その親和性に関しては、すでに2007年1月に「2つのデザインプロセス」というエントリーを書いていたり、同時期のデブサミ2007でも「Webサイトの提案に困っていませんか? ~ 経営課題とWebサイトをきちんとリンクさせる7 の手法 ~」というタイトルの講演で同じような内容でお話させていただいたりもしています。
ただ、昨日お話させていただいたあと、自分なりに気づいたのはいずれの活動においても継続性が非常に重要でプロセスを浸透させ、クローズドループシステムがまわるようにすることが最終的な目標なのだということでした。
今日はそのことについて書いてみようか、と。
根幹となるプロセス
まずはそのことについて書く前に、僕がどういう風に人間中心設計プロセスとシックスシグマの親和性を感じているかという点からあらためて。ひとつには、両方の活動のプロセスが基本的に以下の形をとるという点です。
- Define:あるべき姿を捉える
- Measure:現状の事実を捉える
- Analyze:あるべき姿と現状のギャップを捉える
- Improve:ギャップを埋める活動を計画し実行する
- Control:活動の実行結果のフィードバックを測定し活動をコントロールする
人間中心設計プロセスのことばに直せば、下記の5つの段階がそのまま「人間中心設計の必要性の特定」「利用の状況の把握と明示」「ユーザーと組織の要求事項の明示」「設計による解決案の作成」「要求事項に対する設計の評価」にあてはまると考えてよいと思います。
図にすると、いつものとおりこれです。説明もいつも書いていますので省きます。

この図がすでに示しているとおり、この基本プロセスはシックスシグマや人間中心設計プロセスだけに関わるものではなく、もっと広い範囲に応用可能な実行のプロセスだと考えます。ただ、今日のところはそこまで話を広げると長くなるので、シックスシグマと人間中心設計にスコープを絞ります。
また忘れてはいけないのは、シックスシグマにしろ人間中心設計にしろ、このプロセスは反復的なプロセスであるということです。反復といってもおなじところをぐるぐる回るのではなく、おなじプロセスをまわしながらも螺旋を描くように継続的改善を行っていくというイメージです。
いずれの活動においてもこの根幹を押さえることが必要だと考えます。
人を捉えるときの姿勢
シックスシグマと人間中心設計の親和性に関するふたつめは、双方の活動が対象とするものと人間との関係の捉え方がおなじだという点です。昨日お話しさせていただいた企業の方がおっしゃっていたのは、シックスシグマ活動は「プロセスを重視してみますが、人をそんなに深くは捉えません」ということでした。僕はその場でも言いましたが、それは人間中心設計でもおなじだと考えています。
基本的に人間中心設計が人間を捉える場合は、特定の物を利用する状況下での人間であり、人間中心設計も結局は物あるいは物の利用に関するインタラクションを重視するのです。
つまり、シックスシグマが業務プロセスの改善という視点からそれに関わる顧客や従業員といったステークホルダーを見るのといっしょで、人間中心設計プロセスも物とインタラクションの改善という視点からそれに関わる利用者とその関係者を見るのです。いずれにおいても人間というものをすべて理解しようなどという驕った考え方はしません。
僕は、人間を知ろうと考え、そのために活動することはとても大切だと思います。
ただ、同時に人間を知ることができるという驕った思い違いはしてはならないとも思います。
「お客さんから学ぶ」でも書いたとおりで、人と人との関係は常にインタラクティブです。それは人対人との関係にとどまらず、人は常にまわりの環境に対してインタラクティブに変化する存在です。それを固定的に捉えることが可能だと考えることが驕った考えだと思います。
シックスシグマでも人間中心設計でも「現状の事実を捉える」=測定することを活動のプロセスのなかで行いますが、結局、それはあくまで「現状の~」という限定がついた事実であり、事実とはそもそもそれを見る人の解釈であることを逃れられないものでもあります。測定にはものさしが必要ですが、そのものさし自体、観察する側の立場という恣意的な条件を含んでいるということは決して忘れてはいけないことだと思います。
プロセスの継続的利用
この点こそが、最初に書いた、シックスシグマでも人間中心設計プロセスでも、いずれの活動においても継続性が非常に重要でプロセスを浸透させ、クローズドループシステムがまわるようにすることが最終的な目標なのだということの理由です。つまり、プロセスにして物にしても、それをデザインするということはシステムの一部を固定するということです。ただ、システムを構成する大事な要素である人間は状況に応じてインタラクティブに変化する性質をもっているために、システム全体が固定されることは決してないということです。
シックスシグマや人間中心設計の活動によって改善が行われれば、そこでは必ず状況の変化が起こります。改善活動そのものが人間が関わる状況を変化させるのです。とうぜんですよね。状況をよくしようと改善活動を行っているのですから。
その活動によって当初測定した「現状の事実」は変化する。そこでそのプロセスや物の利用に関わる人間の要求や問題も変化する可能性をもっているのです。もちろん、状況の変化は活動そのもの以外の要因でも起こりえます。
これはあらゆるデザインを考える際にいえることです。デザインには意図は必要ですが、すべてが意図どおりになることを想定してしまうと間違えます。デザインの先には人間がいるということを忘れてはいけません。プロセスにせよ物にせよ、一度デザインして作って終わりということにはならない。それは人間がインタラクティブな生物である以上、常に改善を行う必要性を有しています。
しかし、そのための改善活動を毎回ゼロからスタートするではあまりに芸がありません。基本的には先に書いたとおりプロセスを反復的にまわすことで改善活動を継続的に実施し、螺旋系で改善の成果をあげていく形をとるのがよいかと考えます。
継続的活動のためにも組織の意思は不可欠
ただ、これを組織として継続的活動として実行できるようにするためには、組織としての明確な意思が不可欠です。企業としての明確な意思がなければ活動の継続性など保証できるはずもありません。昨日の「真似からはじまる自己の再認識」でも書いたとおり、企業は自身の意志を再点検し、意志を行動に移すプロセスを見直すことがときには必要なんだと思います。
付け加えるならば、人間中心設計プロセスはバランストスコアカードの4つの視点では「顧客の視点」に、シックスシグマはそれこそ「業務プロセスの視点」に、それぞれ相当する活動であると考えられ(もちろん利用用途によっては他の視点になる場合も)、これを企業の意思にもとづきほかの財務、学習・成長の視点での戦術ともあわせてバランスさせることを考えるということになるのか、と。
最近、経営品質なんてことを考えるのですが、この活動の継続性をプロセスの浸透を通じて実現できるかということもその条件なんだろうと思ったりします。クローズループシステムがまわるようプロセスを組織に根付かせるためには組織としての意志を明確にする必要があるはずです。
自分たちは何を目的とするのか、どこへ向かうのか、どうやって向かおうとするのか。それがあってはじめて組織のデザインが可能になる。個人においても大切なことですが、組織においても大切なことだと思います。
個人でも自己をなにかしらの要素で構成された組織であると捉えればおなじでしょう。
関連エントリー
- ペルソナとISO13407:人間中心設計プロセスの関係に関するまとめ
- ISO13407:人間中心設計
- 2つのデザインプロセス
- お客さんから学ぶ
- 真似からはじまる自己の再認識
- 自分は粘り強さ、継続性が足りないなと感じる人のための3つの処方箋
- シックスシグマはサービス業のブランディングにこそ
- ブランドのつくりかた:1.シックスシグマを使う
- ブランドのつくりかた:3.顧客インサイトを把握する
- シックスシグマ・ウエイ―全社的経営革新の全ノウハウ/ピーター・S・パンディほか
この記事へのコメント