
とうぜん、そのインターフェイスを設計し実現可能にするのがデザインの仕事であるなら、その仕事をする人は、人工物の側の内部機構と人間の頭のなかのモデルの双方を同時に理解する必要があるでしょう。
もちろん、これはことばでいうほど、簡単なことではありません。特に「人間の頭のなかのモデル」は。
物に意味を与える仕事
クラウス・クリッペンドルフは『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』デザインとは物の意味を与えることである。クラウス・クリッペンドルフ『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』
といっています。
もちろん、その場合、誰に対して意味を与えるか?が問題となります。
単純に考えるなら、それを利用するユーザーに対して意味を与える、という答えになるでしょう。
ただ、昨日の「プロジェクトの定義とデザインプロセス」というエントリーでも指摘したように、ある人工物に関わるステークスホルダーは単純に通常の利用を行うユーザーだけではありません。
その商品を売る人、在庫として商品を保管する人、商品が故障した際に修理する人、利用者がその商品を購入することを許可する人などなど。いわゆる商品のステークスホルダーはたいていの場合、複数人います。
デザインする人は、とうぜん、そのすべてのステークスホルダーに対して、その人の役割に応じた意味を理解できるよう配慮してデザインをしなくてはいけません。
在庫を管理する人に対しては、どのように保存管理することが適切か(壊れやすいか、腐らないか、保管の際の温度は?など)がわかるように。
修理を行う人に対してはどういう手順でバラして、またどういう手順で組み立てればよいかがわかるように。
とうぜん、通常利用を行うユーザーには使い方がわかるように。
デザインする人はそれぞれの人の役割に応じた適切な人工物の意味が理解できるようデザインを行うことが必要です。
二次的理解
つまり、デザインする人は、自分以外のステークスホルダーそれぞれが商品に接した際に思い浮かべるであろう頭のなかのモデルを想定、理解したうえで、適切なインターフェイスを設計する必要がある。クリッペンドルフは、それを二次的理解と呼んでいます。
とうぜん、それには様々なステークスホルダーがある人工物に接した際にどのような「頭のなかのモデル」を形成しうるかをイメージするための方法が必要になります。
代表的な方法としては、フィールドワークやエスノグラフィなどの手法があり、もちろん、僕の新しい本、『ひらめきを計画的に生み出す デザイン思考の仕事術』
他人の立場、ニーズを察して仕事をしているか?
これまで人工物といってきましたが、それは物理的な形をもった商品とは限りません。販売員やサービスマンなど、顧客に接する人の態度や説明、コミュニケーションなども、顧客がサービスに接するときのインターフェイスですし、上司が部下に指示する際の指示の仕方もインターフェイスです。
その意味では、多くの人がちゃんと自分が接する相手の「頭のなかのモデル」をイメージしたうえで、その相手にとってはインターフェイスとなる自身の言動を決定しているかを自問しつつ自身の行動を見直す必要があるということでもあるのです。
自分以外の誰かに対して何かを行おうとするのなら、その仕事はすべて「物に意味を与える仕事」であるといえると思います。
デザイン思考の仕事は人間中心の仕事です。
人間中心とは、デザインする人や企業の理屈で仕事を進めるのではなく、その仕事の成果としての商品・サービスを利用する人びとのために仕事をするということです。人びとの意見を聞いてデザインしろという話ではありません。他人の意見を聞くのではなく、他人の立場、ニーズを察するのです。
「人間中心の仕事」というのは、それが物と人、人と人のあいだでインターフェイスを介した意味の交換を可能にする仕事だからです。
そのためには相手の立場、ニーズを察する観察力、コミュニケーション力が必要になるでしょう。
思いやり
ほとんどの仕事は自分のため(だけ)にやる仕事ではありません。多くの仕事が自分以外の他人のために(も)する仕事です。そうであるなら仕事の対象となる二次的理解の方法はほとんどの人が身につけておかなくてはいけない仕事のスキルではないかと思います。もちろん、それは仕事以外の場(リアルの場、ネット上のヴァーチュアルな場に限らず)で、他人と接する上でも大切なことではないでしょうか。
二次的理解。それはひとことでいえば、思いやりでしょう。
思いやりこそが、デザインという仕事には必要ではないかと思います。
相手に対して不満を感じる前に、自分が相手に対して思いやりをもって接しているかを問うことが必要でしょう。
関連エントリー
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- 他人の話を聞く技術:べからず集とうまい聞き方のコツ
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