モダンデザインの歴史をざっと概観する2

「モダンデザインの歴史をざっと概観する」<

とはいえ、すぐには自由な発想の新しいデザインが生まれるわけもなく、十九世紀のデザイナーたちは歴史主義と呼ばれる過去の歴史的様式を折衷したスタイルを提案していました。過去の遺産の継ぎ接ぎです。

そうした過去の遺産にすがることなく、まったく新たなデザインの方法が近代に生み出されるためには十九世紀末以降のイギリスでのウィリアム・モリスが主導したアーツアンドクラフト運動やフランスを中心に植物などの自然の形態を用いながらガラスや鉄などの新素材による造形の可能性を模索したアールヌーヴォーを待たなくてはいけませんでした。
アーツアンドクラフト運動やアールヌーヴォーは過去の様式を恣意的に用いる歴史様式、また、産業革命の結果として大量生産による安価な、しかし粗悪な商品があふれた状況を批判するものとして、いったん産業革命や近代化によって分離されてしまった、生活と芸術の統一を目指したのです。

バウハウスと日本民藝運動

この流れが結実させたもののひとつにバウハウスの活動を数えることはできると思います。
バウハウスは1919年にワイマール国立の美術および建築に関する総合的な教育のための学校として設立されています。
日本でいえば、柳宗悦さんが1914年(大正3年)に朝鮮陶磁研究家の浅川伯教との出会いを通じて朝鮮王朝時代の白磁、民画、家具などに興味をもつようになり、その素朴な美を世に紹介することに努め、1923年の関東大震災の大被害を契機に京都に引っ越して濱田庄司さんや河井寛次郎さんらといっしょに本格的に日本民藝運動を展開した時期とほぼ同時期です。ドイツでは第一次世界大戦の傷跡が生々しく残っていた時期ですね。

その時期にバウハウスは建築家のヴァルター・グロピウスが初代校長を務める形で開校している。
バウハウスが目指したのは「芸術と技術の統一」です。多摩美術大学の基礎デザイン学科の創設者でもある向井周太郎さんは『生とデザイン―かたちの詩学1』のなかで、この「芸術と技術の統一」という理念の背景に、当時のヨーロッパにおいては「技術が外なる自然を対象化することで、人間身体を外在化させ道具や機械を生みだし中心化していったのに対して、芸術は人間の内なる自然としての内面性あるいは生の再体験への方向(混沌とした周縁)に向かった」という状況があったことを指摘しています。

労働と生活の場

こうした背景を知らない僕らはついバウハウス的なデザインというと、合理主義的・機能主義的なデザインをイメージしてしまいますが、「芸術と技術の統一」という理念を掲げているだけあって実際には手仕事を重視したのがバウハウスのデザイン教育です。
この点は日本民藝運動の理想とするものづくりと同じです。さらにバウハウスは単にものづくりの工房として労働の場であっただけでなく、マイスター(親方)とレーアリング(徒弟)が共同で暮らす生活の場でもあったそうです。ここでも民藝の問題をたんにものづくりの技の問題だけに還元せず、「器の正しさは制度の正しさを要求する」という言葉に代表されるように労働や生活の基盤となる社会制度の問題として捉えた柳宗悦さんの思想に重なります。

つまり、ヨーロッパと日本の両方でそれぞれ文化的な面での相違はありつつも類似の問題を抱え、同じようにものづくり・デザインの視点から社会的制度、しくみの再構成を進めた運動、プロジェクトが進められていたわけです。

バウハウスと日本民藝運動

バウハウスは1925年にデッサウに拠点を移し、校長がハンネス・マイヤー、ミース・ファン・デル・ローエと変わったりしながらも、1933年にナチスによって閉鎖させられるまで、ものづくり・デザインの方法で新しい社会のしくみを生み出すための提案とその具体的なデザインの方法を生み出しました。
その後、アメリカに亡命・移住したミースがバウハウスの運動を伝えたり、初期に予備課程を担当したヨハネス・イッテンがグロピウスとの対立でバウハウスを去ったあと、後継として予備課程を担当していたモホリ=ナギが1937年にシカゴで「ニュー・バウハウス・シカゴ」を開校するなど、バウハウスが示した近代デザインの方向性はその後も大きな影響を与え続けました。

ただ、残念ながらアメリカで展開されたバウハウスの方法は「芸術と技術の統一」という理念を失い、その機械生産的なデザインの方法論だけが一人歩きし、それが中身は変わらないのに外形だけ変えて新商品として売り出すような商業的なデザインにすっかり変わってしまう。包括的な視点で社会のしくみを生み出していく方法であったデザインが、単なる商品の外面のお化粧直しに堕していきます。
そのアメリカ的な商業デザインの姿勢が戦後の日本にも伝わってくるわけです。日本においてデザインが表面的なスタイルや装飾と考えられる背景にはこうした歴史的な経緯もあるのかなと感じますね。

「モダンデザインの歴史をざっと概観する」<

  

関連エントリー


この記事へのコメント

この記事へのトラックバック