第3回ユーザー中心のWebサイト設計・ワークショップ1日目

3回目となり、恒例になった感のあるデジタルスケープ社主催の「ユーザー中心のWebサイト設計・ワークショップ」の講師をしてきました。

2週にわたっての2日間(5h/日×2=10h)で行うワークショップの1日目は、いつもどおり下記の内容を実施しました。

  • 講義―ユーザー中心のデザインについて―
  • ワークモデル分析(ユーザー個別での分析)
  • KJ法(ユーザーグループの分析)
  • ペルソナ文書の作成

この作業の流れは、自分たちがこれからつくろうとしているWebサイトあるいは商品のターゲットとなるユーザー層に対して、その人たちが普段どのように生活のなかでWebサイトあるいは商品と関わっているのかを観察&インタビューで調査した結果を、まずは個別のユーザーごとにその行動と背景、そして、そこに潜む潜在的なニーズを理解するための「ワークモデル分析」を行い、その後に類似する行動やその目的を有したユーザーグループごとにKJ法を用いてグループで共通する行動パターンや潜在ニーズを見つけていく、ユーザー理解・ユーザーニーズの把握のための作業にあたります。
この作業を経て得られたユーザーに対する理解、ユーザーニーズの把握の結果を定着して表現したものがユーザーモデルとしてのペルソナになります。

まぁ、こうやって文章にすればなんとなくわかった気になるものの、実際にユーザー理解・ユーザーニーズの把握をする作業は決して一筋縄ではいかないもので、いくらそれをことばだけで説明しても理解してもらうことはむずかしいので、手っ取り早く体験してもらおうというのが、恒例となったこのワークショップの主旨です。
毎回、参加者の皆さんは苦労して作業していますが、苦労していることだけでも、この手のワークショップは成功かなと感じます。苦労して参加者自身のなかに疑問が生じること。そのこと自体がワークショップの場を組織してその場で講師をする立場の一番の役割だろうな、と。

では、簡単にワークショップの内容を振り返り。

ワークモデル分析(ユーザー個別での分析)

事前に実施して文書としてまとめておいた3人分のユーザーインタビューの結果を元に、その人たちの行動とその背景としての行動の目的、影響する人や物事との関係性を、図として描きながら解釈を行うのがワークモデル分析です。

このワークショップでは、Webサイトを中心に旅行の計画を行い、この1か月以内に旅行に出かけた3人のユーザーの対して行った、その具体的な旅行の計画をどのように行ったかという詳細な調査データを元に、ワークモデル分析の作業を行います。
Webを使って旅行の計画を行うユーザーがどんなタイミングでどこから情報を得て、その情報からどのような影響を受け、また、入手した情報を自分以外の人にどのように共有したりしながら、最終的な旅行の計画をたてるのかを理解する作業を行うのです。

ワークモデル分析で用いる視点には、

  • フローモデル:ユーザーがタスクを実行する際に、他の人やメディアとのあいだに行われるコミュニケーションや情報のやりとりの流れを中心に、行動をモデル化
  • シーケンスモデル:ユーザーがタスクを行う際の流れを時系列に沿って理解するモデル
  • アーティファクトモデル:ユーザーがタスクを実行する際に作成する人工物(メモやノート)などをモデル化し、どのようなものを何のために作成するのかを理解
  • 文化モデル:ユーザーがタスクを行う際に影響を与える人間関係や社会的ルール、経済状況などを記述するモデル
  • 物理モデル:ユーザーがタスクを実行する物理的な環境を図示し、どんな物がユーザーの行動に影響を与えているかを理解するモデル

の5つの視点を用いて図示を行いますが、今回のワークショップではこのうち、フローモデルとシーケンスモデルの2つを使って、旅行の計画を立てるユーザーの行動を分析してもらっています。

ユーザーの行動を図にして理解するという作業は、なんとなく文書でまとまったものを読んで理解しているつもりになっているものを、再度図式化を通してその関係性・構造を整理・把握することで、その行動と背景の関係性を解釈しなおすためのものです。

参加者のなかにはむずかしいといいながら、やってる方がいましたが、そのむずかしさを感じることが大事です。他人の行動やなぜそんな行動をしているかを理解するのが簡単なはずはないからです。それを普段の僕らは簡単に理解したつもりになっています。時には、その程度の理解で、相手の行動を非難したりもします。それは相手を理解したのではなく、単に自分の思考の枠組みに相手の行動を勝手に当てはめてしまっているだけで、すこしも相手の立場を理解したことにはなりません。
ユーザー中心のデザインで求められるユーザー理解は、自分の思考の枠組みに相手をあてはめるのではなく、相手の立場そのものになりきることが求められます。それには自分の思考の枠組みをいったん忘れなくてはなりません。
むずかしいのはここです。ただ、そのむずかしさを超えた先にしか、相手の立場になるなんてことはできません。それ以前にむずかしさを感じることができないのだとしたら論外なのです。

ワークモデル分析


KJ法(ユーザーグループの分析)

ワークモデル分析で個別のユーザーの行動を分析すると、ユーザー同士で似ている人とそうでない人がいるのが見えてきます。次の作業は、その似ているユーザー同士をユーザーグループとして、統合的な視点にたってグループ単位を対象に共通の行動やその背景、ニーズを抽出する作業を行います。これにはKJ法を用います。

