いまこそ、個々人にしても、企業にしても、もっているマーケティング力、マネジメント力、デザイン力が試される時期です。
これら3つの環境適応能力をいかにうまく使って自分たちのこの先のプランを描き、変化が必要なところは速やかに変化し、やるべきことをしっかり見定めて実施し、その行動の結果をあらかじめ設定した測定基準に基づき常にチェックしながら、戦術の微調整・戦略の立て直しといった管理を行えるかという能力が試される時期に入っているのかと感じます。
測定できないものは管理できない、記述できないものは測定できない
まずは自分たちのいまいる環境を冷静に把握する力が必要でしょう。必要以上に焦らず周囲をちゃんと見渡して、どこにチャンスがあるのか、そのチャンスをものにするためには何を行う必要があるのかを考える。
これはマーケティングの能力でもあり、デザインの能力でもあります。チャンスを正しく見極め、それを攻略する計画を立てる。また計画の実行に必要な力を速やかに集結し、実行に移す。
もちろん、あらゆる施策には計画段階において、その施策の実行における目的と具体的な成果を定めたうえで評価基準を設けていなければいけません。それがなければ実行の過程において計画がうまく運んでいるかをチェックすることができないからです。もし計画に重大な間違いがあっても実行過程でのチェックのしくみがなければ、途中で気づいて戦略の立て直しをすることもできない。
測定できないものは管理できない。記述できないものは測定できない。ロバート・S・キャプラン 、デビッド・P・ノートン『戦略マップ』
ようするに、その計画はマネジメントを欠いている。
マネジメントもない行き当たりばったりの施策で乗り切れるほど、現在の状況は甘くないのではないかと感じます。
戦略マップ、バランススコアカード、シックスシグマ
こういう状況だからこそ、行き当たりばったりで慌てて事を仕損じるのではなく、落ち着いて自社の現状の問題点とこれからのあるべき姿のギャップを把握した上で、ギャップを埋めるための戦略を、戦略マップやバランススコアカード使って描いてみればよいのだと思います。
「財務の視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「学習・成長の視点」の4つそれぞれに主要成功要因(CSF=critical success factors)を明確にし、各CSFに対して測定可能な目標としての重要業績評価指標(KPI=key performance indicator)を設定する。もちろん、主要成功要因が満たされたとき、戦略の目標である重要目標達成指標(KGI=key goal indicator)が達成できるよう、全体的な戦略の組み立てがなされている必要もあります。
この戦略を組み立てる際には、シックスシグマのロードマップも役に立つはずです。
- ステップ1:コア・プロセスと主要顧客の把握
- ステップ2:顧客要求の定義
- ステップ3:現行パフォーマンスの測定
- ステップ4:改善活動の優先順位づけ、分析、実行
- ステップ5:シックスシグマ・システムの拡張と統合
何より自分たちのビジネスのコア・プロセスを明確にすると同時に主要顧客が誰かを把握することが必要です。その上でSIPOCダイアグラムなどを用いて、主要顧客の要求とコア・プロセスのあいだのギャップを測定し、問題点をみえるようにする。この見直し作業をいまのうちに行っておくのがよいのではないかと思います。
先の戦略マップとバランスとスコアカードは、このシックスシグマのロードマップにおける「ステップ4:改善活動の優先順位づけ、分析、実行」および「ステップ5:シックスシグマ・システムの拡張と統合」に用いるとよいでしょう。
人間中心設計プロセスの方法の活用
また「ステップ1:コア・プロセスと主要顧客の把握」や「ステップ2:顧客要求の定義」では人間中心設計プロセスの上流工程における方法も利用可能なはずです。顧客要求の定義などはまさにペルソナやシナリオを使って行えます。頭のいい方はこれで気づくはずですが、「ステップ3:現行パフォーマンスの測定」などは、プロトタイプまたはテストマーケティングを用いたユーザーテストだと捉えるとよいのです。
