2006年01月31日

ビジネスの場における一段階淘汰と累積淘汰

前に、会社の分析チームの仕事の効率化と最終成果物としてのレポートのトーン&マナーを統一するために、ちょっとしたレポート用のフォーマットを作成した。
実際、使っている感想を聞くと、フォーマットがあったほうが効率がよいという反応。
当然だが、ゼロ=白紙から考えるより、決まったフォーマットの中で、論を展開していくほうが作業効率ははるかにいい。

そんなことを思っていたら、ちょうど今読んでいるリチャード・ドーキンスの『盲目の時計職人』という本に、「一段階淘汰と累積淘汰」という話が載っていたのを見つけ、まさにこれこそ自然淘汰における効率化だなと感じた。

例えば、血液中の赤い色素であるヘモグロビン。

ヘモグロビンの1分子は、アミノ酸でできた4本の鎖が互いにねじれた形をしている。この4本鎖のうちの1本について考えよう。それは146個のアミノ酸からできている。生物に共通してみられるアミノ酸には20種類ある。20種類のものを146個つないでずらりと並べるあらゆる場合の数は、思いも及ばぬ数になる。これをアシモフは「ヘモグラビン数」と呼んでいる。(中略)われわれの求めている数、「ヘモグラビン数」は、1の後にゼロが190個もつく(ほぼそれに近い)!
リチャード・ドーキンス『盲目の時計職人』より

一段階淘汰と呼ばれる1回きりのふるい分けでは、20の146乗(つまり、ゼロが190個つく数)の中からヘモグラビンをつくるためには果てしないコストがかかる(つまり不可能だということ)。
しかし、実際にはヘモグラビンは存在している。もちろん、まだ地球がただのスープだった時代にヘモグラビンは存在していない。スープの時代から現在までいかに長い時間があったとはいえ、その時間でさえも一段階淘汰の方法で20の146乗の可能な組み合わせからたった1つのヘモグラビンとなる組み合わせを見つけるためにはあまり短い。
ようするにそれ以外のほうがあったわけで、それが累積淘汰と呼ばれるものだとドーキンスは言っている。

累積淘汰では、ある世代の最終産物は次世代の出発点となる。
次の世代もまた前の世代の最終産物を出発点とする。
実際の生物ではこれを行うのが遺伝子だ。

累積淘汰と一段階淘汰の違いは、次の世代が行える変更は前の世代によって制限されているということだ。
ヘモグラビンの例で言えば、すべての世代交代の際に20の146乗の可能性があるわけではないということだ。
ようするにそれはゼロからものをつくる作業ではなく、あるフォーマットの上で変更を行う作業となる。
自由度は減るが効率は劇的にあがる。
つまり、この効率化によってヘモグラビンはいま存在しているし、存在し続けることができているのだ。

このことを考えていて、もう1つ思い出したことがある。
それは大前研一氏がいうところの「知的怠慢」だ。
知的怠慢とは、やる前から「できるわけがない」とあきらめてしまうことを指している。これまでの自分の経験と照らし合わせたりすることで、まったく新しいことに望む際の不確実性を回避しようという態度だ。
確かに新しいことを学んだり、身に着けたりするのは困難や苦労がつきまとう。
はじめからうまくいくことなら誰もそれを回避しようとしないが、はじめは困難せざるをえないところにそれを身に着ける価値はある。

しかし、これも苦労するのははじめだけではないだろうか?
つまり、反復訓練により学ぶということは、一段階淘汰ではない。はじめてすこしすれば何かしらコツみたいなものがつかめてくる。それができるようになるとまた新たな難問が待ち構えていたりはするが、すくなくともそれは最初のゼロの段階よりはマシな状態になっているはずだ。
つまり、反復訓練においてあるのは累積淘汰だ。
人間の学習機能は累積淘汰であるはずである。
これは回避しようというのは、大前氏のいうとおり、知性の欠如ではなく、知的怠慢だ。

そして、これもダーウィン的な自然の摂理同様に、知的怠慢は変化する環境の中で自然淘汰される運命にあるのだろう。
ただ、悲惨なのは、その場合、淘汰の憂き目にあうのは、知的怠慢な個体ではなく、知的怠慢な人たちを抱えた組織全体(生物でいうなら系統)であるだろうということだ。
だからこそ、どんな組織にもきちんと次世代にも生き残れるような文化が必要なのだろう。



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posted by HIROKI tanahashi at 21:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 進化論、生物学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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