今回のワークショップでは3名の調査対象のユーザーのうち、2名の類似するユーザーを1つのグループとして、2名の共通点を探るために、KJ法の作業を行いました。

調査データをまとめた文書から、行動に関する情報をポストイットに書き出す作業からはじめます。これを情報の単位化といいます。昨日あらためて感じたのは、この情報の単位化というのは、俳句を詠むなどに似ているのかということでした。「古池や蛙飛びこむ水の音」が短い文章のなかに、蛙が水に飛び込む水の音が印象的に響くほど静かな古池のほとりの情景を描ききるように、KJ法での単位化においても、ポストイットのなかにユーザーの行動とその背景がありありと他の人がみてもわかるように書き出すことが求められます。
ここで個別の行動の情景が浮かび上がるような形でポストイットに情報の単位化ができていないと、「なぜ、KJ法は失敗するのか?」というエントリーで書いたように、次の似ている内容のポストイット同士をグループ化する情報の統合化を行う際に、「他人がみて、どういう状況の行動を抜き出したのかがわからない」とか「観察対象の人びとの行動のなかの体験そのものを想像せずに、カードに書かれた言葉のイメージだけで分類する」ということが起こってしまいます。
また、単位化した情報の数が少なすぎてもうまくいきません。今回1つのチームでは単位化した情報が少なすぎて。ペルソナのプロフィールを作成する部分にあたる情報の統合化がうまくできないなんてことも実際に生じました。多すぎることで困ることはありませんので、KJ法をやるときは単位化の時点でどれを書き出したらいいかなどと悩んで情報を捨てることはせず、書けるものは全部書き出してしまうくらいの姿勢でのぞむ方がよいと思います。

情報の単位化


情報の統合化でグループ化したグループにラベルをつける作業には、今度は俳諧連歌のような力が必要になるのだろうと感じました。俳諧連歌では前の人が詠んだ上句(五七五)や下句(七七)に対して、下句あるいは上句をつけます。とうぜん、前の句を受けての次の句となります。前の句できちんと情景を頭のなかに思い浮かべた上で次の句をつけなくてはいけません。
KJ法でラベルをつける作業にもおなじような力が必要になるのです。『ひらめきを計画的に生み出す デザイン思考の仕事術』でも詳しく書いているように、KJ法は単純に情報を分類する作業ではありません。小さな発想を重ねて大きな発想を生み出す発想法です。グループ化した情報群にカテゴリー名(「検索する」「宿を探す」など)をラベルに書き出すのではなく、グループ化した個々の情報がもっている具体的な内容(「牧場が多いのはどの地域かわからなかったので<牧場 体験>で検索した」「じゃらんは宿の写真が豊富だから宿探しに使う」など)が欠損しないように、やはり短いセンテンスにそうした情報を織りこむ形でラベルをつけることが必要です。
というのも、結局、そこでつけたラベル(「宿探しはクチコミを使って検討したいのでじゃらんや楽天トラベルをみる」「おなじ食事をとるならおいしいものを食べたいと思うので食べログを参照する」など)が次にペルソナを表現する際の、ペルソナの特徴になるからです。

そうした情報の単位化、情報の統合化の作業を経ると、次の情報の図解化で情報間の関係性を理解する作業もスムーズに進むようになります。ユーザーはなぜそのような行動をしたのか、なぜそのような順番で行動をしたのかが見えるようになり、ユーザーに情報提供をする際に何に配慮し、どんなタイミングでどのような情報を与えればよいのかがわかるようになります。それがみえてくれば、どのようなデザインが必要かの発想は浮かびやすくなるはずです。もし、KJ法をやったあとに、そうしたアイデアが生まれてきていないのなら、それはここまでの調査、ワークモデル分析、KJ法の作業に不足あるのです。

KJ法


ペルソナ文書の作成

こうした作業を経て、きちんとしたユーザー行動の理解、そして、その背景にある潜在的なニーズが自分の腹に落ちているからこそ、ペルソナというユーザーモデルの作成が可能になります。
よく「ペルソナは調査を元に作成したユーザーのモデル」といいますが、単に調査をしただけではちゃんとしたペルソナはできないと思います。調査データをもとにワークモデル分析やKJ法を用いて、自分の思い込みを捨て、相手の立場になりきってこそ、まともなペルソナができます。ましてや調査もせずに、自分たちの思い込みだけでユーザー像をイメージしたものをペルソナとは呼びませんし、そんなモデルを使ったデザインをユーザー中心のデザインとはいいません。

ただ、ワークモデル分析やKJ法を経て、きちんとユーザーの立場・潜在ニーズを把握できた場合でも、ペルソナをつくる際に失敗するケースもある。それは何かというと表現で失敗するのです。自分たちではちゃんとわかっていても、それを他の人に表現する場合にうまく伝えられないという間違いが起こるケースはあります。
ペルソナというのはユーザー像を明らかにするためのモデルですので、その目的である「ユーザー像を明らかにする」ことがうまくいかない表現というのはやっぱり問題です。

よくせっかくつくったペルソナを上司や関係者が理解してくれないという話を聞きますが、その要因の1つには表現が稚拙で伝わらないというケースもあるのかなと思います。もちろん、それ以外にそもそも相手がユーザー中心という発想に理解を示さないという場合もありますけど。

ペルソナを作成


こうした作業を経て作成したターゲットユーザーのモデルであるペルソナを元に、次回は、そのペルソナの期待に応えるためのWebサイトを企画・設計するために、シナリオとペーパープロトタイプを用いて、デザインを進めていきます。それについてはまた来週、個の場で報告しようかと。

そうそう。ワークショップを終えて外に出ると、こんな夕焼けに遭遇しました。



いよいよ本格的に秋ですね。

 

第1回目(2008年10月18日、25日開催)
第2回目(2009年2月21日、28日開催)

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