HCI(Human Computer Interaction)からHII(Human Information Interaction)へ

『アンビエント・ファインダビリティ ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅』に関する話題でもう一丁。

われわれはHCI(Human Computer Interaction、人間とコンピュータ間の相互作用)の「C(コンピュータ)」をなくさなければならない。なぜなら、アンビエント・ファインダビリティはコンピュータの問題というより、人間と情報の間の複雑なインタラクションに関わる問題だからだ。
ピーター・モービル『アンビエント・ファインダビリティ ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅』

HCIとは、@ITの「情報マネジメント用語事典」によれば、
人間とコンピュータ、あるいは人間と機械の接点におけるインタラクション(相互関係、対話型操作)に関する研究領域のこと。ACM SIGCHI (HCI に関する世界最大の学会)の定義では、「人間が使用するための対話型コンピュータシステムのデザイン、評価、実装に関連し、それら周辺の主要な現象に関する研究を含む学問分野」とされる。

Webサイトのユーザビリティ設計を考えてみても思い当たると思うが、従来はこのHCI的な発想に基づき、人間と機械(モニターに表示されたWebページのボタンなどを含む)との相互関係をデザインすることで、ユーザーがコンピュータを利用しやすい状況を作り出すことが重視されてきた。

それに対し「人間が情報に対して、その両者を結ぶ媒体は無関係に、どのように相互作用を及ぼし、関わりを持ち、処理を行うのか」を意味するHII(Human Information Interaction、人間と情報の相互作用)という用語が、Nahun Gershonによって1995年に生み出され、(人間と情報の)両者を結ぶ媒体としてのコンピュータをなくしてもその相互作用が成り立つようにすることが先の引用における「人間と情報の間の複雑なインタラクションに関わる問題」という意味と考えてよいだろう。

Web標準準拠によるファインダビリティの向上


こんな風に書くとわかりにくいところもあるので、すこし具体的にしてみよう。
適した例はなんといっても、Web標準に準拠した形でのWebページのデザインだろう。
Webページの制作に詳しくない人のために説明すると、Web標準に準拠した形のデザインでは、情報の構造、表現(見栄え)、動的なしくみ(振る舞い)がそれぞれ独立しつつ相互に関連したレイヤーに分離されている。
より具体的にいうなら、情報の構造をコントロールするのは(X)HTML、表現のコントロールはCSS、動的なしくみにはJavaScriptなどが利用される。
そして、そのことによって異なるデバイス(PC、携帯電話、プリンター、カーナビetc.)においてもHTMLに記述した情報へのアクセスが可能になり、見栄えや振る舞いなどは元からあったHCIのコンセプトに基づき、別にデザイン、管理することができる(ただし、HTML、CSS、JavaScriptは独立しつつ相互関連しているので、デザイン作業自体は同時進行的になるが)。
つまり、異なるデバイス=機械という人間と情報を結ぶ媒体とは「無関係に、どのように相互作用を及ぼし、関わりを持ち、処理を行うのか」を考え、デザインすることが可能になるのだ。
当然、そのことは機械の1つに過ぎない検索ロボットによる情報の可読性も高めることができ、結果的にSEOにもつながるし、より多くのデバイスでのアクセシビリティが確保されれば、その情報のファインダビリティは高まるというわけだ。

ファインダビリティとメタデータ


とはいえ、SEOやアクセシビリティはファインダビリティの必要条件ではあっても、十分条件ではない。
「ファインダビリティ」だけで十分内容の濃い一冊の本ができてしまうくらいで、十分条件は複数存在するし、そのすべてを満たしてなお、この膨大な情報とモノが存在する世界の中で完璧なファインダビリティを人間が獲得するのはむずかしい。

ただ、もう1つくらい十分条件について考えてみてもいいだろう。
それは分類あるいはメタデータに関するものだ。

著者のピーター・モービルは、分類あるいはメタデータ付与の方法として、図書館学に代表される旧来的なタクソノミー、RDFのトリプル要素(主語、述語、目的語)のようなオントロジー、そして、Web2.0的なソーシャルソフトウェア(ソーシャルブックマーク、写真共有サイト)で用いられるフォークソノミーのそれぞれについて概要やメリット・デメリットを説明した上で、こう述べている。

どちらか一方だけを選ぶ必要はないのだ。オントロジー、タクソノミー、フォークソノミーは相互排他的なものではない。企業ウェブサイトのような多くの利用背景においては、オントロジーとタクソノミーによる公式な構造を定義することに投資するだけの値打ちがある。それ以外のブロゴスフィアのような環境では、フォークソノミーによる非公式なセレンディピティがあれば、何もないよりはありがたいのは間違いない。そしてまた、イントラネットや知識ネットワークなどの場合には、両方の要素を組み合わせたハイブリッドなメタデータ環境を作るのが理想的だろう。
ピーター・モービル『アンビエント・ファインダビリティ ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅』

もちろん、オントロジーやタクソノミーによる公式な構造を定義するには、単に情報の側のそれを決定すればよいわけではない。
HIIによるアプローチをとるなら構造の決定には、人間と情報の相互作用を考慮した上で、情報デザインを行わなくては、ファインダビリティの向上にはつながりにくいだろう。

HIIアプローチとマーケティング2.0


最近はずっと同じことを言っている気がするが、こういう情報デザイン自体、従来のマーケティングに属する分野である気がしてならない。
確かに最近のWebマーケティングは、その広告費が年々増加しているのをみてもわかるように、マーコムをアウトソーシングで受ける業者の側からみれば、ビジネスとして成り立ってきているといえる。
(参考:Webマーケティング - 2005年、インターネット広告費は前年比54.8%増――電通発表:Japan.internet.com
しかし、見方を変えてそうしたアウトソーシング先を利用するエンタープライズからみたらどうだろう?それが自社のマーケティングに十分なマーケティング効果をもたらしてくれるだけのサポートとなっているといえるのだろうか? 答えは当然NOだろう。
そうした現状をみると、どうしても「マーケティング2.0」というワードを使う気にはならない。それはまだ未来を語る際の言葉だと感じられる。

とはいえ、そうした未来を切り開くために、HIIのアプローチをうまく利用することが今後のマーケティング技術の革新につながるのではないだろうかと思っている。
先の「アンビエント・ファインダビリティ ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅/ピーター・モービル」でも書いたように、マスプロダクト、マスマーケティング、マスメディアの三位一体から、そろそろ「マス」をとって、代わりに「パーソナル」という言葉をつけることを実装レベルで可能にするような技術は、このHII的アプローチやファインダビリティというコンセプトの延長線上にあるように思える。

このあたりはもうすこし時間をかけて考え続けてみたい。

追記(2006/05/10)
s.h.さんの素晴らしいトラックバックを受け、関連情報として「HCIとHIIの階層構造、生命情報/社会情報/機械情報の階層構造」を追加しました。

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