デザインは、ときには「情報を公開する技術」をあつかうのではなく、つねに「情報を公開する技術」なのだろう。
情報デザインフォーラムのメンバーでありながら、僕が「情報デザイン」ということばを使わない理由がまさにこれ。
情報を公開する技術
情報デザインとあえてカテゴライズをつくることで、逆にそのほかに何をデザインしているつもりなのか?と疑問を感じます。情報以外に何をデザインしているつもりなのか?
先に「物に意味を与える仕事(思いやりをもって)」というエントリーで、
人の生活をなんらかの形で役だつ道具としての人工物と、それを利用する人のあいだをつなぐインターフェイスを設計するのがデザインの仕事です。このとき、インターフェイスには、人工物の内部機構と人間の頭のなかにつくられるモデルのあいだを取り持つ役割が与えられます。
と書きました。
インターフェイスとは、情報の意味をそれを扱う人間にあわせて束にしたものにほかなりません。先のエントリーにも書いたように、販売員やサービスマンなど、顧客に接する人の態度や説明、コミュニケーションなども、顧客がサービスに接するときのインターフェイスですし、上司が部下に指示する際の指示の仕方もインターフェイスです。
そうした人工的につくるあらゆるものが人間に有意な情報をあたえられるよう、インターフェイスを形づくるのがデザインの仕事ではないでしょうか。
鈴木一誌さんは『ページと力―手わざ、そしてデジタル・デザイン』
まさに僕もそのとおりだと思います。
文字がないことが、ただちいことばに頼らないことになるわけではない
情報デザインというとき、情報を単なることばやデータのみだと狭く捉えすぎている感がある。文字がないことが、ただちいことばに頼らないことになるわけではない。ドアノブの優秀なデザインは、見た瞬間に「引く」ということばを手渡している。触ってみたい、あるいは引きやすそうだ、といった気持ちは、「触る」や「引く」という概念の伝達を土台としている。絵文字やピクトグラムは、それがすぐれた出来ばえであればあるほど、非常口、女性用トイレというように、目撃する人間の内部でことばに端的に置換される。
文字があるから情報ではない。文字や音声で発せられたことばがなくても、よいデザインは人間の頭のなかに、意味=ことばを想起させます。
クラウス・クリッペンドルフが『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』
それは必ずしも、ことばやデータが表面にあらわれた狭義の情報デザインの分野にのみ関わる話ではありません。「身体としての書物/今福龍太」で紹介した今福さんが、
「データ」や「コンテンツ」という今日のテクノロジー思想を支える概念には、まだメディアとしての「コク」が足りない、とぼくには思えるのです。今福龍太『身体としての書物』
と書いていることに僕は重要な意味があると考えていて、いまの課題はITというテクノロジー的思考から「情報デザイン」をデザインの特殊なカテゴリーとして扱ってしまうことで、人間と情報の意味を間違った形で定義してしまい、人間の創造性や想像性をいちじるしくつまらないものにさせてしまっていることだと思います。
(ちなみに上記引用の「コク」に関しては、「文字の官能性、書物としての身体」に書いたので、そちらを参照ください)
インターフェイスということをちゃんと考え直す
もういちど、「物に意味を与える仕事(思いやりをもって)」に掲載した写真を載せておきましょう。
人はインターフェイスを介して人工物と接する「行動」を行うことで、何かを「感覚」し、そこに「意味」を読み取ります。その「意味」にしたがって、さらに人工物に対する「行動」を起こすことで「意味」と「行動」の結果、「感覚」したことの差分を読み取り、「意味」の書き換え、再編集を行っている。
クリッペンドルフ
デザインする人に求められる「情報を公開する技術」とは、まさにこのプロセスがまわるようにインターフェイスをつくることだといえるでしょう。
僕らは、本とWebページ、あるいは、コンピュータと(非デジタルな)楽器などを比較することで、IT的なテクノロジー思考の「データ」や「コンテンツ」という概念を再考して、あらためてインターフェイスとは何かということを、人間の創造性/想像性の視点からきちんと捉えなおし、組み立てなおす必要があるはずです。
関連エントリー
- 自分がいいと思うモノをつくれ!
- 物に意味を与える仕事(思いやりをもって)
- プロジェクトの定義とデザインプロセス
- 声と文字(あるいは本というメディアについて)
- 文字の官能性、書物としての身体
- 情報摂取の場・過程・作法をみなおす
- 身体としての書物/今福龍太
- 意味論的転回―デザインの新しい基礎理論/クラウス・クリッペンドルフ
この記事へのコメント
pochy
「ただしい」でしょうか??
すごい真面目な記事の中で赤ちゃん言葉が出てきたので思わずニヤニヤしてしまいました。
ねらって文字をうっていたら本当にごめんなちい。