ものづくり革命 パーソナル・ファブリケーションの夜明け/ニール・ガーシェンフェルド

タイトルがピンとこなかったので、どうかと思いつつ買ったんだけど、これがなかなか面白い。
物理学とコンピュータ科学が交錯する領域では、プログラムがビットだけでなく、原子を処理し、通信と計算がデジタル化されたのと同様に、ものづくりをデジタル化することができる。プログラム可能なパーソナルファブリケータは、最終的には原子を組み立てることで、ファブリケータ自体を含むすべてのものをつくれるようになるだろう。そうなれば、パーソナルファブリケータは自己増殖マシンになる。
ニール・ガーシェンフェルド『ものづくり革命 パーソナル・ファブリケーションの夜明け』

著者のニール・ガーシェンフェルドはマサチューセッツ工科大学(MIT)ビット・アンド・アトムズセンター所長であり、本書で紹介されているファブ・ラボを統括している。ファブ・ラボでは、「言ってみれば、画像の代わりに「もの」を印刷するプリンタのようなもの」であるパーソナル・ファブリケータを利用した個人個人による新しい生産方式に関する研究を行っている。

パーソナル・ファブリケーションは生産能力を企業の独占状態から個人の手に再分配するものだ。
コンピュータが、かつてメインフレームという形で限られた企業にのみ利用で可能であった時代から、現在のパーソナル・コンピュータの時代に移り変わったように、企業の工場にのみある生産機械がパーソナル・ファブリケータという形で個人が手軽に扱うことが可能となれば、間違いなく現在のビジネスモデルには大きな変革が起きるだろう。

ブログやソーシャル・ネットワーク・サイトのことをCGM(コンシューマ・ジェネレイテッド・メディア)などと呼び、企業側の一方的な情報発信だけでなく、消費者が自ら情報発信できるようになったというのがWeb2.0の1つの特徴として語られるが、この本で扱われるパーソナル・ファブリケーションが身近なものになれば、情報発信だけでなく、ものづくりそのものが消費者の手に入り、「消費者」という言葉自体が無意味なものとなる。

オープンソースソフトウェアと同様に、オープンソースハードウェアは、簡単なものづくりの機能を出発点として、パーソナル・ファブリケーションのような「オモチャ」に「本物の機械」の肩代わりができるわけがないと高をくくっている会社の足をすくうことになるだろう。両者の境界線はやがて消失し、現在市場と呼ばれるものは進化して、製造者から消費者へと切れ目なくつながる連続体になり、一人から十億人までの広範囲にわたる市場にサービスを提供するようになるだろう。
ニール・ガーシェンフェルド『ものづくり革命 パーソナル・ファブリケーションの夜明け』

現在、パーソナル・ファブリケータはMITのファブ・ラボの学生と、インドやコスタリカ、ノルウェイ北部に実験的に設置された人々のみが利用できない状況であり、それはメインフレームとパソコンをつないだミニコン登場の瞬間に相当するものと考えられる。
この本では、そうした場でパーソナル・ファブリケータを使って自分が必要とする自分だけの製品をつくった人々の様子が紹介されている。
それはブログやSNSを使って情報発信をすることを楽しむパーソナルメディアの時代と大きな共通点をもっているように感じられる。

アトムからビットへ。
そして、キュビットを経て、再びビットからアトムへ。
なかなか面白いことになってきたようだ。

目次
  • ものづくりとは(ほぼあらゆる物をつくる)
  • 過去(ハードウェア)
  • 現在(鳥と自転車/減算的技法 ほか)
  • 未来(歓喜)


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