
基本、いまの会社は自分の仕事は自分でとってくるという営業スタイルなので、僕もとうぜんいろんな会社さんにおうかがいして営業活動もしてはいますし、受注すればしたで今度はコンサルティングをしにやっぱりお客さんのところにうかがうわけです。
そんな風にお客さんと接していると、お客さんから学ぶ機会って結構あります。
何をお客さんから学ぶのかというと、自分のあるべきスタンス、姿勢を学ぶんです。あるいは、自分たちの会社がお客さんにどんなサービスを提供すればよいのかということを学ぶんですよね。
自分の、あるいは、自社のマーケティングを考えるうえではこの上ない貴重な学びです。
ことばの背後にある期待を読む
ただ、学ぶといっても、お客さんが直接答えを教えてくれるわけではありません。お客さんと話をしていると、そのことばや態度から、お客さんが求めているものは何かということが背景として浮かび上がってくるんです。
もちろん、その背後にあるものを読みとれるようになるには、ある程度、場数を踏むことが必要だと思います。
また、普段、他人と話すときでも常に相手が何をいいたいのか、何を望んでいるのかを考えながら話をするという日々の訓練をしておくことも大事だと思います。
僕の場合はさらにユーザー調査の仕事なんかもしてるので、さらにそういう機会がほかの人より多いということはあるかもしれませんが。
相手の期待が読めるとチャンスは広がる
そうやって他人と話をしながらある程度相手のことばや態度の背後にあるものを感じとれるようになり、かつ、その感じとったものと自分ができることをマッチングさせる想像力がはたらくようになると、営業活動やサービス提供時にお客さんから教えてもらうことって本当に多くなります。あっ、もちろん、ちゃんと謙虚にお客さんの力になろうという姿勢がないと、お客さんの期待も伝わってはきませんよ。なんだ、めんどくさいことばかり言うなと思ってお客さんと接していたら、自分たちのマーケティングに役立つ情報を得る機会をみすみす逃してしまっているようなものです。
まぁ、なかにはめんどくさいなと感じることもありますけどね。
相手の期待と自分にできることのマッチングを考えながら話を聞く
このへんはユーザー調査でのインタビューでもおなじなんですけど、その場合でも相手が話している内容そのものは、相手にとっては大事なことのはずですが、聞いている側にとってはそんなに大事なことではなかったりします。これ結構、重要。もちろん、相手にとって大事なことですからちゃんと話を聞く姿勢でいるのは当然ですが、聞いている側としては、相手がことばとして表現する内容だけを聞くのではなくて、なぜ、この人はこの話をしているのかといった、話をする、話す内容を選択するという行為の背後にあるものもいっしょに感じとる努力が大事か、と。
そして、相手のことばの背後にあるものを感じとるためには、常に相手に感じたものと自分が相手に対してできることの関係を探ることを同時にする必要がある。自分で受け止める気がなければ、相手のことばの背後にあるものを感じとるのはむずかしいはずですから。
相手の話を聞きながらその話のコンテキストを探り、そのコンテキストを満たす自分の持ち駒はないか、何か提供できる価値はないかと、いわば即興的なコンテキスチュアル・デザインを頭のなかでやるわけです。
それをしながら話を聞くのとそうでないのとでは、相手に対する理解がまるで違ってきます。
ちょっと話は逸れますが、本を読むのでもおなじことで、ただ書かれた内容を読むだけでなく、常に行間から感じとれるものと自分自身との関連性を探りながら読むと、やっぱり他人の話を聞くのといっしょで、本に対する理解度が違ってきます。
人と人との関係はインタラクティブ
その場合、勘違いしてはいけないのは、自分が感じとった相手の期待は本物かどうかにこだわる必要はないということです。自分が感じとったものが正解かどうかなんて、まったく意味がないことなんですね。
あくまで自分と相手の関係を感じて、次の自分のアクションを考えるわけですから、自分が感じた相手との関係性に正解なんてあるわけないんです。だって、正解かどうかは自分が次のアクションをしてみて、それを相手が気に入ってくれるかどうかで決まるわけですから。
ユーザー調査でユーザーを理解するというのもおなじです。
調査で得たユーザー理解が正しいかどうかなんて問いに意味はない。
本当に意味があるのは、そこに自分たちのビジネスのチャンスを見いだせるか、そして、チャンスをものにできるアクションが起こせるかということです。自分の理解が正しかったかどうかはそのアクションによってしか決まりません。
マーケティングリサーチでも、ユーザー中心設計でのユーザーリサーチでも、結構、この点を勘違いしてしまってる人が多いなと感じます。
人と人との関係は常にインタラクティブです。
誰かとの関係は常に相互作用的であり、相手があるイメージに見えるのはあくまで自分が見ている限りにおいてです。自分の立ち位置が変わったり、相手が自分ではない誰かといっしょにいればそのイメージが別のものに変わってもすこしもおかしくはないのです。
それを何かの物質の成分を調べるかのように、ひとつの決まった正解があることを想定すること自体が間違っているのです。
クローズドループシステム
お客さんに学ぶことが多いというのは、そういう意味でなんですね。まさに自分の次のアクションのヒントをくれる。なので、僕は自分のオフィスにいるより、外でいろんなお客さんと接しているほうが好きです。
そうそう。いろんなお客さんと接していると、お客さんの違いによっておなじことを話しても別のリアクションが返ってくるのでそういうことも自分のアクションを考えるうえで参考になる。
結局、人間ってそういう環境とのあいだで、自分が行動し、それに対してフィードバックがきて、また、それで自分の次の行動を起こすといったインタラクティブな対話のなかで、いろんなことを学び、判断しながら生きているんだと思います。
ノーマンの「行為の7段階理論」ってそういう意味でよくわかるなーと感じます。

そして、組織的なマーケティングというのも、実はこうしたアクション~フィードバックの連鎖が働くクローズドループシステムのあるところに、マーケティングの価値が生まれてくるのかなと思います。
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