20世紀の科学研究のほとんどすべての背後にあった還元主義は、やや強引に簡略化した言い方をすれば、自然を理解するためにはその構成要素を知らなくてはならず、いったん部品を理解できれば全体を理解するのは簡単だという立場をとってきた。
しかし、大好きなおもちゃをばらばらに分解してしまった子供が元通りにできないとわかって泣き出してしまうのと同じように、原子や超ひも理論、遺伝子やゲノムなど部品についてほとんど理解してしまった科学は、パーツをふたたび組み合わせるのが予想外にむずかしいことを知り、愕然とした。
そんな中、ばらばらの世界をつなぎとめるための光明として発見されたのが、ネットワーク思考(理論)と呼ばれる考え方だ。
ネットワーク思考に関してはこのブログで何度も扱ってきたし、関連書籍としてすでに以下の2冊を紹介しているので、詳しくは述べない。
ただ、この本が僕のようなWeb関係者にとってほかの2冊より興味深かったのは、バラバシがインターネットやWebのネットワークの研究結果の説明に多くを割いてくれているからだ。
ネットワーク理論のルネサンスは、相互連結したこの世界を記述する言葉を作り出した。社会のコネクター、ハリウッドのスター、生態系のキーストーン種など、さまざまな名前で呼ばれていたものが、突如として、あるひとつのものの多様な現れにすぎなくなった。これらがそれぞれの環境の中で大きな意味をもっていたのは、ネットワークのハブだったからなのだ。アルバート=ラズロ・バラバシ『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』より
上記の引用でも言われているように、社会的ネットワーク、企業内ネットワーク、生態系ネットワーク、細胞内ネットワークなどの複雑な世界の部品同士の組み合わせには、共通するスケールフリーのネットワークの法則性が見出せる。
この法則性により、ネットワークは頑強さを持つことができ、ネットワーク内のノード間では高度なコミュニケーションを可能になる。
それはWebのネットワークにおいても同様で、すべてのネットワークに共通な単純な法則性があるのだが、一方でやはり個々のネットワークには固有な特徴も存在し、Webのネットワークではハイパーリンクという「ナビゲーションする向き」が決まったリンク特性により、ネットワーク全体が4つのそれぞれに特徴をもった大陸(エリア)に分かれてしまっているのだという。
この4つの大陸への分離が、検索エンジンのロボットがWeb全体をクロールしてまわることを不可能にし、検索エンジンもWeb全体をインデックスできず、Web全体のネットワークの地図を描くことをむずかしくしているのだそうだ。
Googleがどんなに優秀だとはいえ、Webのネットワーク世界にはまだ未開の土地があるということだ。
バラバシが最後に書いているように21世紀の科学はネットワークという骨格の理解を機転として、複雑な世界の未開の地の地図を徐々に埋めていくことで、全体の把握を進める方向で進展するのだろう。
Webというネットワークに関する仕事に従事するものとしては、非常に興味深いところである。
目次
- ランダムな宇宙
- 六次の隔たり
- 小さな世界
- ハブとコネクター
- 80対20の法則
- 金持ちはもっと金持ちに
- アインシュタインの遺産
- アキレス腱
- ウイルスと流行
- 目覚めつつあるインターネット
- 断片化するウェブ
- 生命の地図
- ネットワーク経済
- クモのいないクモの巣
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