製品中心から人間中心のデザインへ

いま、あるUCD(ユーザー中心デザイン)プロジェクトのコンサルティングをさせていただいています。それが結構おもしろい。

守秘義務契約があるので内容はいっさい書けませんが、いわゆるつくる物(商品)が決まっていて、それをUCDのプロセスでデザインしましょうという話ではなく、人びとが生活行動として行うある類型的行動(類型的行動というのは、たとえば散歩とか祭りとかを指します)をよくするためのデザインを考えましょうということでUCDのプロセスと手法をつかって進めているんですね。これがなかなかおもしろい。やりがいがあります。

最初の段階では何をつくるかは決まっていないんです。
何のためにつくるか、人びとのどんなシーンでの利用に役立つものをつくるかというスコープだけが決まっているところからスタート。

何をつくるかは、今日の段階でようやくある特定のペルソナに対するコンテキストシナリオを書いたので、つくる物の要件がみえてきたという段階です。

残りのペルソナに関しても同様の作業を行うことで、異なる目的・ゴールをもった各々のペルソナが必要とするものが抽出でき、それを統合する形でデザイン要件、コンセプトをつくりあげる形になります。

製品中心から人間中心へ

最初に何をつくるかが決まっておらず、かつ、既存の物では解決されていない人びとの行動の潜在的な問題を解決しようということなので、それこそユーザー中心のイノベーションを企画し、実現するというのが今回のプロジェクトの目的となります。
いや、何をつくるかが決まっていないのだからユーザーと呼ぶのは適切ではなく、人間と呼ぶべきなのでしょう。人間中心のデザイン(HCD)です。

多くのUCDプロジェクトはUCDとはいいつつも、最初からデザインする製品が決まっているところからスタートしますので実は製品中心のデザインでしかありません。人間中心のデザインの対比として、技術中心のデザインということばが用いられますが、僕はそれよりも製品中心のデザイン、商品・サービス中心のデザインを対比させたほうが人間中心の意味が際立つのではないかと思います。技術中心だろうが人間中心だろうが結局、製品や商品・サービスをつくることを前提にはじめることのほうが、人びとの暮らしのなかの問題を解決するということの対極にあると考えるからです。

それに比べ、今回のプロジェクトは、製品ありきではなく特定の人間の類型的行動に焦点をあてて、その行動を行う人びとが自身の目的をよりよく達成できるよう支援するには何が必要なのかというところからデザイン作業を開始しています。

観察、インタビューを通じて、ターゲットとなる人びとの類型的行動の状況を把握し、人びとが実際、何を目的としてその行動を行っているのか、その類型的行動にはどんな行動パターンがみられるかをワークモデル分析やKJ法を用いて分析しました。その結果、分類した行動パターンの数だけペルソナを作成しています(ここは今回ちょっとした工夫もしてますが秘密)。そして、ようやくコンテキストシナリオを描きながら現状の行動にみられる顕在的・潜在的問題を解決するためには何が必要かをアイデア出ししたというわけです。

製品ありきではなく、今回のように、あくまで人びとの行う行動ありきで、そこにどんな物があればよりその行動が円滑になるか、目的をよりよく達成できるようになるかを考えるという場合のほうが、より本来のUCDの良さを発揮できるんだなと、実際に作業を進めていて感じます。

デザインププロセスは知的な重層作業

ここに来るまでは何をつくるかがちゃんと見えてくるかなと不安もありましたが、やっぱり最初からちゃんと組みたてていくと答えは見えてきます。しかも、コンテキストシナリオを使っているので、ちゃんと行動の流れのなかでデザイン要件の抽出ができる。もちろん、それができるのは観察&インタビューの結果をきちんとワークモデル分析で、行動の時系列的流れやコミュニケーションのフロー、物理的環境からの影響などをきちんろ分析していたからで、それを元に現実的なシナリオを考えることができる。

個々の手法が大事なのではなく、そうした手法を組み合わせながら解決案を順をおって組み立てていくことが大事です。
昨日紹介した『多読術』のなかでも松岡正剛さんが「知的な重層作業」と読書という行為を捉えていますが、それとまったくおんなじでデザインのプロセスも結局はこの「知的な重層作業」を行っていくことに意味がある。答えは一気にみえるのではなく、ステップをひとつひとつ上っていくことで次の景色がみえてきて、その繰り返し積み重ねによって最終的な解決策がみえてくるのです。
このデザインプロセスを通じて大小さまざまな発想を重層的に積み上げていく、組み立てていくことができるがというのが、人間中心のデザインを行うひとつのポイントだと考えます。この組み立てができないとちょっときびしい。

属人的作業からグループワークへ

今回もそうした形で、「知的な重層作業」を手順をおって行っています。それが非常にうまくいっている。

やっていて一番おもしろいなと感じるのは、やっぱりプロジェクトに参加している若いメンバーが積極的で、ひとつひとつの作業をきちんと考えながら行っていることでしょうか。
僕自身は今回、アドバイザー的な立場での参加ですので、いっしょに作業の場に参加させていただきながらその都度、アドバイスを行ったり、次の作業をどうするかなどの質問に答えたりしていますが、すべての作業を行っているわけではありません。でも、今回参加しているメンバーは次までの宿題を決めておくと、次の回までには僕が期待してたとおりのアウトプットを出してくるのですばらしい。
基本的には、とりあえずはひとつの作業をする場合は、僕もいっしょになって一回グループワークで作業をしてみる。吸収しようという意欲があれば、その作業の段階で何を目的・具体的なゴールとして、どんなところに注意をしてどんな作業を行わなくてはいけないかがわかるものです。今回のメンバーは非常に優秀で意欲もあるので、残りの作業は僕がいなくても十分期待通りのアウトプットがでてきます。

やっぱり、ひとつはグループワークで作業するというのがポイント。グループワークであれば、参加するメンバーの数だけ、いろんな視点で物事をみることができ、アイデアも出せます。お互いがお互いの発想の触媒になって、しかもアイデアが積み重なってブラッシュアップされるということも起こる。だから、一見、むずかしいと思われていた課題でもしっかりとした方針・解決案がみえてくるんですね。

他人の意見を聞くことなしに自分で行う孤高の才能あるデザイナーは急速に過去の人となりつつある。
クラウス・クリッペンドルフ『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』

まさにこのことばがぴったり。他人の意見を積極的に耳を傾けながら参加するメンバー全員でひとつのデザインをつくりだしていく。これがこれからのデザイナーのワークスタイルになるのだと思います。

人間中心のデザインはやってみるとむずかしくはない

しかも、すこしタイトかなと感じていたスケジュールでしたが、そういう積極的な参加意識やグループワークが実にうまくいっていることもあり、いまのところ問題なくオンスケジュールで進んでいます。

実際にやってみないとむずかしく感じられる人間中心のデザインですが、やってみれば手間はかかりますが、決してむずかしいことではありません。しっかり手順をおって組み立てていけば、ちゃんと解決策がみつかってくる分だけ、属人的な能力にたよるだけの既存の進め方にくらべればはるかにむずかしさはないとあらためて感じています。

クリッペンドルフも『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』で書いていますが、これまでの製品中心、商品・サービス中心の発想のなかでのデザインから、人間にとっての意味に中心をおいたデザインへの転回が今後必要となってくるでしょうし、実際、そちらの方向にシフトしていく流れになっているのでしょう。

  

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