体験を支える情報アーキテクチャ

タイトルから想像いただけるとおり、昨日の「情報アーキテクチャのデザイン」の続きです。
今日は「体験」というキーワードから考えを進めてみようと思います。

情報アーキテクチャというのは、人びとがものや世界に接する=体験する際のインターフェイスの構造・骨格にあたるものです。体験・コミュニケーションを通じて味わうことになるインターフェイスのストラクチャであり、スケルトンです。もちろん、この構造や骨格がきちんと設計できていなければ、人びとの体験やコミュニケーションは無残なものとなる確率が非常に高くなります。

ところが、この大事な要素である構造や骨格というものを、物事の表面しかみない人にはみえていなかったりします。そういう人はたいてい、構造の設計、骨格の設計もなしに表面やスタイルをデザインしようとします。そうやってできあがったものはなんとなく見た目には素敵に思えても、ちょっと触れると途端にイライラさせられる体験をさせられたり、不安を覚えさせられたりします。決して少なくない人たちが表面のデザインやスタイリングだけで、気持ちよい使い心地、素敵な体験が生み出せるかのように勘違いしているようです。残念ながら。

しかし、その一方できちんとした配慮の行き届いたサービス、おもてなしは、しっかりと組み立てられた骨格や構造のうえに成り立っています(さらに、その背後に要件や戦略があることをきちんとモデル化したJesse James Garrettの考察力は素晴らしい!)。


Jesse James Garrettの5 Planes Model


もちろん、その骨格、構造というのは単に情報アーキテクチャだけではありません。システムのアーキテクチャもそうでしょうし、物理的な意味での構造もきちんと設計されているはずです。ただ、そうした骨格や構造のなかでも、一番みえにくい情報アーキテクチャがやはり一番おろそかにされていることが多いと感じます。そもそも、情報を組織化する、構造化する、関係づける、流れをつくるということが、どんなことでどんな意味をもつものかが理解できていない人が多いようです。
まぁ、理解しているかどうかの前に、そのことを直観的に必要だと思えるセンスに欠けていることのほうが多いようですが。

ブランド・エクスペリエンスのデザイン

とはいえ、そんな問題点ばかりをあげていても仕方ありません。とにかく人びとの体験の具体的な対象となるものや世界とのインターフェイスをきちんとデザインするためには、情報の骨格や構造を組み立てる情報アーキテクチャの設計スキルをなんとしてでも養うしかありません。そうでなければ、ブランド・エクスペリエンスのデザインなんてできるわけないのですから。

先日紹介した『地域ブランド・マネジメント』という本にも、こんな一節がありました。

コンセプトとはあくまでもラフ・スケッチであり、抽象度の高いコンセプトを来訪者や住民が実際に体験していくためには、より具体的で詳細な設計図を作り上げていかなければならない。そのために、どんな資産に光を当てるのか。また複数の資産をどのように組み合わせていくのか。また資産を活性化するために新たにどのような要素を加えていくか、ついて検討していかなければならない。あたかも雑誌の編集者のような高度な編集力や展開力が求められる。そのようなプロセスを経て、コンセプトをもとにさまざまな資産が組み合わされていくことで、訪れる人々に対する体験がデザインされていく。

ここでいうコンセプトは、情報アーキテクチャにおいては、骨格や構造の下にある戦略にあたるものといえるでしょう。この戦略づくりとしてのコンセプトワークももちろん大事なのですが、今回はそこには触れません。それよりもコンセプトを具現化するための要件を抽出したあとに、それをさらに具体的なデザイン要素へと変換し、そのデザイン要素を組織化(グループ化、分類)し、その組織化した情報群をさらに構造化(階層構造、関係性の定義)するストラクチャのデザイン、さらにそれをより詳細なコミュニケーションやものの骨格へと落とし込むスケルトンを描いていく作業について、ここでは触れておきたいと思います。

