そんな思いから読んだのが、この『地域ブランド・マネジメント』
この本では、第1章で「地域ブランド・マネジメントの視点」として、本書が従来、地域の名産品をブランディングする方向で進められることが多かった地域ブランディングというものを、単に名産品を売れるようにするだけではなく、実際に人がその地域に来てくれる、その地の人と交流したい、実際にその地に住みたいところにまでもっていき、真に地域が生活、仕事の場として活性化することを地域ブランディングとして考え、そのためのマネジメントに必要とされる視点をはじめの1章でまとめています。
単に売れる商品をつくるのではなく、持続的にその地域が活性化するようなブランディングというのは非常に共感できますし、東京一極集中のあやうさはこの上なく感じていますので、道州制のように地域の自立性をなんとか実現していかなくてはいけないと考えます。その意味では、この本で「地域ブランド」と名づけられた地域を生活の場、仕事の場として再活性化する方法論やその実践の事例は非常に興味深く感じられました。
地域ブランドの計画プロセス
その具体的なマネジメントの方法は、第2章で「地域ブランドの計画プロセス」として紹介されています。地域のブランディングといっても、大枠のプロセスは企業におけるブランドのマネジメントとおなじものですし、しいてはデザイン思考のプロセスともほとんど重なっています。つまり、はじめに現状把握として、内部的な資産(シーズ)の掘り起こし・棚卸と外部のニーズの把握、そして、現状での自身のブランドの評価を競合する地域との比較なども含めつつ確認する。そうした現状把握の作業を並行して、地域のブランドのあるべき姿や目標設定の作業を行う。
この現状とあるべき姿のギャップを埋める作業が具体的なブランディングの活動であり、それをどうやって埋めるかを考える際のベースとしてブランド・コンセプトを開発します。これは地域ブランドのあるべき姿を明確にしていく作業です。その地域がもっているブランド資産(あるいは、ブランド資産になりうる素材)と外側からのニーズ、ウォンツをいかに組み合わせて、その地域の独自性をもった魅力を組み立てていくか。これはまさに商品開発のプロセスにおけるコンセプトづくりと共通するものですね。本書では、地域ブランドのコンセプトを組み立てる際に、体験価値(来てもらっての体験、交流での体験、住むことでの体験)を重視することの大切さが示されています。
コンセプトが明確になれば、そのコンセプトを実際に具現化し実現していく活動の段階に移ります。どうした表現をともない、どういう活動によって実現していくか。本書では、その際に、ゾーニング、コミュニケーション、アクターという3つの領域で、きちんとブランディング活動の戦略を決定し実行していくことの重要性が指摘されています。
地域ブランド・マネジメント活動における3つの戦略
この実現のところが企業のブランド活動でもむずかしいところですが、地域ブランディングの場合はそれ以上にむずかしいところなんだろうなと感じます。現状把握をしてコンセプトを組み立てるまでは、経験やセンスやノウハウや意欲があれば、なんとかなりますが、それを実現していくというのは、ブランディングに関わる人たち全員で足並みを揃えて力をあわせていかないとできない作業だからです。そうした意味でも、本書では、第5章で「ゾーニング戦略」、第6章で「コミュニケーション戦略」、第7章で「アクター戦略:担い手づくりとコミュニティの役割」として、ブランド・マネジメントを行う地域の領域をどう定義するか(ゾーニング)、コンセプトを具現化した地域の体験をどのようにターゲットとなる人びとに伝えていくか・感じてもらうか(コミュニケーション)、ブランディングの活動をどのような人びとがどのような役割分担をしながら実施していくか、また、そのコミュニティをいかに作りあげるか(アクター)の3つの領域に分けて、それぞれの戦略(成功のための仮説)をさまざまな地域の事例をみながら考察しています。
この3つのうち、コミュニケーションに関しては、企業におけるブランド・コミュニケーションとさほど大きな違いはないかなと思っています。体験価値や積極的な参加を重視するというところが地域ブランドではより重視されるということでしょうか。いずれにせよ、きちんとPRやWebを利用して地域の魅力を伝え、実際に来てもらった人に魅力を感じるおもてなしを行う。これは僕自身が得意とする領域であることもあって、あまりむずかしさや新しさは感じませんでした。
ただ、他の2つ―ゾーニングとアクター―に関しては、地域のブランディングならではのむずかしさがあると感じました。
ゾーニングとアクター
特にどういうエリアに区切って地域ブランディング活動を実施するかはむずかしい。なぜなら県や市区町村のような行政的なエリア区分が必ずしも、ブランド・マネジメントを推進するにあたって適切なエリアの区分とはなりえないからです。地域ブランディングにおいては地域のブランド資産として、その地域の歴史やそのなかで培われた文化が重要な要素になることが多いのですが、問題はそれが明治における廃藩置県で歴史や文化的なつながりを無視してエリアの再定義が行われてしまったために、行政エリアとそれらの資産のあいだに不一致が生じてしまっていることです。地域ブランディングにおけるゾーニング戦略においては、そうした行政エリアの制約をいったん超えて、ブランドという視点からゾーニングを再定義していくことが必要になる。ところが、これがアクター戦略をむずかしくさせます。行政エリアを超えたり、逆に行政エリアのごく一部を対象にするとなると、行政主導でブランディングを進めることがむずかしくなるからです。そうなると、別の活動主体が必要になる。アクターとしては、必ず活動をリードする役割とそのリーダーに協力して活動を行う人たちのコミュニティがなければ、活動の推進はむずかしいわけですが、このアクターたちのコミュニティを実現するのは、それこそむずかしいだろうな、と。ここだけは単純に外側からのサポートだけではむずかしく、その地域に暮らす人びとの自主的である部分では自己犠牲さえ伴う行動がなければ、実現できないだろうな、と。
といった、むずかしさは多々感じたものの、むずかしそうに思えるからこそ、ぜひ取り組んでみたいと思えました。その意味で、非常に参考になった1冊です。
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この記事へのコメント
abicより
abicのメンバーで、コンセプト(4章)を担当したものです。僕たちの本の本質を理解して頂けてとても光栄です。地域にしても商品にしても、お互いにブランドづくりがんばりましょう。WEBでつながりあえるのって素晴らしい。ブログこれからもがんばってください。
tanahashi
とても共感できる内容でした。
楽しく読ませていただきました。