それは個々の部品を知ることで全体としての機能を理解しようとしていた還元主義から、「複雑系」という言葉やネットワーク科学の分野の発見に代表されるような個々の部品の関係性も考慮する方向への移行だといえる。
こうした還元主義から複雑なデザインのつながりを重視したネットワーク思考への転換は、Webサイトのデザインを考える上でも重要な示唆を含んでいるように思う。
- RSS/Atom FeedやオープンAPIによるサイトの垣根を越えたシンジケーション
- 検索エンジンやFolksonomyなどによる集合知の利用
- AjaxやマイクロソフトのASP.NET 2.0のWebパーツ・フレームワークを用いて実現されるページ遷移のなくシームレスなユーザーエクスペリエンスを実現する技術
- ブログやSNSによって日々成長するユーザー間のネットワーク
など、Web2.0的ミームは、サイト単位での閉鎖的な境界を越えて、インターネットあるいはWebのネットワーク全体が1つの大きなネットワークとして、情報単位の関係性のリンクにより、これまでとは異なるクラスターを生み出しているのではないだろうか。
「情報デザインおよび組織デザインにおけるツリー構造とリンク構造」でも示唆したように、この話は単にサイト間のリンク構造やクラスターの話というだけではない。
サイト内のリンク構造やクラスターも既存のツリー構造型のデザインを行うだけでは、もはや十分ではないものと思われる。
しかし、科学が量子やゲノムなど、ごく小さな部品にまで辿り着いてはじめて還元主義から、複雑系-ネットワーク思考に転換したように、おそらく、Webデザインにおいても同じ程度にパーツを理解することが重要であろう。
先のASP.NET 2.0のWebパーツ・フレームワークにしても、そもそもパーツ=モジュール化を前提としたものであるし、もっとも簡易的なブログをはじめ、ほとんどのWebサイトがCMS~データベース化された動的な生成を行う方向に進むと、当然、GUIを生成するためのモジュール群の洗い出しとモジュール結合のルールを考えていく必要がある。
これに加え、セマンティックな方面でもmicroformatsのようなある種のパーツの標準化を促す流れもある。
RSS/Atom FeedもWebサイトに掲載された情報を個々の情報単位でやりとり可能にする意味で、やはり部品化の流れに乗っている。
とはいえ、部品化するだけではダメなのは、先の科学の場合の還元主義の行き詰まりをみれば明らかで、多様性、独立性、分散性をもったWebの情報の部品をいかに集約し、価値ある組み合わせを生じさせるかがもう1つのポイントになるだろう。
これまで閉じたサイト内での情報設計のみを行ってきた僕たちにとって、こうしたデザインの方向性は未知とはいわないまでも、明らかに不慣れで、研究不足な方向性であることは確かだろう。
「境界」を越えて、成長するスケールフリーのWebネットワークの中で、自分たちが発信する情報をいかに他の情報に関係付けることができるかという視点での技術を高めることが、今後のWeb設計者には求められるのではないかと思われる。
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