最初にこれだけは書いておこう。
はじめにラフな形でも売れるしくみの絵が描けていなければ、マーケティング・コミュニケーションは成功しない、と。最初は木を見るのではなく森を見る視点が必要なのだ、と。
時間は何より大事なので、絵はコミュニケーションをはじめる時点では一部は「絵にかいた餅」であってもよいが、全体の売れるしくみの絵すら描けていないのであれば、成功はおぼつかない。
やってみないとわからないというのは「絵にかいた餅」があってはじめて言えることで、絵すら描けないのならやってみるまでもなく結果はわかっているのだ。
ということだけ、最初に書いておいて、あとは思いつくまま、雑多に。
内容はどちらかといえば、大手企業よりは中堅以下の規模の企業向けですし、物理的な商品よりはサービスを販売している企業向けでしょうか。それでもよろしければご参考に。
何を、何のために、どうやって
どういう表現をとるかは別として、マーケティング・コミュニケーションのためのメッセージには次の3点が含まれていなくてはいけない。- あなたが提供するものは何なのか?
- それは何の役に立つのか?
- 何故、それができると思うのか?
「あなたが提供するものは何なのか?」という問いは、自分たちの商品・サービスを顧客にどう知ってもらうのか、どう認知してもらうのかに関するものだ。自分たちが商品をどう思っているのかではなく、顧客にどう感じてもらうのか、そう感じることは顧客にとって意味のあるものかということである。
次の「それは何の役に立つのか?」という問いは、その商品が本当に顧客が必要としていること、欲していることを満たす能力を有しているのかに関する問いである。その商品・サービスを提供することで、顧客の生活、顧客の業務がどう変化するかを伝えるメッセージである。
3つ目の「何故、それができると思うのか?」という問いは、自分たちが何故、商品・サービスを通じて顧客が求める価値提供を行えるかを納得してもらうためのメッセージに関するものだ。価値提供が可能な技術力はあるのか、人材は揃っているのか、顧客のことを理解して親身になって接するつもりはあるのか、社会の問題、環境の問題にいかに配慮をしているのか、何が他社とは違うのか。何より、そうしたことを顧客に対して真剣に伝えようとする気持ちはあるのか、である。
商品・サービスこそがメッセージだ
この3つの要素からなるメッセージは、商品・サービス単位で伝えればいいのではない。そうではなく顧客にとっての価値という単位で伝えるべきだ。たとえ異なる顧客がそれぞれ求める価値を提供するのに同じ商品・サービスを通じて、その価値を提供する場合でも、商品・サービスの視点でメッセージを1つに括ってしまうのではなく、顧客がそれぞれ別の価値を要求するのならそれぞれに対して別のメッセージを用意すべきだ。必要ならば同じ商品・サービスであっても、別の名前の別の商品としてみせたほうがよい。
Webページでコミュニケーションを図ろうとするならなおさらだ。何も一般大衆として括って同一のメッセージを違う価値を要求する顧客に対して発信する必要はない。あまりにバラバラにしすぎても問題だが、ある程度は顧客の要求するニーズごとに同じ商品・サービスでも別のものとしてコミュニケーションをしていくほうがよい。結局、営業フェーズに入れば顧客との1対1対応になるのだから、顧客へのメッセージは早い段階から顧客向けにある程度カスタマイズしておいたほうがよいのだ。
忘れてはならないのは、商品・サービスこそが市場とのコミュニケーションそのものだということだ。顧客とのコミュニケーションを維持するためには企業は常に新しい商品・サービスを提供し続ける必要がある。常にだ。
もし顧客のニーズに応じた商品・サービスを継続的につくりだすことができないのなら、自社のマーケティング・コミュニケーション能力を一度疑ってみることをおすすめする。
バランスト・スコアカード
マーケティング・コミュニケーションは決して商品・サービスの単位でのみ行えばよいわけではない。その商品・サービスを提供する企業のすべての面を必要あらばきちんと伝えていく必要がある。Webサイトは企業の縮図である。企業として顧客にどう見られたいか。そう見られることで自分たちの商品・サービスに興味をもってもらえるか、信頼・安心感を感じてもらえるか。そういうことを踏まえたうえで企業全体をどう伝えるかを構成する必要がある。
