情報アーキテクチャのデザイン

昨日の「売れ続けるしくみとしてのブランド」では、ファンを育み、ブランド価値を高めていくようなブランド・マネジメントができない理由として「ちょっと複雑なしくみ=システムを設計する力がないというのもあるでしょうね。設計する力がないというか、それをイメージして考えるためのスキルをもっていない」ことを挙げ、その欠点を補うためには「情報アーキテクチャの設計を学んでおくと役だつ」ということを仄めかしておきました。

ブランディングと情報アーキテクチャを関係づける考えというのは、僕のなかではずっと以前からあるもので、例えば3年前の2006年11月に書いた「ブランド・アーキテクチャとパースの記号論」といったエントリーでもそれらしいことを書いています。そんな風に考えるのは、ブランドにしてもインタラクティブなシステムにしても、結局のところ、それらが求められる背景には、大量の情報のなかでいかに効率よく自分が欲するものを見つけ利用できるようにできるかという現代の人間の欲求があると思うからです。ブランドもインタラクティブなシステムも、そうした人間の欲求に対して、自身を他と区別して認識できるようにし、さらに人間の欲求に対して自身がそれを満足させうる存在であることを教え、継続的な利用につながる信頼を築くことが求められます。そうした点を満たしてこそ、商品はブランドとなり、インタラクティブなシステムは利用可能(ユーザブル)な存在となります。

そこで共通して重要となるのが、認知や理解、信頼につながるような情報アーキテクチャをいかにデザインするかということだと思うんですね。それはきわめて人間中心デザイン的な問題だと考えます。

必要なのは、コミュニケーションや体験の体系化

最近、地域ブランディングということを考えているわけですが、その場合にも「地域というインターフェイス」というエントリーを書いたように、僕はブランディングというものとインターフェイスデザインやインタラクションデザインの共通点を強く意識しています。

地域ブランディングが目的としている「地域のものを買ってもらう」→「地域に遊びに来てもらう」→「繰り返し訪れてもらうようになる」→「住んでもらう」というアクションに人を駆り立てるためには、それこそ、地域を知ってもらい、理解してもらい、欲してもらい、信頼してもらうというプロセスを、ものを買う、来てもらう、リピーターになってもらう、住んでもらうというステップが上がるたびに繰り返し双方のインタラクション=コミュニケーション、体験によって伝えていく必要があります。

そうしたインタラクション=コミュニケーション、あるいは体験の体系化というものをいかにして設計するかというところで、地域ブランディングにおける情報アーキテクチャのデザインの必要性を感じるわけです。
もちろん、それは地域のブランディングに限らず、企業におけるブランド・マネジメントでも共通する課題だと思います。

ブランドとインタラクティブシステムの共通する問題

いかにしてターゲットとなる人びとに知ってもらい、理解してもらい、信頼してもらうかというところは、数ヶ月前に紹介したクラウス・クリッペンドルフの『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』のなかで、人間がある対象に「注意を向ける仕方3つの間の推移」としてモデル化している「認識」→「探究」→「信頼」の3段階の推移と大いに関係があります。

注意を向ける仕方3つの間の推移


ブランドに信頼を寄せて価値を感じるのにも、道具を信頼していちいち使い方を意識しなくても使えるようになるのにも、その前段階として、ブランドや道具に対する価値や使い方の探究があり、さらにそれ以前にはブランドや道具の存在やそれが何のためのものかを認識しておく必要があります。

つまり、ブランドでもインタラクティブなシステムでも共通して問題となるのが、対象となる人に、
  • どう知ってもらい、どう認識してもらうか
  • 持っている価値の探究をどのようにして行わせ、その価値をどう伝えるか
  • いかに信頼してもらい、信頼を裏切らないようにするか

ということです。

それがうまくいかなければ先の図に合ったように、探究の結果、落胆するかもしれないし、信頼を失い混乱し、もっと悪くすれば離脱してしまうかもしれないからです。
ブランドをつくる上でも、インタラクティブなシステムをつくる上でも、できればそうしたことは避けたいでしょう。

そこで重要な意味をもってくるのが、情報アーキテクチャの設計スキルだと思うのです。

感覚、意味、行為

では、情報アーキテクチャとは何のために必要かというと、人間が外界と接して、その意味を理解し利用できるようにするためのインターフェイスを確立するために必要だということができます。

