し変えた場合、一杯に水が入っていたコップから見れば「水が半分残っている」といえるでしょうし、空だったコップからすれば「半分水が満たされた」となるでしょう。

Webアプリ開発者とカーナビ開発者

同じように地図上に位置情報を掲載する場合でも、ブログの記事で「このお店は美味しかった」と書く場合と、カーナビにそのお店の位置を表示する場合では、求められる位置情報の精度は大きく異なるはずです。
カーナビの場合、仮にお店の前の道が一歩通行だったりした場合、一本前の道から迂回したほうが最短距離になることもあったりするので、店舗が正確に道のどの面に位置しているかは重要な問題だったりします。

この場合、Googleマップをマッシュアップしたような地図アプリケーションに、ブログを使ってユーザーに投稿してもらうようなサービスを開発するWeb開発者が想定する位置情報の精度では、カーナビ開発者の求める精度の要件はまったく満たすことができないでしょうし、かなりしっかり説明してもらわないと、相手がなぜそんなに位置情報の精度にこだわるかもWeb開発者にはわからなかったりするのではないでしょうか?
頭の中につくられたフレームというのはきっとそのくらい強固なものなのだと思います。

行動によって変化する視覚のフレーム

伊勢神宮:2 20年周期の式年遷宮にみる4次元デザイン」でも書きましたが、日本の寺社に見られる鳥居や門などを視覚のフレームとして効果的に使った空間デザインには、情報をシーケンシャルにパターン認識する脳の認知形式をうまく捉えた工夫がされていると思います。

例えば、下の写真の伊勢神宮・内宮の正宮へ向かう階段でも、上にのぼっていくにつれ、最初は階段の先にある鳥居が視界に入っていたのが、徐々に鳥居の先の建物に目が移り、鳥居の目の前まで来るとすでに鳥居自体は視覚から消え、中の建物だけが目に入るようになります。

意識の遷移:フレームから対象へ

寺社の門でも鳥居と同じようなフレーム効果があり、その場合は周囲が壁や屋根で隠れるので、よけいに背後にある建物の見え方が見る位置によって異なり、近づいていくにつれ、視野の焦点が門から中の建物に集中していくという時間的経過による効果が得られます(下図参照)。

行動とフレーム

さまざまな視覚のフレーム

視覚のフレームということで、一番に思い浮かべるのは絵のフレーム(額縁)でしょう。
先の寺社の門や鳥居が人間の行動、見る位置によって中の絵が変わるフレームだとすれば、フレームの中の絵は基本的には変わらないといっていいでしょう。
ただし、この場合も西洋の絵画ではそうですが、東洋の山水画のような縦長のフレームをもつ絵だったり、日本の絵巻のような横長のものなら、まったく別です。
そこには視線の縦方向、横方向への移動により、絵の中の景色が変わります。
これも「日本的「空」「間」、西洋的「空間」」で述べたような西洋と東洋の空間や時間の捉え方の違いの1つなのでしょう。

視覚のフレームといえば、あとはテレビの画面やパソコンのモニターなどもあります。

テレビ番組をみる際は、人間の側はほとんど行動しなくても中の映像は変わります。
これは寺社の門や鳥居のフレームとは人間と見る対象の間の、どちらが動くのかという関係がまったく逆になっています。

一方、これを混ぜたのがパソコンのモニターを見るときやテレビ画面でゲームをやる場合でしょう。この場合、人がキーボードなどによって画面の中の動きの一部に干渉します。

以上をまとめると、こんな感じでしょうか。

フレームの種類人の動き見る対象物の動き
寺社の門や鳥居人間が見る位置を変える基本的に動かない
西洋絵画基本的に動かない動かない
東洋絵画(山水画、絵巻)視線を縦方向・横方向に動かす動かない
テレビ(番組視聴)基本的には視線の動きのみ画面の中の画像自体が動く
PCのモニター、ゲームのモニターキーボードやコントローラを動かす自律的な動き+人の操作による動き


インタラクション・デザイン:行動とフレーム

Webのデザインというと、どうしてもマウスやキーボードによる入力などの人間の側からのインタラクションに対して、モニターの中の画面をどのように変化させ、また、そうしたユーザー・アクションを誘発する(アフォードする)ためにどのような視覚デザインを施すかという視点が優先されます。

しかし、現在の通信環境を考えれば、こちらで操作し入力した情報を別の誰かが同時に見ていることは十分考えられるわけで、極端な場合、それは異なるフレームをもったカーナビの画面だったりするのかもしれません。

あるいは、あらゆるものにコンピュータが搭載され、そうしたユビキタスに散らばるセンサーから送られてきた情報がリアルタイムに自分の見ているモニターに表示されるとすれば、その画面に対して、僕らはどんなアクションをとれるようになるといいのでしょうか? ゲームをやる場合みたいに画面の中で起こった出来事に適切なフィードバックを返してやればいいのでしょうか? しかも、その時、見ている画面がウェアラブル・コンピュータのゴーグルみたいなものだったらどうでしょう?

先に書いたように、人の思考は与えられたフレームによって、判断や行動基準が左右されます。
情報をどのように見せるかは、どのようなフレームを与えるかによって変えることができるということです。

今でこそ、決まった縦横比率の四角いモニターの上のWebブラウザを想定して、その範囲内での人間の認知モデルをもとにデザインすればよいのですが、これからはそうしたフレームの条件自体が多様化することが想定されます。
その際、情報デザイン、インタラクション・デザインをどうするか?
そんな時のためにも、Webデザイン以外の勉強もしておいたほうがよいのだろうと思うのです。

1つの視点に凝り固まらず、柔軟な視点変化を可能にするためには、専門分野以外の勉強も積極的にやってみるのがよいと思います。
何を勉強しようか迷ったときこそ、いろんなブロガーが何に興味をもっているのか、あらためて探してみるのもいいかもしれませんね。

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posted by HIROKI tanahashi at 00:24| Comment(0) | TrackBack(0) | デザイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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