本来「能動的」とは、事態が起こる前に行動する姿勢、つまり「受動的」と対極にある姿勢を指す言葉である。だが「能動的」経営管理と言った場合は、新たな「習慣」を生み出すという意味合いが強くなる。こうした習慣は、意欲的な目標設定と頻繁な見直し、明確な優先順位の設定、事後的な消火活動よりも問題予防的な行動の重視、「いかにして行動するか」という現状維持的な発想に代わり、「なぜ」この活動が必要なのかを自問すること、といった軽視されがちなビジネス・プラクティスから成っている。ピーター・S・パンディほか『シックスシグマ・ウエイ―全社的経営革新の全ノウハウ』
ようするに事前の計画の組み立てが大事です。
いまだからこそ、戦略立案能力、問題発見能力、要求定義能力といったデザインの上流工程における能力が、マネジメントの分野で試されているのです。
また、それはマーケティングの領域においても同様です。
マーケターは次の3点で失敗することが多い。すなわち、(1)ブランドをポジショニングするため、顧客に関する知識を利用する能力の欠如、(2)従来型のメディアを超えてブランドを広める能力の欠如、(3)ブランド・マネジメントのために組織・文化・情報を支援するのに必要な、顧客視点でのプロセス形成能力の欠如である。デイブ サットン 、トム クライン『利益を創出する統合マーケティング・マネジメント』
特に3番目の「顧客視点でのプロセス形成能力」が重要になっている。このプロセスのデザイン能力がなければ、この厳しい状況において効率よくマーケティング戦略を立て直し、実行可能な状態にすることはむずかしいでしょう。
マネジメントの領域でも、マーケティングの領域でも、いまこそデザイン能力の有無が試されてるのだと思います。
環境適応能力、自ら変化する力
何よりこの状況において大事なことは、環境適応のために自ら必要な変化が何かをとらえ、恐れず必要な変化を実行するということでしょう。ここで変化を恐れて何もしないのなら、この先もどんどん不況の波に飲まれて窮地に追い込まれるだけなのではないでしょうか。
シックスシグマ・レベルの品質に近づくには、新しいアイデアと手法が必要だ。だが、それにはある程度のリスクが必ず伴う。サービス改善やコストの削減、新しい能力開発など(すなわちより完璧に近づく方法)につながる有効な方法を見出した者がいたとしても、失敗したときの結果を極度に恐れてしまうと、絶対に試そうとはしないだろう。その結果、パフォーマンスは停滞から下降に向かい、最終的には倒産へと至る(まさに惨憺たるシナリオである)。
まぁ、普段からこれができている企業は、この時期に急に慌てたりもせず、普段どおりのプロセスのなかで戦略の見直しなどが行われているのではないかと思います。そう。これは何も特別なことではなくて、マーケティング、マネジメントを行おうとすれば当たり前にやっておくべき戦略の検討、デザインなのです。むしろ、こういうことが普段からできていないから、不況になると必要以上にあわてなくてはいけなくなる。
ただ、これまでそれができていなかった企業もいまこそ自分たちの姿勢を見直し、きちんとしたマーケティング、戦略のデザイン、マネジメントを組み立てなおす時期なのではないかと思います。
個人も「自ら変化する力」がないと危うい
ここまで書いてきたことは、どちらかといえば企業にとって重要な事柄なのでしょうけど、個人にも無関係なものではありません。この状況において何もせずにじっとしているのなら、自分自身どころか、まわりをも窮地に追い込んでしまうはずです。慌てる必要はすこしもないと思いますが、ただ何もせずに悠長にかまえていられる余裕もないはずです。
自ら状況を把握し、これからどこへ向かえばよいかを見定め、そのためにはどんな行動が必要かを考え、計画に落とし込んで実行する。そういったプロセス全部を含めた意味での実行力がいまなにより必要とされるはずです。
自ら変化する力。それがないのなら、残念ながらこの先はあまり楽しい世界ではないのだろうと感じます。
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この記事へのコメント
大石 高至
サプライチェーン協会で、サプライチェーンとデザインチェーンの
インストラクターをしている大石と言います。
日本の企業の場合、プロセス形成能力を組織能力として定義していないですね。
その欠如がマーケティングや製品開発の性能を決定的に悪化させているようです。
何とか、それに気付くように働きかけを行いたいと思っています。