『眼の誕生―カンブリア紀大進化の謎を解く』アンドリュー・パーカー

ダーウィンをも悩ませた生物進化における謎。

40億年前に生まれた生命は、なぜ5億4300万年前、カンブリア紀の始まりと同時に、突然爆発的な進化を見せたのか?

これまで何人もの進化生物学者が取り組みながら、決定的な解答を得られずにいたこの進化論的な難問に新説を提示したのが、アンドリュー・パーカーの『眼の誕生―カンブリア紀大進化の謎を解く』だ。

パーカーによれば、生物が多様な外部形態のデザインをもつ形で進化したのは、全10章からなる生物進化史の9章目でしかないという。
そこに至るまでの長い道のりはすべて内部体制に進化史の章は費やされたそうだ。
具体的には、40億年以上前に生まれた地球に発生した生命は、カンブリア紀の5億4300年前からのわずか500万年間を境にして、それまではたった3門の分類しかなかった生物種が、現在の全38門に分類される生物種にあっという間に進化している。

生物がカンブリア紀に多様な外部形態を爆発的な勢いで進化するためには、基盤となる内部体制を進化させる準備期間が必要だった。
パーカーの言葉を借りれば、「動物の体制や発生には、おびただしい数の遺伝子が関与している。それに対して、外部形態の形成を支配している遺伝子の数は、それよりも少ないのがふつうで」であり、かつ「外部形態とは違い、体内の体制は、移行途中の中間段階では機能しないことが多いため、徐々に構築するというわけにはいかない」からだ。

長い時間をかければ、ほとんど目に見えない作用でも大きな結果をひきおこしうるのだ。ただしそれは、問題としている過程が徐々に変化し、各段階の小さな変化がどんどん蓄積されてゆく場合であり、しかも、生じた変化がしっかり根を下ろした時点で、その過程が再び新たなスタートを切れる場合である。
アンドリュー・パーカー『眼の誕生―カンブリア紀大進化の謎を解く』より引用


生物は長い時間をかけて基盤となる内部体制を標準化させたことで、外部デザインの多様化を可能にする下地を整えた。
そして、それが5億4300万年前のカンブリア紀の爆発につながった。

しかし、準備は整っていても、きっかけがなくては進化の爆発は起こりえない。
進化とは基本的に環境適応であり、なにがしか進化をうながす淘汰圧に対してそれに適応生存可能な形で自然淘汰が行われるのが進化である。
5億4300万年前のカンブリア紀の爆発につながる淘汰圧がなんだったのかが、これまで生物の進化における謎であったのだ。

パーカーはこの本で、カンブリア紀のはじめの三葉虫に眼が誕生したことに着目している。
盲目の世界から可視的な世界へ。
眼の誕生と同時に、生物は色や形、動きを手に入れた。
捕食者である生物にとっても、非捕食者である生物にとっても、そのことは重要な意味をもった。

小さな変化が劇的な変化をもたらすことはネットワーク科学の分野でわかっている。
小さな変化が世界の位相を一変させることは、高度に連結されたネットワークにおいてはめずらしいことではない。
もちろん、生態系も複雑につながったネットワークである。
三葉虫の眼の誕生という小さな変化は、弱肉強食の生態系の食物の連鎖の中では、生物の外部デザインを多様な形に進化させる淘汰圧として働いた。

そうした意味でこの本は単に生物の進化だけでなく、ネットワークにおいて相転移による劇的な変化の発生を考える上でも非常に参考になるのではないかと思う。
『ウェブ進化論』ばっかりじゃなくて、こちらもねという感じで、まずは本物の進化論に触れてみることで、進化における淘汰圧~環境適応の意味がより理解できるようになるのではないかと思う。

ぜひおすすめしたい一冊です。

目次

  • 第1章 進化のビッグバン
  • 第2章 化石に生命を吹き込む
  • 第3章 光明
  • 第4章 夜のとばりにつつまれて
  • 第5章 光、時間、進化
  • 第6章 カンブリア紀に色彩はあったか
  • 第7章 眼の謎を読み解く
  • 第8章 殺戮本能と眼
  • 第9章 生命史の大疑問への解答
  • 第10章 では、なぜ眼は生まれたのか




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