サステナビリティ(持続可能性)

人口増加が進む中、研究者たちの間では、地球が実際にどのくらいの人口を養えるのか――マルサスの時代から変わらぬ議論――について諸説が飛び交っている。

上記で述べられているマルサスとは「足し算と掛け算」のエントリーでも紹介した、イギリスの経済学者兼人口統計学者であるトマス・マルサスで、1798年、人口の増加は食糧生産量の増加を上回る傾向にあると論じた有名な著書を出版している。

「地球は何億人暮らせるのか?」の問いは、あまりに多くの変数を抱えすぎており、あまり意味をなさないのではないだろうか?
それは、あなたの会社は何人養えますか?と問うのといっしょで、それは市場での競争環境(ポーターの5 Forcesあたりを思い浮かべてほしい)や会社のマネジメント力によって大きく変化する。

実際に先に引用した記事でも、

いっぽうコーエン教授の試算では、地球上に年間9000立方キロメートルの淡水の供給があるとして、それによって育てた小麦で世界中の人間に毎日3500カロリーを与えると仮定すると、地球上で約50億人しか暮らせないという。
しかし、こうした試算のための数式は、さまざまな要因によって変わってくる。農法の変化、淡水化技術の効率化といった要因によって、地球が養える人口が増加する可能性もある。生活習慣の変化――たとえば、安価に生産できる新たな食料源を受け入れること――にも似たような効果があると、コーエン教授は指摘する。

と書かれている。
淡水の供給とそれに応じた小麦の生産量のみで地球上で暮らせる限界値を試算するのは、あまりに強引すぎるともとれるし、実際、すでにそう数値を上回ってもいるわけだが、重要なのは、それが少なくとも無限ではないということだろう。

『文明崩壊』の著者ジャレド・ダイアモンドは、過去と現代の文明の崩壊(イースター島、マヤ文明、グリーンランド、ルワンダ、中国,etc.)について考察した同著の中で、文明が崩壊に至る5つの要因として、1.環境問題、2.気候変化、3.隣国との協調関係、4.隣国との敵対関係、5.諸問題に対する対策の5つをあげ、過去の文明崩壊が(環境保護論者が言うように)決して1つの要因で起こったのではなく、5つの要因のうちのいくつかが複合的に作用することで起こったことを指摘する。

例えば、現代、深刻な問題を抱えた国の1つにオーストラリアがあるという。
オーストラリアは普段、私たちがイメージしているのとは異なり、そこは「最も非生産的な大陸」であるという。

その土壌は、平均して最も栄養濃度が低く、最も植物の成長が遅く、最も生産性に乏しい。それは、オーストラリアの土壌が概して非常に古く、数十億年を経るうちに雨でその栄養分が浸出してしまったからだ。オーストラリアの西部のマーチンソン山脈には、地殻として残っている最古の、約四十億年前の巌が存在する。
ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊(下)』より引用

さらにその土壌の生産性の低さに加え、淡水の入手の困難、オーストラリア国内における主要都市間の距離、海外の貿易相手との距離、イギリスからの入植者が持ち込んだ外来種(ヒツジ、ウサギ、キツネ etc.)と文化的価値観による環境破壊など、さまざまな要因が複合的に絡み合って、土地の劣化(栄養分の枯渇、人為的な旱魃、塩性化、外来種の雑草の広がり)や森林の破壊、沿岸水域での海産物の乱獲などの様々な致命的な問題を引き起こしているそうだ。
森林に覆われた土地の比率が最も小さい(総面積の20%程度)大陸であるオーストラリアはそれでもなお、縮小する森林を伐採し続け、先進国の中でも国土に占める森林の割合が最も高い(74%)国である日本に最も多くの林業生産物(パルプなど)を輸出しており、かつ、林産物加工品である紙などを輸出量の3倍近く輸入するという矛盾を引き起こしてしまっている。

なぜ、そんな自虐的なことが起こるのかと不思議に思うかもしれないが、それはもっと小さな規模の組織である企業内でも往々にして起こっていることではないだろうか?
目先のつまらぬ利益を優先することで、長期的な損益(時にはそれが絶望的な損益であることさえある)に目をつぶってしまうということは、本当に本当によくあることではないだろうか?

多くの企業がCSR活動とともにサステナビリティ・レポートを提出している。
主なものとしては、
富士ゼロックス株式会社:http://www.fujixerox.co.jp/company/sr/
日産自動車:http://www.nissan-global.com/JP/COMPANY/CSR/SUSTAINABILITY2005/index.html
コスモ石油:http://www.cosmo-oil.co.jp/kankyo/publish/sustain/index.html
などがある。

サステナビリティ・レポートは、1.環境の視点、2.社会の視点、3.経済の視点で語られる。
GRIがサステナビリティ・レポートのガイドライン作成をミッションとして活動している。
GRI:http://www.globalreporting.org/
GRI日本フォーラム:http://www.gri-fj.org/

こうした活動は、先のジャレド・ダイアモンドの文明崩壊の5つの要因のうち、5.諸問題に対する対策をはかるものとして評価すべきだろう。
重要なことは、こうした積極的な活動(中には形式的なものもあるかもしれないが)を正当に評価することなく、自分たちの感覚的な尺度だけで必要以上に環境問題を煽ることの危険性を知ることなのではないだろうか?

多くの生物がそうだったように環境に適応できない種は死滅する運命にある。環境破壊を悪だと騒ぐだけでなく、現状の環境をきちんと認識した上で持続可能性をアップするための適応を図ることこそが重要なのだろう。
それは地球環境問題においても、企業の市場環境の問題においても同じはずだ。そして、さらに小さなところではWeb2.0というものに対するネット企業の対応についても同じなのだろう。

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