「あちら側」のWebサービスのセキュリティと価値の保存・維持

GoogleのWritely買収が話題になっていますが、Writely以外にもブラウザベースで利用可能なオフィス系ツールは増えている。いわゆる『ウェブ進化論』でいうところの「あちら側」で機能するWebサービスだ。
その中の1つプレゼンテーション作成ツールThumbstacksを、POLAR BEAR BLOGさんが紹介してくれている。
Thumbstacksそのもの紹介はそちらを参考にしてもらうとして、今回はWEBサービスの価値とその新しい価値がどんな変化をもたらすのかをすこしだけ考えてみたい。

■Webサービスのセキュリティ

このエントリーを書こうと思ったきっかけは、POLAR BEAR BLOGさんの次のようなコメントと、

しかしThumbstacksで明らかになったように、Officeには不要な(というより、一部のユーザーしか使わないような)機能が含まれていますし、WEBサービスはネット上にあることで生まれてくる新たな価値を提供することができます。ビジネスでもこうしたWEBサービスを活用する企業が、意外と早く現れるような気がします。
 

上記のエントリーのコメントに「セキュリティ」に関する指摘があったことだ。
Google Desktop Searchを思い出せばわかるように、この手のツールには必ず「セキュリティ」云々のコメントが出てくる。
確かに「セキュリティ」は気になるところだが、じゃあ、自分のローカルPC、あるいは社内のネットワーク内にデータがあるのがそんなに安全かというと、実際、そんなに安全じゃないんじゃないの?って思う。

Google Desktop Searchのセキュリティが話題になった際も思ったんだけど、実際のところ、社内にデータを置いておくよりは、ほとんどの業務が人の手を介さないよう自動化されたGoogle内にあったほうがセキュリティは高いんじゃないか?って思う。
もちろん、Googleだったら安心できるけど、他のベンチャーじゃ心配って話はあるだろう。
まぁ、それはそのとおりだが、それは金融系のサービスを利用する際や、病気のときに病院を選ぶのと同じことで、それはあくまで個々の企業の信頼性の問題であって、アプリケーションおよびデータが「あちら側」にあるか「こちら側」にあるのかって話とは違う。
ある銀行が破綻しようが、ある病院が医療ミスしようが、金融サービスや病気の治療そのものをなくせなんて話にはならないのとは同じことだと考えていいのではないだろうか?

■Webサービスのメリット

そう考えると、むしろ、Webサービスを用いることのメリットは、本来、自分(あるいは個々の企業側)が責任をもたなくてはいけないセキュリティを「あちら側」に責任転嫁してしまうことではないかと思ったりする。

すでに僕らは病気の治療に関する責任をほとんど自分自身に課したりすることはなく、他人(病院)まかせにしている。ブログを利用するのだって同じことで、多くの人はブログに書いた記事を同時に自身のローカルPCにバックアップしておくなんて面倒なことにコストを省いていないだろう。つまり、それは程度の差こそあれ、ある程度、「あちら側」のサービスを使用して、データの安全な保管に関する責任を押し付けているのだ。

いったん「あちら側」を信頼して、自身の責任の一部をアウトソーシングする決断をする時点から、上記のような「安全性」をはじめ、POLAR BEAR BLOGさんが挙げてくれているような「他のアプリケーション(用途)との連動」、「他人との共有(協力関係)」、「インストール不要・バージョンアップの手間要らず」といったメリットが享受できるようになるのだ。

■価値の保存と維持

とはいえ、「あちら側」に責任転嫁するとはいっても、それを完全に向こう側に追いやってしまうことはできない。
金融サービスの利用や病気の治療でも、自分でやるよりプロに任せたほうが安心だからと思って、「あちら側」に自分のお金や身を委ねるのだが、問題はその結果がうまくいかなかった場合だ。とうぜん、僕らには文句を言う権利がある。しかし、文句を言ったからといって事態は決して改善に向かうとは限らない。「あちら側」が最善を尽くして責任を全うしている場合でもなお、結果が悪いほうに出てしまったとき、僕らはあらためて自分の責任を思い出すことになる。

だって、悪い状況になって失われてしまった価値をそれまで享受していたのは他ならぬ僕らなんだから(もちろん、「あちら側」はその価値の一部を報酬として受け取っている)。
つまり、僕らは、ある価値を自分の側に保つために必要な面倒な手間や、知識を自分の側でなく「あちら側」に置くことで、自分の求める価値を滞りなく自分の元(たとえば金利、健康、手間のかからないバージョンアップ etc.)に届くようにしている。そして、そのことで他のもっと自分が得意な価値獲得に手間をかけられるよういにしている。これはアウトソーシングの基本的な考え方だ。

■アウトソーシングとスキルのコモディティ化

でも、当然、一部の機能をアウトソーシングすれば、その機能を再び自分のものにするのは容易ではない。機能をアウトソーシングすることは、自分にはそれ以外にもっと得意な価値獲得機能が備わっていることを前提としていなければ、自分自身の生き残る道が閉ざされてしまう。

企業がWebサービスを使って、ビジネス情報を外部にアウトソースするかどうかは、預ける先の信頼性と同じくらい、それを外部化した際の自社の機能にどれだけ価値を生み出す魅力が残るのかということにもなる。一般的なWebサービスと認知されているものとは異なるが、Adwordsなどのリスティング広告がもたらしたWebの営業機能は、文字通り、機能を「あちら側」に置くことでもたらされたのだと考えられるし、「あちら側」の営業機能は、「こちら側」の勝負では勝ち目のなかった企業にも、勝てる機会をもたらしたのではないか?

そして、こうしたことはWritelyやThumbstacksなどのオフィス系のアプリケーションで考えるなら、企業全体というよりも、むしろこれまでオフィス系のツールの使いこなしで他より秀でていた個々の従業員の側の生き残りの問題ととらえることができるかもしれない。「あちら側」で共有を可能にするということは、それまで閉ざされた個々に埋もれていたスキルもいっしょに共有できるようにしてしまうことにつながるはずだから。
そう。共有によってスキルの大部分がコモディティ化する。

■Webサービスの一般化がもたらすもの

では、Webサービスの一般化がもたらす本当のものは何だろう?
個々の企業や個人のスキルがコモディティ化した際、当然、自分たちを持続可能にする価値獲得の手段が他に必要となる。価値獲得技術が独占からオープン化に向かうときは、いつでもこのような変化はつきものなのだろう。

そう考えると、ブラウザベースで利用可能なオフィス系ツールが増えているなんて、些細に思える事柄を1つとってみても、「本当の変化はこれからはじまる」んだなって思えるのだ。



この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • 「Google」という革命
  • Excerpt: インターネットについて多少なりともわかった気でいるならば、この本は読む価値があります。ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる 梅田 望夫 たしかに、Google のアドワーズ、アドセンスに取り組む..
  • Weblog: 楽しくお勉強の日々 ~ PocketGoban Style
  • Tracked: 2006-03-28 11:24