マルコム・グラッドウェルは、口コミやウィルス感染などがある時、爆発的な勢いで広まる現象に潜む閾値を扱った『ティッピング・ポイント』(現邦題『なぜあの商品は急に売れ出したのか 口コミ感染の法則』。この邦題、いわゆるビジネス書っぽく見せてる感じでキライ。実際、ビジネス書のコーナーに置いてある。でも、内容は決してビジネス書ではない。こういうマーケティングっていやだな)の著者として有名。
『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』はそのタイトルどおり、人間の直感が意識的な判断よりかなり正確だってことを扱っている。
意識的な判断より? そう。この本で扱っている直感ってある意味、無意識的なものだったりする。なのでいわゆる第一印象ともちょっと違う。かといって、フロイト的無意識ともまた違う。
つまり、タイトルどおり、「最初の2秒」には確かに感じるし、意識もできるけど、あまりに短すぎて、しかも、言葉にした瞬間、消えてしまうような脆い直感がかなり判断としては確かだから、その直感を維持できる訓練をすると現在の問題もかなり解決できるようになっていいよって意味合いの本。
論理的な問題なら、説明を求めても答えを出す能力は損なわれない。それが役に立つことさえある。だが瞬時の洞察力を要する問題だとそうはいかない。「スポーツの世界では、分析していたら運動能力が麻痺するという。考えていたら体が動かない。流れが失われるのだ。そこは流動的で直感的で言葉にできない、微妙な部分があるのだ」とスクーラーは言う。(中略)洞察力は電球と違って、自分の意思でつけたり消したりできない。風が吹いただけで消えてしまうロウソクの火のようなものだ。マルコム・グラッドウェル『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』より
ポール・エクマンとウォーレス・フリーマンという2人の科学者が、マインドリーディングのために生み出した手法-アクションユニットは、顔の表情を生み出す筋肉の動きを細かなモジュールとして認識し、その組み合わせによって表情から人の本当の心を読み取るオブジェクト指向的な話でおもしろい。
5つの筋肉の組み合わせなら10,000を超える組み合わせにもなる(とはいえ、可能な組み合わせ、かつ意味の組み合わせはもっと少ない)手法を使えば、ほんの小さな筋肉の動き(例えば眉を一瞬、そして、ほんのすこし上げるとか)から言葉や態度からは読み取れない本当の人の心をとらえることが可能になるそうだ。で、さらにこうした研究がさらにおもしろい発見をしたところは
ネタバレになるので伏せておくことにしよう。
この本を読んで感じたのは、人間には判断に使える思考法が3つあるんだってこと。
①この本で扱われている直感
②普段、もっとも頻繁に使っている常識や経験値や周囲の意見からなんとなく生まれてくる主観的だったり、ちょっと客観的だったりする意識
③感覚的にはとらえることができない(例えば10の20乗とか)計算によってはじめて思考が可能になるような計算可能性をともなう思考
ここ最近、興味を持って調べたりしているネットワーク科学や進化論的な話はいわゆる③の領域にはいるんだと思っていて、計算可能性といってるだけあって、数学的な思考に慣れないとどうしようもない領域だって感じている。
でも、一方で①の領域の可能性というか重要性は、前から薄々感じていたのでこの本を読もうと思ったのだけど、やっぱり「最初の2秒」の「なんとなく」感じてたとおり、人間の直感ってすごいや!ってあらためて思えた。
そうした①や③に引き換え、普段、頻繁に使っている②的思考のなんと貧弱なことか。しかも、貧弱なだけじゃなく、かなりの問題児だ。そして、ほとんどの人が②でしか思考していなかったりするんじゃないか? これじゃあ、文明崩壊もするよな。
そして、当然ながら文明崩壊にさえつながるわけだから、企業経営など、不確定性が強い状況での判断力が問われるマネジメント層には①の直感的な思考法と③の超長期的な思考法の重要性をぜひぜひ認識してほしいものだ。
そしたら『ウェブ進化論』で語られるようなエスタブリッシュ層の想像力欠如なんて話もどうにかなるってもんだ。
問題はウェブという新しい世界に慣れていないことではなく、新しく慣れていない不確定なものに対して普段の②以外の思考力を使って、いかに長期的に正しい判断を下せるかっていう能力の話なのだから。
あっ、これはマネジメント層だけでなく、いまだにWeb2.0って何?っていう判断ができていないWeb関係者全般にいえる話ね。そういう人はまず自分の思考法、判断力を見直す努力をはじめたほうがいい。でないと、これから始まる本当の変化を正しく見極めることができないよ。マジで。
というわけで、③よりは①のほうがとっつきやすいと思うから、せめてこの本を読んでみましょう。
目次
第1章 「輪切り」の力―ちょっと情報で本質をつかむ
第2章 無意識の扉の奥―理由はわからない、でも「感じる」
第3章 見た目の罠―第一印象は経験と環境から生まれる
第4章 瞬時の判断力―論理的思考が洞察力を損なう
第5章 プロの勘と大衆の反応―無意識の選択は説明できない
第6章 心を読む力―無意識を訓練する
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