先の引用にも、「どんな資産に光を当てるのか」という要素の優先順位づけや、「複数の資産をどのように組み合わせていくのか」という組織化や構造化の問題、「資産を活性化するために新たにどのような要素を加えていくか」といった不足要素の調達の問題などが指摘されているわけですが、情報アーキテクチャの構造、骨格の設計というのは、まさにコンセプトとしてスケッチした戦略を現実化するためのシステムの基礎を組み立てる作業にほかならず、そのためには素材として集めた要素をどのように組み合わせ、機能させるのが最適化を探っていく作業です。

もちろん、その組み立ての際にもっとも優先されるべきは、いかにして人びとに豊かな体験をしてもらうえるかということを、体験者である人びとも含めて大きな1つのシステムとして情報アーキテクチャの設計を考えるかということです。

A Model of Brand、再び

これをうまくモデル化しているのが、以前「ブランドとは何か?:1.A Model of Brandとパースの記号論」というエントリーでも紹介した、Dubberly Design Officeというサンフランシスコのデザインファームによる「A Model of Brand」というブランド・コンセプトマップです。

A Model of Brand


説明はすでに「ブランドとは何か?:1.A Model of Brandとパースの記号論」で書いているので省きますが、ようするに、この図にあるとおり、ブランドというのは単に商品やサービス、それからブランドのアイデンティティを表現するロゴやキャラクターなどからのみできているのではなく、それらのブランド要素を摂取する人びと、そして、その人びととブランド要素の接触の体験、そして、その体験を経て醸成される認知といった要素を含む全体的なシステムそのものが生み出す価値のことを指すのです。

この"A Model of Brand"というモデルは、まさに昨日の「情報アーキテクチャのデザイン」で、人間の側の「感覚、意味、行為」とシステム側の「操作、データ、フィードバック」という対応として描いたものを、ブランドという観点から統合的に捉えたモデルにほかなりません。ブランドの価値というのは、静的に存在するのではなく、まさにこうした人間そのものを含む統合的なシステムのなかで絶えず動的に生み出され/消耗していくものなんですね。

もちろん、このことは本来、情報アーキテクチャが必要とされるWebサービスや情報システムでもおなじです。Webサービスにしても情報システムにしても、サービスやシステムの側だけが機能しても価値は生まれません。そこに人びとが絡み、体験を通じて価値を感じる/醸成する動きがあるからこそ、システムは価値生産性をもつはずですから。

人を含めたシステム全体を捉えていないと…

結局、こうした人とサービスやシステム、商品との関係を組み立てたものが情報アーキテクチャの骨格や構造にあたるものです。そうした骨格や構造の組み立てがしっかりできていてこそ、表面やスタイルによる人とシステム側との具体的なコミュニケーション、体験が成立しうるのです。

とうぜん、どんなに骨格や構造がしっかりデザインされていても、最後の仕上げである表面やスタイルがどうしようもないデザインであれば、それまでの苦労もすべて水の泡になりかねないので、表面やスタイルが重要ではないということには決してならないのですけど。

もうひとつ付け加えると、ここまでの説明でなぜ情報アーキテクチャの設計に、人間中心設計の考え方や、ペルソナやシナリオといった手法が必要なのかもわかるかなと思います。ようするに、サービスや狭義のシステムの側だけをデザインするのではなく、それを利用し体験しながら価値を自らのなかで醸成する人間も含めた全体をシステムとして捉えるのですから、その欠かせない要素としての人間を、ほかの素材同様に知っておかなければ、システム全体を設計することはできないからです。

逆の見方をすれば、情報アーキテクチャの骨格や構造の設計をまともにしていない人たちにとっては、ペルソナもシナリオも役に立つ場面がほとんどないわけです。このへんをちゃんと理解することなく、ペルソナだ、シナリオだと騒いでいる人はいますが、意味わかってるのかな?と疑問を感じることは多いです。

という感じで、2回にわたってブランディングと情報アーキテクチャの関係を考えてみましたが、次回からはもうすこし本来のテーマであった地域ブランディングのことに話を戻していきたいな、と。

 

P.S.
と、こんな感じで情報アーキテクチャについて、僕なりに考えていたら、どんぴしゃなタイミングでコンセントの長谷川さんが本を出されたそうです。僕もついさっき迷わずAmazonで買っちゃいました。
これは内容を吟味することなどせず、とにかく買え!w



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