ここでもう一度、クリッペンドルフを引いて、「感覚」→「意味」→「行為」が連続してまわりながら「意味」を更新していくという下の図のようなモデルを考えてみたいと思います。

感覚、意味、行為


このモデルが表現していることは、

  • 人は「感覚」によって「外部の世界」を感知する
  • 人は「感覚」に基づいて頭のなかで「意味」を構成する
  • 人は自分が構成した「意味」に基づいて「行動」する
  • 人は自分の「行動」の結果、生じた「外部の世界」からのフィードバックを「感覚」で感知し、「意味」の構成を更新する(以下、繰り返し)

という人間の意味形成と感覚、行動との関係性であり、つまりは人間にとっての「意味」というのはインタラクション(=体験)によって生じる動的な価値であるということです。

ブランディングにおいて継続的なコミュニケーションや繰り返しの体験が重視されるのも、まさにこうした「感覚」→「意味」→「行為」のサイクルを繰り返し人びとに回してもらうことで、意味=価値を醸成してもらいたいからにほかなりません。繰り返しのコミュニケーション、繰り返しの体験だけがブランドの価値を高める方法です。

操作、データ、フィードバック

情報アーキテクチャを考える場合、当然、この「感覚」→「意味」→「行為」に対応するものを、情報アーキテクチャの側で用意する必要があります。
それが「操作」―「データ(コンテンツ)」―「フィードバック」の3つの要素です。
人が「行為」を行えるように、対象となる「データ(コンテンツ)」に対する「操作」を可能にし、その「操作」の結果の「フィードバック」を「感覚」で感知してもらい、「意味」を構成してもらうことで「データ(コンテンツ)」の価値を意味づけてもらう。
たとえば、具体的にいえば、動画という「データ(コンテンツ)」に対して、再生するための「操作」を提供し、その操作に基づきユーザーが行動することで、実際の動画が再生されるという「フィードバック」を提供する。そうすることで動画そのものの内容=意味を理解してもらうだけでなく、一連の操作方法=システムとのコミュニケーションの方法を理解してもらうわけです。これが情報アーキテクチャをデザインする際の基本となる単位です。

実際には、こうした「操作」―「データ(コンテンツ)」―「フィードバック」という要素は1つのシステムあるいはブランディングのプランに無数にあって、複雑に絡み合っているはずです。なので、情報アーキテクチャのデザイン―つまり、システムの設計、ブランド・マネジメントのプランニング―の際には、こうした要素を洗い出したうえで、その要素群を組織化(グループ化、分類)、構造化(階層構造化、関係性の定義)を行い、整理・組み立てする作業を行うわけです。このあたりのより具体的な進め方は拙著『ひらめきを計画的に生み出す デザイン思考の仕事術』の第4章に詳しめに書いておいたので参照いただけると幸い。

情報アーキテクチャの設計スキルを身に着けていれば…

というわけで、情報システムであれ、継続的なコミュニケーションが重視されるブランディングであれ、この情報アーキテクチャの設計スキルともっていると、結構、役立つと思うわけです。

ところが、現実にはブランディングに携わる人以前に、本来はもっと情報アーキテクチャのデザインに関わっているはずの、ものをつくったり、デザインしたり、企画したりといった人たちの間にすら、「情報アーキテクチャを設計する」という発想がこれっぽちもないなと感じることが多々あるといった状況です。とにかく情報を組み立てて、その構造をもって人びとと物事とのコミュニケーションを成立させるという考えがないんですね。本当にびっくりするくらい、頭の中になくて、アイデアが整理、構造化される前に最終的なアウトプットとしてのスタイルに考えが飛んでしまいます。
デザインというのは、そもそも構想という日本語に訳すこともできる言葉だと思うんですが、この構想力というのが欠けている人が残念ながら多いようです。

まあ、そうした状況なので、この日本の環境で、情報アーキテクチャのデザインの必要性を理解し、その方法を根付かせていくというのは一筋縄ではいかないなと印象ももっています。
逆にいえば、この情報アーキテクチャの設計スキルを身に着けていれば、他の人に差をつけられるということでもあるんですけど。

 

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