パースについては「ブランドとは何か?:1.A Model of Brandとパースの記号論」で、ブランドというものとパースの三項関係について紹介しました。最近でも「体験を支える情報アーキテクチャ」で再び論じています。
パースの記号学においては、記号というものを表象(Representamen)、対象(Object)、解釈項(Interpretant)の3項目で捉えます。
パースは、表象から対象を想起して解釈を発生させることを記号過程と呼んでいます。図にするとこうです。
例えば、これをブランドの価値、ロゴ、具体的なブランド商品という関係にあてはめると、こういう図になります。
これは何を言っているかというと、AppleのロゴをみてiPhoneを想起し、かっこいいというブランドを価値を感じるというようなケースに当てはまります。
これはブランド認知でいうところの「ブランド再認」の認知過程を示した図ということになります。
ブランド再認と再生
ブランド認知には、ロゴをみたりブランド名を聞いたりした際に、特定のブランド商品を思い出したりブランド価値が思い浮かべられるかという「ブランド再認」の問題とは別に、特定の商品カテゴリーが提示された際に特定のブランドを想起できるかという「ブランド再生」の問題があります。例えば、これも同じくパースの三項関係を使うと、こう図式化できます。
これもiPhoneを例にすれば、「ケータイ」というカテゴリーが与えられた際にiPhoneを思い出すことができ、おなじようにかっこいいという価値が想起できるかということになり、図にするとこうなります。
このようにパースの三項関係で捉えると、ブランド認知における再認と再生の両方がうまく理解できます。
ユーザビリティにおける再認と再生
さらにこのパースの三項関係はユーザビリティに関わる問題の理解にも使えます。UI上に表現されたボタンやアイコン、ラベルなどの意味が理解できるかもやはり認知の問題です。
例えば、アプリケーションなどを示すアイコンからその機能が理解できるかということを三項関係で図示するとこうなります。
これも具体的な例で示すと、Thunderbirdのアイコンを見たときに、本来の機能であるメールソフトとして理解できずに、鳥がメールを大事そうに抱えている図像からメールを保護するソフト?と思ってしまったら、それは実際の機能と解釈された機能のあいだにギャップがあるということです。
もちろん、この場合の認知にも、再認と再生の問題があり、アイコンが提示された場合、そのアイコンの示す機能が理解できるかとか思い出すことができるかという再認の問題もあれば、何か特定の操作をしようと思った際に、それがどのアイコンをクリックすればよいかを思い出せるかという再生の問題があります。
こうしたブランドに関わる認知の問題とユーザビリティに関わる認知の問題が、パースの三項関係を使うと理解しやすくなります。さらにいうなら、ここで挙げたような例はごく簡単なもので、パースの記号学や論理学を使うと、認知の問題や発想の問題をより深く考えることができます。KJ法が、パースが推論方法として重視したアブダクションを具体的な方法に落とし込んだものであるように、パースの思想をきちんと捉えなおすことで、情報を解釈する、理解するとはどういうことかをより広い意味で考えることができるだろうと思うのです。「生命記号論―宇宙の意味と表象/ジェスパー・ホフマイヤー」で紹介したように、なにしろパースの思想をもとに、宇宙の意味や生命における記号の意味を考えたような人もいるのですから。
そんな感じで、僕のなかではパース再考熱が高まっています。
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