お気に入りのブーツたち―もうひとつの民藝として

さて、ひさしぶりに書評以外のエントリーをw。

僕が手づくりの民藝の品―陶磁器や染織物や木工品など―を好きなのは、このブログを読んでくださっている方は、すでにご存知だと思いますが、今日はそれ以外で僕がおなじようにこれも民藝の品と考えてよいだろうと思っている、お気に入りのブーツを紹介。



写真は、左上から時計回りに、レッドウイングのペコスブーツ、ラッセルモカシンのゼファーブーツ、おなじくラッセルモカシンのスポーティングクレイチャッカ、そして、サンダースのブローグブーツとチャッカ。
このうち、ラッセルモカシンのゼファーとサンダースのブローグブーツは昨年2月のエントリー「どうせ持つなら長く使えるものを」で、ラッセルモカシンのスポーティングクレイチャッカは9月の「2009-09-21:浜離宮恩賜庭園」というエントリーで、すでにブログ内にも登場してます。
ラッセルモカシンのゼファーとサンダースのブローグブーツはその時点でも結構味が出ていたのですが、さらに履きこんでいい感じになってきてます。レッドウイングのペコスとサンダースのチャッカに関しては昨年の10月、11月にそれぞれ購入したばかりなので、まだまだ試運転中。
ブーツって買ったときが一番格好わるいなと思ってるので、どんどん履きこんで味を出さないとって思ってます。

サンダース(Sanders)

この5足が主に気に入って履いているブーツで、実はオンでもオフでも僕はほとんどブーツで、短靴はほとんど履かないんですよね。短靴は本当に暑い真夏に履く程度。「2009-09-21:浜離宮恩賜庭園」でスポーティングクレイといっしょに写ってるユケテンの靴を履くくらい。

いったんブーツに慣れてしまうと、足首がホールドされてないとなんとなく不安。実際、ブーツのようにある程度の重さがないと逆に歩きにくいし、疲れてしまうような気がしてます。

で、オンの仕事のとき、ジャケット&グレーパンツといったかっちり目の格好にあわせているのが、サンダースのブローグブーツ(写真右)とチャッカ(左)。



チャッカのほうは2005年頃に買ったバーニーズニューヨークのチャッカがさすがにかなり傷んできて、オンにはどうかな?という感じになったので、昨年11月におなじ濃い茶のチャッカを買いました。

サンダースのものを選んだのは、ブローグブーツの履き心地がとても気に入っているからです。特に足首のホールド感が抜群にいい。とにかく足首にはりつくようなフィット感で、足首でブーツが支えられているような感覚。
それは新しく買ったチャッカもおなじで、ますますサンダースの靴が気に入りました。
あとは適度な厚みのある革の感じも、上品になりすぎずよいな、と。

サンダースは、1873年創業のイギリスはノーザンプトンの老舗靴メーカー。サンダース&サンダース(Sanders & Sanders)が会社名で、サンダースはそのブランド名。
かつてはラルフ・ローレンの靴を手掛けていたり、イギリス国防省等の制服用の靴も手がける質実剛健なメーカーです。

イギリスのブランドということで、秋冬には着ることが多いツイードのジャケットやコーデュロイなどとの愛称もよく、とても気に入って履いてます。

ラッセルモカシン(Russel Moccasin)

オンに履くのがサンダースなら、オフにジーパンやチノに合わせるのは、ラッセルモカシン。



春夏の暑く湿気の多い時期は、5インチハイトのスポーティングクレイ(写真右)が多くなりますし、寒い冬だと8インチハイトのゼファー(左)が多くなりますが、基本的にはそんなに季節にこだわらず、どちらも履いてます。

とにかく僕がラッセルモカシンの靴が好きなのは、その履き心地。履きはじめのときでもまったく靴擦れにならないのは、このラッセルモカシンくらい。それくらい革がやわらかく足になじみます。山のなかを歩くようなタフな状況でもまったく気にせずガンガンいけます。
足首のホールド感はサンダースにはおよばないものの、ゼファーなみのハイトがあるとまったく問題ありません(その点、スポーティングクレイはちょっと物足りない)。

それからもうひとつラッセルモカシンのよさは、雨などの水にもつよい点。雨がふってもほとんど足のなかに水が染みてこないので快適。梅雨時期や秋の長雨の時期はだいぶ重宝します。

