2006年06月11日

ロングテール現象はパレートの法則とまったく対立しない

『80対20の法則を覆す ロングテールの法則』という本があります。
ロングテールはWeb2.0をめぐるキーワードの1つですが、このキーワードを説明するのに、上の本のタイトルのように「80対20の法則を覆す」といった形で説明されることがよくあります。

しかし、これはある意味、間違っていると思います。
「80対20の法則」が単に「売上の8割は2割の優良顧客が生み出す」といったものを示すのであれば間違いとは言い切れませんが、「80対20の法則」がそもそも1897年に、イタリアの社会・経済学者ビルフレッド・パレートが発見した「パレートの法則」と同一のものを指しているなら、完全に間違いです。

私は上記の本を読んでいないので、本の中身についてどうこう言うつもりはないですが、そのタイトルからロングテール現象をパレートの法則と対立するものとして誤解している人がいたら、それを正しておきたいと思います。

パレートの法則

1897年にパレートが発見したパレートの法則は、彼が1880〜90年代のヨーロッパ経済を統計的に分析した上で、個人の所得金額(x)とその所得金額以上の所得を得ている人の数との間に、定数aとパラメータαに媒介される、

という関係が成立することを示したものです。
また、この関係を、所得者総数(N)に対する割合として書き直すと、

となります。

いずれにせよ、パレートの法則を数式化した2つの式が、一般的なベキ法則(ベキ分布)を示す

と類似するものであることはわかるでしょう。

そして、何よりパレートの法則の数式(ここでは2のほうを示します)をグラフ化すると、ほら。

これはまぎれもなく、ロングテール現象を示すグラフではないでしょうか?

パレートの法則を誤解しない

こんな誤解が生じるのもパレートの法則についた80対20の法則という別名のせいでしょう。
しかし、実際にはパレートの法則では80とか20とかいう数字は重要ではありません。
重要なことはごく少数の個体がきわめて大きな値を持つ(例えば、少数の人間が非常に金持ちになる)ということです。
別にその割合が5%だろうが、10%だろうが、少数であればかまわないのです。

そして、そのことを逆にみれば、大多数はあまり大きな値をとらない(金持ちではない)ということがいえるでしょう。
まったくロングテール現象でいわれていることそのままではないでしょうか?

ロングテールが注目されたのは、インターネット商取引などで在庫コストを気にせずに済むために、年に1回売れればいいような商品でも販売リストに載せておくことができるようになったことです。
それ以前は在庫コストがそうした少数しか売れない商品の合計販売額を上回る可能性が高かったために、ほとんど売れない商品は切り捨てざるを得なかったのです。
尻尾が短かったために、単に売り上げ比率が80:20に近くなっていたにすぎません。

ロングテールを誤解しない

それから、もう1つロングテールを誤解していると思うことがあります。

ロングテールは先に示したように、ベキ分布を示すようなものに対して成り立ちますが、人の身長のように正規分布を示すものではそもそも成り立ちません。

企業のWebマスターのための「せめてこれだけは使っておこう」」のエントリーで、「リテラシーが低いユーザーはどんなに工夫しても結局、Web使用率はそんなに高くなりません。それよりも普段、積極的にWebを利用しているユーザーのことを理解するほうがはるかに大事なことです」と書いたところ、いくつか「ロングテール」のことが抜け落ちているというご指摘をいただきましたが、この場合もロングテールは成り立たないと思っています。

というのは、計算したわけでも調べたわけでもないですが、直感的に想像するに、インターネットユーザーをリテラシーの高さでその人数を分布図にすれば、きっと正規分布に近い形になるのではないかと思います。
(参考:Wikipedia「正規分布」
少なくともリテラシーの異常に高い人(もしくは低い人)が多数いるようなベキ分布にはならないでしょう。
つまり、そこにはどこにもロングテール現象を期待できるような分布はみられないのです。
分布がそうなっていなければ、ロングテールを意識したプランなど立てようがありません。

また、ロングテールをうまく戦略に取り入れようとするなら、そもそも、その長い尻尾だけを追いかけてもダメなのです。
むしろ、すごく大きな数を手中にする少数の「頭」を押さえてはじめて、尻尾をつかめる可能性が出てくるのではないかと思います。
そして、ロングテールをつかまえるには、それをつかまえるコストがつかまえることによって得られるメリットより小さくなければ、そもそもダメです。

そう考えると、なんでもかんでもロングテールというわけにはいかないはずです。
このあたりはきちんと考えた上で戦略を練る必要があるでしょう。

関連エントリー

  
posted by HIROKI tanahashi at 02:30| Comment(3) | TrackBack(6) | Web | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おはようございます。

まったく同感です。

私はエクセルでモデルを作ってみました。
Posted by ひでき at 2006年08月18日 09:55
コメントありがとうございます。

エクセルのモデル見せてもらいましたが、非常におもしろかったです。

また、想像が膨らみました。
Posted by gitanez at 2006年08月18日 11:06
ハジメマシテ
ロングテール現象とパレートの法則について勉強していたらこのブログにたどり着きました。両者の関係について、大学入試でも出題されているようですが、特にパレートの法則の解釈として正しいのでしょうか。
Posted by ハリマオウ at 2007年07月02日 22:48
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