企業のすべての面とは何かを考えるうえでは、バランスト・スコアカードの4つの視点が参考になる。
- 財務の視点:どれだけの営業実績があるか。経営は健全か。ほかの顧客もその企業のことを信頼して付き合っているかの指標を与える。提供するサービスによってはその企業のIR情報さえ、顧客にとってのマーケティング・メッセージとなりうる。
- 顧客の視点:顧客の視点でのメッセージの中心は商品・サービスの紹介である。ただ、商品・サービス情報のみでそれを伝えるのでは足りない。関連する情報として、顧客の声や導入実績、セミナーやイベントの情報、環境への配慮や社会活動なども顧客の信頼や安心感を醸成するメッセージとなる。
- 業務プロセスの視点:業務プロセスを顧客に対してブラックボックスにする必要はない。プロセスをきちんと見えるようなメッセージを与えることで顧客の信頼が得られることは少なくない。また、高度に組み上げられたプロセスそのものが顧客を魅了することもある。
- 学習と成長の視点:結局、企業は人である。企業のなかでどんな人が働き、どんな努力をしているのかは、就職活動中の学生だけの関心事では決してない。企業のなかで人がどんな学習をし、どんな研究を行っているか、そうした人びとを組織はどのように支援しているか。結局、そういう人の顔が企業のブランドパーソナリティを形づくっていく。代表者の顔だけが目立っているのでは、組織ではない。いろんなパーソナリティをもった人びとが集まった組織をみせることのほうがブランドパーソナリティにはるかに厚みを与える。
このバランスト・スコアカードの4つの視点はあくまで企業の全体が何で構成されているかを考えるフレームワークの一例にすぎない。どんなフレームワークで構成を考えるかは、その企業が提供するサービスや主要顧客が誰かなどによって変わる。自分たちにあったフレームワークで、企業コミュニケーションの形を考えてほしい。
大事なことは、商品・サービスを通じて顧客に価値提供をしている自分たち組織がいったい何者なのかをきちんと伝えることである。
コミュニケーションは継続的に
最後に大事なことを。商品・サービスに関するコミュニケーションにせよ、企業コミュニケーションにせよ、Webでのマーケティング・コミュニケーションを考えるなら、情報発信は継続的に行い続けなくてはいけないということだ。継続的に行うというのは、最低でも週に1回程度は顧客に対する情報発信を行い続けるということである。
もちろん、それにはブログを利用してもいい。ただ、ブログだけが更新されるだけではだめだ。商品やサービスも継続的に発表し続ける必要があるし、Webでのコミュニケーションだけでなく、プレスリリースも併用する必要がある。
では、何を継続的に発信していけばよいのか。情報コンテンツの種類はいろいろあると思うが、結局は以下のようなプロセスで、ひとつのコンテンツを一度の更新で終わらせずに、ある程度の期間、コミュニケーションをし続けることが大事だ。
- 宣言する
- 経過を報告する
- 結果を伝える
- 日々の改善努力を伝える
もちろん、こうしたコミュニケーションを継続的に行うためには、最初に「絵に描いた餅」が必要だし、その「絵に描いた餅」を実際の餅に変えていく活動やその経過を継続的に伝えていくための体制も必要である。もちろん、計画には目的とゴールが含まれているはずだから、常にゴールへの達成率を図り、計画どおりにいかないところがあれば、常に改善ができるような管理体制も整えておく必要があるだろう。
こう書くと何やら大変なことのように思われるかもしれないが、大変だと思うなら最初に描く餅を小さめにするとよいだろう。最初は小さくはじめても継続的に続けることで、徐々に規模を大きくしていく方法はその継続のなかでわかってくるものだ。
大変だといって何もやり始めないことが一番の問題だろう。売るつもりがないというのなら、それでもかまわないのだろうが。
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