ラッセルモカシンは、1898年にアメリカのウィスコンシン州で設立。設立者のウィル・ラッセルが、当時盛んだった森林伐採作業に従事するロガーのために、ハンドメイドのブーツを作ったのが始まりといわれています。その高いクオリティーがハンターなどにも評価されるようになり、ラッセル社の名声は広まったそうです。

僕がもっている服は、ハンティングをモチーフにしたものや、フィルソンのダブルマッキーノのようなアウトドア系の服も多いので、ラッセルモカシンのブーツはコーディネートにもよく馴染みます。

レッドウイング(Red Wing)

最後の1足は、この5足のなかでは一番名も知られるレッドウイングのペコスブーツ。



これは去年の10月頃に購入。その頃、買ったペインターパンツなどに、ラッセルモカシンがなんとなく合わないなと感じていて、それに合わせるハイトがある程度高い長筒で、かつ紐で結ぶタイプではないブーツが何かないかと思って探していたところ、この96年製のデッドストックのペコスに遭遇。
96年頃のモデルは現行のモデルに比べると革の色が薄いんです。もっと時代が遡って、70年代頃のものになると、もっと淡い色なんですが、それはさすがに値段もはるので、あまり現行品と値段もかわらないこのモデルを買いました。

レッドウイングの靴ははじめてなので、履き心地はどうかな?と思っていましたが、実際に履いてみるとばっちりでした。サンダースのようなホールド感、ラッセルモカシンのような革のやわらかさや雨への強さはないものの、十分な快適さがあります。
最近ははやく味がでるように、という思いもあって、一番ヘビーローテションで履いているのが、コノペコスだったり。

レッドウイングは、1905年に創業者のチャールズ・H・ベックマンがミネソタのその名もレッドウィングシティーに創業したシューズメーカー。
ペコスブーツは農業を営むファーマーのために作られたワークブーツで、1953年にリリースされた当時から、牛を誘導するときの乗馬に適した高いヒール、鞍にブーツを引っ掛けないためのシューレースが省かれたデザインされるなど、ほとんどデザイン変更がされずに現在まで生産販売されている息の長い商品です。

もうひとつの民藝

僕がこれらのブーツを、「もうひとつの民藝」だと思っているのは、一番歴史の浅いレッドウイング社でさえすでに100年を超える歴史をもっていて、さらに商品自体もリリース当初からほとんどデザイン変更のないロングセラーだというのが理由のひとつ。
さらに、これらのブーツが基本的に、ロガーやハンティング、ファーマーや軍のユニフォームなどに用いられる非常に実用的なものとして作られ、それらの作業従事者から評価を得ている点がもうひとつ。これは民藝の「用の美」に通じるところがあるな、と。
ラッセルモカシンなどはいまだにハンドメイドで靴を作っていたり、レッドウイングも自社で革のなめしから行っていたりと、ものづくりの視点でもやはり民藝に通じるところがあります。

こんな点が、こういうブーツに民藝とおなじ愛着や僕の数寄心をくすぐる点かな、と。
で、陶磁器や染織物や木工品などとおなじで、やっぱりこういうブーツも履いてナンボ、実用してナンボということで、どんどん履きこんでいくうちに、さらに愛着がでてくる点でも民藝の品に通じるんですよね。

これらのブーツをしまわずに出しっぱなしにして玄関に5足が並んでいる光景は結構壮観。そういう存在感のあるモノというのも、「用の美」(それは決して機能美ではない)という点では大事だな、とこれらのブーツは教えてくれるんです。

正しき工藝の11の法則」でもすでに紹介していますが、柳宗悦が『工藝の道』で記された「正しき工藝の11の法則」を、なんとなく最後にあげて、このエントリーを結ぶことにします。

  1. 工藝の本質は「用」である
  2. 工藝の最も純な美は、日常の用器に表現される
  3. 多く作られることによって、工藝はその存在の意味と美とを得る
  4. 工藝の美は労働と結ばることなくしてはあり得ない
  5. 労働の運命を担う大衆が、相応しい工藝の作者である
  6. 民衆の工藝であるから、そこには協力がなければならぬ
  7. 手工藝にも増してよき工藝はない
  8. 正しい工藝は天然の上に休む
  9. 高き工藝の美は無心の美である
  10. 個性に彩る器は全き器となることはできぬ。古作品の美は没我の美である
  11. 工藝においては単純さが美の主要な要素である



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